上 下
7 / 45

第七話

しおりを挟む
「滅んだ原因は分からないけど……、イオスは私を助けようとしてくれてたんでしょう? 私が後宮に行かなくて済んだのもイオスのおかげだって聞いたよ」

「金がないのが問題なだけなら、オレの私財を渡せば済むからな」

「嬉しくてみんなで喜んでたら、内乱が起きてあっという間に城は制圧されたわ。王族しか知らないエリアも、隠し部屋もあっさり見つかってみんな捕まった。私は、フォス様が助けてくれたの。……そう……思ってたの」

「隠し部屋……まさか、幼い頃セーラが内緒だって教えくれた部屋か?!」

「そう、そこ。家族以外は、イオスとフォス様しか知らないし、あっさり見つかったのはイオスが情報を流したからだってフォス様に言われたわ。私財をほとんど提供したのに、すぐ私を差し出さなかったからイオスが怒ったって」

「んな訳あるかよ! あの時は皇帝から視察の仕事が済んだらセーラと婚約出来るって聞いて、必死で仕事してたんだよ。手紙は送ったぜ。返事来ねえから2回送った。1ヶ月しても、音沙汰ねぇからおかしいと思って調べようとしたら、オレの送った手紙と、セーラからの助命嘆願の手紙が同時に来たんだよ」

「うそ……」

「確かにセーラの字なのに、まるでオレを恐れてるような文章だったから、読んですぐにセーラの国に行ったけど、間に合わなかった。ごめん……」

「ううん、私こそごめんなさい……イオスはこんな事した私にも優しくしてくれるし、怒って人殺しなんてする人じゃないのに……なんで、なんで疑ったのかなぁ。私、馬鹿だね……」

セーラの目からは、涙が溢れている。イオスはハンカチでセーラの涙を拭きながら苦しそうに言った。

「オレはセーラが思ってる程優しくねぇぞ。階段で聞いてたんなら分かるかもしれねぇけど、暗殺者は何人も殺してる。話が分かる奴は解放してるけど、兄貴に心酔してまったく会話が通じない奴はさっきみたいに跡形もなく焼き尽くしてるぞ。セーラに見せかけた遺体だって、ちょっと前に襲ってきた暗殺者だ。オレのどこが優しいんだよ」

「でも、イオスは私を助けてくれたよ。さっきだって、なんで私を殺さなかったの?」

「セーラを殺せる訳ねぇだろ」

「そうじゃなくて、私の服を切った時、イオスならすぐ私を殺せたよね? いつもああやって、最初は力の差を見せつけて、追い返してるんじゃないの?」

「何人も殺すのは面倒だからな。それでも向かって来る奴は容赦なく始末してるぞ」

「やっぱりイオスは優しいよ」

「オレを優しいなんて言うのはセーラだけだ。オレはみんなから恐れられてるからな。優しい兄貴と、怖い弟。皇帝陛下の跡を継ぐのは兄貴が相応しいってな」

「そんな事ない! イオスは、イオスは優しいよ……。私が、イオスを信じられたら……何か違ったのかなぁ……」

「これからはオレが守るから。今は泣きたいだけ泣いてくれ。オレこそ、セーラがいちばんつらい時に側に居なくてごめんな。……なぁ、セーラを抱きしめても良いか?」

「うん……うん……」

イオスは、恐る恐るセーラを抱きしめた。セーラは泣き崩れながらも、もっと強く抱きしめてと懇願する。

「悪りぃ、まだあんまり力が入らねぇや。毒が抜けたらもっと強く抱きしめられるのになぁ。なぁ、セーラがオレを抱きしめてくれよ」

「イオス……イオス……」

強く抱きしめる事が出来ないイオスに、セーラが力いっぱい抱きつく。イオスも嬉しさのあまり涙が止まらない。セーラが泣き疲れて眠るまで、ふたりは泣きながら抱きしめ合っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

(完)実の妹が私を嵌めようとするので義理の弟と仕返しをしてみます

青空一夏
ファンタジー
題名そのままの内容です。コメディです(多分)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

処理中です...