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第一話

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イオス・エクリーポは、皇帝の次男だ。あと半年で兄と自分のどちらかが皇帝になる。その事が発表された謁見の間で、イオスは皇帝である父に直談判した。

「父上、以前から言っておりますが、私の継承権を放棄させてください。私は継承権を放棄し、陰ながら兄上を支えたいのです。兄上は優秀ですから、可能でしょう?」

「ならぬ」

ちっ……またか。父の感情のない返答を聞き、イオスは心の中でため息を吐く。炎の魔力を持つイオスは、感情が昂ると身体から炎を出す。周りに感情を悟られない様に、イオスは必死で冷静さを装う。今は多数の貴族が見ている謁見の間。取り乱す訳にはいかない。魔力持ちは少なく、特に炎の魔力を持つ者はその性質故に人々から恐れられやすいのだから。

イオスと共に仕事をする大臣はホッとした顔をしているが、悔しそうな貴族も多数存在した。それらは全て、兄であるフォスを支持する貴族達だ。

「父上! イオスに継承権は重いのですよ。私が継ぐから心配ないのですがね。イオスは王族でなくなっても私を支えてくれます。どうか、かわいい弟の望みを叶えてあげてください」

フォスは、皇帝の長男で水の魔力がある。美しい容姿と、柔らかな物腰で市民の人気は高い。

「ならぬ。王位継承権があるのは直系ではフォスとイオスのみだ。どちらが皇帝になるかは、半年後の投票の結果を見てワシが決める。例えフォスが王位を継いでもイオスの継承権は放棄してはならぬ。これは法で決まっており皇帝であるワシでも変更は容易ではない。そして、ワシは変更する気はない」

「……かしこまりました。残念だったな、イオス」

残念だったのはテメェだろ。イオスは、喉元まで出そうになった言葉を飲み込む。笑顔の兄に、心にもない感謝の気持ちを伝える。

「お気遣い頂きありがとうございます兄上。私はこれからも、兄上を支えていきたいと思っています」

表面上は、仲睦まじい兄弟を演じているが、兄であるフォスは、度々イオスを暗殺しようと暗殺者を仕向けたり、毒を仕込んだりしていた。

アイツは水の魔力じゃなくて、毒の魔力持ちじゃねぇの? イオスがそう思う程に、毒はしょっちゅう仕掛けられている。イオスの侍女も、侍従もフォスの味方なのだから仕掛けるのは容易い。

その為、イオスは毒に慣れており常人ならすぐに死ぬ毒でも、1日苦しむくらいで済んでいる。それがフォスは気に入らず、暗殺者を仕向ける。

毒に慣らされ、暗殺者に何度も殺されかけているうちにイオスの腕はずいぶん上がっており、今ではフォスが仕掛ける暗殺者は、全てその場で始末できる程になっていた。

母も死に、身内は命を狙う兄と何事にも無関心な父のみ。周りは敵だらけで、イオスは孤独だった。

だが、イオスは決して友人等は作らない。

「そうか、では今後も兄弟仲良く過ごせよ」

「「かしこまりました」」

謁見を終えた兄弟は、お互いの顔を一切見ずに去っていく。おそらく今日は暗殺者が仕向けられるだろう。兄の行動が手に取るように分かるイオスは、夜間の襲撃に備えて早めの仮眠を取ることにした。
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