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14.修道院へ
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ジョゼが深夜に出かけた次の日、イオネスコ侯爵がクリステルと父親を訪ねて来た。イオネスコ侯爵は婚約の解消と慰謝料の申し入れを行い、クリステルの望む限り家同士の取引を続けると約束した。
「申し訳ない! 愚息の我儘で大事なご令嬢を蔑ろにしてしまいました! どうか、今回の婚約は無かった事にして下さい」
「……残念ですが、ここまで誠意を見せられては頷くしかないですな。クリステル、お前がしっかりしていないからこんな事になったんだぞ」
「違います。クリステル様は一切悪くありません。彼女は優秀で、息子とも上手くやっていました。うちの息子が愚かだっただけなのです。どうか、クリステル様を責めないで下さい。彼女は一切悪くありません」
「そ、そんなに頭を下げないで下さい! イオネスコ侯爵と私の仲じゃありませんか」
「クリステル様を責められるなんて申し訳なくて……本当に、彼女は悪くないんです」
『ふむ、クリステルの事などどうでも良いが、これは我が家が有利に出られそうだな』
「クリステルの次の縁談は難しくなるでしょうな。もしかしたら……結婚させる事が出来ないかもしれません」
「そんな……! それだけはいけません! では、慰謝料の他にクリステル様のご縁談をご紹介します。今すぐに!」
そう言って、イオネスコ侯爵は退室した。
「ふん、役立たずめ。わがまま娘に侯爵夫人は荷が重かったか。ま、結婚しなくても同じ条件で取引が続くなら良い。なんなら、修道院にでも行ったらどうだ? イオネスコ侯爵家から、更に搾り取れるだろうな」
父の言葉を黙って聞いていたクリステルは、本当に修道院に入ろうかと悩み始めていた。
『クリスと縁が切れたのは良かったけど、やっぱり次の結婚は難しくなるわよね。修道院に行ったらジョゼと会えないし……お父様のご様子を見ると、明日にでも修道院に入れられてしまいそうね。洗礼も受けさせられるだろうし、困ったわ』
修道院は、花嫁修行などで仮入所する場合と生涯神に仕える為洗礼を受けて入所する場合がある。洗礼を受けて入所してしまえば、例え王族でも俗世に戻れない。
「では、旦那様のご命令通り今すぐお嬢様を修道院にお連れします」
「おお、ジョゼか! 気が効くな! では、そうしておけ」
「承知しました。旦那様のご命令は、お嬢様を修道院にお連れする。で、よろしいのですよね?」
「うむ。それで良い」
「かしこまりました。お嬢様、参りましょう」
「なんで……わたくし、もうこの家に居られないの?」
「ああ、結婚も出来ん役立たずは要らん!」
「そんな……!」
泣きそうになるクリステルを連れて、ジョゼは家を出た。侯爵は、深夜になって執務机にジョゼの退職届と執事服が置かれていた事に気が付き慌ててジョゼの実家に行ったが、ジョゼは修道院に行くと言い残し家の戸籍から外れたと伝えられて悔しがった。
優秀な執事を1人失ったと嘆いたが、仕事の忙しさに追われてすぐに忘れた。
修道院からクリステルと縁は切ったのかと問い合わせがあり、あっさりと縁切りを認めた父はクリステルの行方を調べようとしなかった。
彼は後に、後悔する事になる。
「申し訳ない! 愚息の我儘で大事なご令嬢を蔑ろにしてしまいました! どうか、今回の婚約は無かった事にして下さい」
「……残念ですが、ここまで誠意を見せられては頷くしかないですな。クリステル、お前がしっかりしていないからこんな事になったんだぞ」
「違います。クリステル様は一切悪くありません。彼女は優秀で、息子とも上手くやっていました。うちの息子が愚かだっただけなのです。どうか、クリステル様を責めないで下さい。彼女は一切悪くありません」
「そ、そんなに頭を下げないで下さい! イオネスコ侯爵と私の仲じゃありませんか」
「クリステル様を責められるなんて申し訳なくて……本当に、彼女は悪くないんです」
『ふむ、クリステルの事などどうでも良いが、これは我が家が有利に出られそうだな』
「クリステルの次の縁談は難しくなるでしょうな。もしかしたら……結婚させる事が出来ないかもしれません」
「そんな……! それだけはいけません! では、慰謝料の他にクリステル様のご縁談をご紹介します。今すぐに!」
そう言って、イオネスコ侯爵は退室した。
「ふん、役立たずめ。わがまま娘に侯爵夫人は荷が重かったか。ま、結婚しなくても同じ条件で取引が続くなら良い。なんなら、修道院にでも行ったらどうだ? イオネスコ侯爵家から、更に搾り取れるだろうな」
父の言葉を黙って聞いていたクリステルは、本当に修道院に入ろうかと悩み始めていた。
『クリスと縁が切れたのは良かったけど、やっぱり次の結婚は難しくなるわよね。修道院に行ったらジョゼと会えないし……お父様のご様子を見ると、明日にでも修道院に入れられてしまいそうね。洗礼も受けさせられるだろうし、困ったわ』
修道院は、花嫁修行などで仮入所する場合と生涯神に仕える為洗礼を受けて入所する場合がある。洗礼を受けて入所してしまえば、例え王族でも俗世に戻れない。
「では、旦那様のご命令通り今すぐお嬢様を修道院にお連れします」
「おお、ジョゼか! 気が効くな! では、そうしておけ」
「承知しました。旦那様のご命令は、お嬢様を修道院にお連れする。で、よろしいのですよね?」
「うむ。それで良い」
「かしこまりました。お嬢様、参りましょう」
「なんで……わたくし、もうこの家に居られないの?」
「ああ、結婚も出来ん役立たずは要らん!」
「そんな……!」
泣きそうになるクリステルを連れて、ジョゼは家を出た。侯爵は、深夜になって執務机にジョゼの退職届と執事服が置かれていた事に気が付き慌ててジョゼの実家に行ったが、ジョゼは修道院に行くと言い残し家の戸籍から外れたと伝えられて悔しがった。
優秀な執事を1人失ったと嘆いたが、仕事の忙しさに追われてすぐに忘れた。
修道院からクリステルと縁は切ったのかと問い合わせがあり、あっさりと縁切りを認めた父はクリステルの行方を調べようとしなかった。
彼は後に、後悔する事になる。
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