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9.裏はなんだ【ジョゼ視点】
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「王太子殿下が話をして下されば、ジュベール侯爵は納得してくれるだろう。渋られたら慰謝料を上乗せする。それでもクリステルが責められるような事があればすぐ教えてくれ。我々は、出来る限りのサポートをする」
イオネスコ侯爵が、申し訳なさそうに俺に言う。相変わらずこの方は清廉潔白だ。こんな人だから、結婚すればお嬢様は幸せになれると信じられた。なんで息子がああなったのか、全く理解出来ん。
「お心遣いに感謝致します。あの……私が聞いて良い事ではないのでしょうが……」
「なんでも聞いてくれ。ジョゼはクリステルの執事だろう。この場はクリステルの代理だと思ってくれて構わない。身分を忘れて、気になる事はなんでも話してくれ」
よっし!
これで王太子殿下以外の方に質問する権利を得られた。こんなチャンス、今しかない。全て聞きたい事を聞いてやる。
「では、恐れながら申し上げます。お嬢様はクリストフ様との婚約破棄を望んでおられます。今回の件は、クリストフ様有責での婚約破棄と思ってよろしいのでしょうか?」
「勿論だ! クリステル様は何も悪くない! 悪いのは全てこちらだ! ああでも、口で言っても駄目だな。父上、今すぐ書面にしましょう。王太子殿下に証人になって頂くのです」
「そうだな。そうしよう。侯爵家への申し入れは明日だ。この書面が表に出る事がないように誠実に対応すると約束するよ」
そう言って、あっさりと書面を書いて下さった。お嬢様は侯爵夫人の教育をしっかり受け、クリストフ様と良好な関係を築いていた事。クリストフ様がアリーゼ様の誘惑に負け、嘘を信じ、お嬢様を裏切った事。非は全てクリストフ様にあり、お嬢様は一切悪くない事。クリストフ様有責で婚約者破棄とする事。お嬢様に、賠償金を払う事。驚いた事に、金額まで書かれていた。しかも、旦那様にはお嬢様個人に賠償金を払う事は内密にすると書かれている。つまり、旦那様には別途賠償金を払うつもりだという事だ。誓約書として、イオネスコ侯爵、ステファン様の名が並び、証人に王太子殿下のサインと貴重な印鑑まで押してある。これを俺が王城に持って行けば、国王陛下との謁見が叶う。俺は子爵家の息子で、跡取りですらない。そんな下っ端貴族に王族が書類を渡すなんて信じられん。しかも、彼等は控えもいるだろうと同じ書面を2枚渡してくれた。どうなってんだ。
「こんなに良くして下さるのは何故でしょうか?」
聞いて良いんだよな?! 質問オッケーなんだよな?! 恐る恐る口を開くと、王太子殿下が人懐っこい笑みを浮かべた。
「だから、クリステルを僕が貰おうかなって」
聞いたのは貴方ではありませんよ殿下?!
だが、殿下のお言葉に急激に頭が冷えた。
……本気で、お嬢様を妾にするつもりなのか?
いや、違う。
俺は王太子殿下とは初対面だが、愛妻家だと聞いてる。それに、侯爵様はともかくステファン様が何も言わないなら王太子殿下の言葉の裏に何かある。
イオネスコ侯爵が、申し訳なさそうに俺に言う。相変わらずこの方は清廉潔白だ。こんな人だから、結婚すればお嬢様は幸せになれると信じられた。なんで息子がああなったのか、全く理解出来ん。
「お心遣いに感謝致します。あの……私が聞いて良い事ではないのでしょうが……」
「なんでも聞いてくれ。ジョゼはクリステルの執事だろう。この場はクリステルの代理だと思ってくれて構わない。身分を忘れて、気になる事はなんでも話してくれ」
よっし!
これで王太子殿下以外の方に質問する権利を得られた。こんなチャンス、今しかない。全て聞きたい事を聞いてやる。
「では、恐れながら申し上げます。お嬢様はクリストフ様との婚約破棄を望んでおられます。今回の件は、クリストフ様有責での婚約破棄と思ってよろしいのでしょうか?」
「勿論だ! クリステル様は何も悪くない! 悪いのは全てこちらだ! ああでも、口で言っても駄目だな。父上、今すぐ書面にしましょう。王太子殿下に証人になって頂くのです」
「そうだな。そうしよう。侯爵家への申し入れは明日だ。この書面が表に出る事がないように誠実に対応すると約束するよ」
そう言って、あっさりと書面を書いて下さった。お嬢様は侯爵夫人の教育をしっかり受け、クリストフ様と良好な関係を築いていた事。クリストフ様がアリーゼ様の誘惑に負け、嘘を信じ、お嬢様を裏切った事。非は全てクリストフ様にあり、お嬢様は一切悪くない事。クリストフ様有責で婚約者破棄とする事。お嬢様に、賠償金を払う事。驚いた事に、金額まで書かれていた。しかも、旦那様にはお嬢様個人に賠償金を払う事は内密にすると書かれている。つまり、旦那様には別途賠償金を払うつもりだという事だ。誓約書として、イオネスコ侯爵、ステファン様の名が並び、証人に王太子殿下のサインと貴重な印鑑まで押してある。これを俺が王城に持って行けば、国王陛下との謁見が叶う。俺は子爵家の息子で、跡取りですらない。そんな下っ端貴族に王族が書類を渡すなんて信じられん。しかも、彼等は控えもいるだろうと同じ書面を2枚渡してくれた。どうなってんだ。
「こんなに良くして下さるのは何故でしょうか?」
聞いて良いんだよな?! 質問オッケーなんだよな?! 恐る恐る口を開くと、王太子殿下が人懐っこい笑みを浮かべた。
「だから、クリステルを僕が貰おうかなって」
聞いたのは貴方ではありませんよ殿下?!
だが、殿下のお言葉に急激に頭が冷えた。
……本気で、お嬢様を妾にするつもりなのか?
いや、違う。
俺は王太子殿下とは初対面だが、愛妻家だと聞いてる。それに、侯爵様はともかくステファン様が何も言わないなら王太子殿下の言葉の裏に何かある。
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