令嬢と執事の婚約破棄計画

編端みどり

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20.帰る場所

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イオネスコ侯爵は息子の教育が不足していたと爵位をステファンに譲り、クリストフとアリーゼを伴い領地に帰ろうとした。だが、アリーゼは逃げ出した。クリステルとステファンはアリーゼの事だから逞しく平民として生きてるだろうと言ったが、マリアベルとジョゼは怪しい笑みを浮かべていた。

クリストフは父親に監視され領地で大人しく過ごしている。アリーゼが逃げてしまったが、クリストフは既婚者のままだ。

イオネスコ侯爵家の屋敷にはステファンとマリアベルが住み、クリステルは結婚までの日々をマリアベルと姉妹のように過ごした。クリステルは生まれて初めて幸せな家族団欒の日々を過ごした。食事中に歓談するのがこんなに楽しいとは知らなかった。嬉しそうにジョゼに報告するクリステルを見て、ジョゼは少しだけ嫉妬心を抱いた。

「クリステル、俺と結婚したらもっと幸せだからな!」

「え、そんなの当然じゃない。ジョゼが夫になってくれるなんてわたくしは世界一の幸せ者だわ!」

元々ジョゼの事を信頼していたクリステルは、真っ直ぐな愛情をジョゼに向けた。すると、ジョゼは真っ赤な顔でクリステルを抱き締めるのだ。

ジョゼの熱烈な告白から1年後、クリステルはジョゼと結婚した。

クリステルの家族が結婚式に乱入しようとしたが、王太子殿下がひと睨みすると、すごすごと去って行った。

ステファンはクリステルが結婚した次の日にジュベール侯爵家と縁を切った。契約違反だと抗議が来たが、ステファンは涼しい顔で言った。

「クリステル姉さんがジュベール侯爵家にいる限り、と記載があるでしょう? 姉さんを切り捨てたのはそちらだろう。縁を切っていると知っていたのに1年も取引を続けた事に感謝して欲しいですね。これ以上文句を言うなら、正式に裁判で争いましょう」

ステファンの正論に、返す言葉もなく引き下がるしかなかった。それから、ジュベール侯爵家の評判は下がり続けている。

妻が大事なジョゼは、クリステルの耳に入らないように必死で情報を止めていた。だが、社交界は魔窟。あっさりとクリステルの耳に入ってしまう。だけどクリステルは笑顔で言い切った。

「要らないと言ったのはあちらですもの。気にしませんわ。それより……」

上手に話題を逸らし、社交界を渡り歩いた。

「やっぱりクリステルは優秀だね」

王太子殿下は、そう言っていつもクリステルを褒める。すると、ジョゼの機嫌がみるみる悪くなるのだ。

「……俺の妻ですよ」

「分かってるよ。それよりジョゼ、とっても大事な仕事を頼みたいんだけど」

「遠出以外ならやりますよ」

「全く、次期国王の命令に条件を付けるなんて君くらいだよ」

「俺の主人は今でもクリステルです。執事として、主人を最優先するのは当然でしょう?」

「……じゃあ、私はなんなのかな?」

「忠誠を誓った、上司ですね」

「やられたね。分かった、明日までコレを仕上げてくれたら遠出は無しだ。上司の命令は聞くものだろう?」

ジョゼは今日も、明日も、クリステルの元に帰る。彼は一生、クリステルの執事なのだから。
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