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8.深夜の密会【ジョゼ視点】

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「失礼します」

「来たな。ここで話した事は他言無用だ。良いな」

やっぱりそうなるか。
部屋に居たのは、イオネスコ侯爵家当主と次期跡取りだけではなかった。

「……承知しました」

肯定する事しか許されない。この国で二番目に高貴な方。王太子殿下がこんな真夜中に堂々と臣下の家に来るなよ。

「驚かないんだね」

「驚いておりますよ」

イオネスコ侯爵家は、昔から王家との繋がりが深い。屋敷も、王城の近くだからな。だがまさか、隠し通路で繋がっているとは思わなかった。見た事がない馬車も、いつもと違う護衛が潜んでいる様子もなかった。隠し通路で来たとしか考えられん。

厄介だな。こんなに王家と懇意にしているなんて、旦那様がお嬢様を嫁がせたがるわけだ。

ステファン様の奥の手は王太子殿下か。

「裏が取れた。というか、現行犯で捕まえた。兄貴は理解していないようだが、跡取りから外される。次期当主は私だ」

「さようでございますか。どうか今後とも、ジュベール侯爵家と変わらぬお付き合いをお願い致します」

「もちろんそのつもりだ。だが、それだけでは償い足りない」

「クリステルの価値は高い。だからね、僕が貰おうかなって」

……ふざけるな。
王太子殿下は既に隣国の王女とご結婚されている。お嬢様をどうするつもりだ。側妃は余程の事がないと認められない。妾にでもするつもりか。

湧き上がる怒りをなんとか抑える。落ち着け、この人はそんな愚かな事をする人ではない。下位貴族の娘ならともかく、お嬢様は侯爵令嬢だ。いくらなんでも妾になんてしないだろう。まずは王太子殿下の話を聞くんだ。

腹が立っても素知らぬ顔をするなんて、いつもやっているだろう。この間は、つい感情が出そうになったが……今は駄目だ。王族の前で怒りを露わにするなどあってはならない。

「王太子殿下にお嬢様が見初められたとなれば婚約解消は問題ないでしょう。旦那様もお喜びになられるでしょうね」

「そう、なら良かった」

くそっ! 殿下の笑顔が狸にしか見えん!
何を企んでるんだ……。だが、俺の身分じゃ王太子殿下に質問をするなんて許されない……。またか、また、身分の壁かっ……! せめてステファン様くらいの地位があれば、俺だって意見が言えるのに。

俺の身分では、伯爵家のマリアベル様に進言するくらいしか出来ん。あの男がどうなるのか気になるが……聞く事も許されん。

お嬢様は、愛し合う者同士で結婚すれば良いと仰っていた。それは賛成だ。お嬢様に擦り寄って来ても困るからな。だけどなんのお咎めも無しなんて有り得ねぇだろ。マリアベル様はお怒りのようだし、しっかり報復を受けるだろう。ほっときゃ勝手に破滅するだろうから手を出すまでもねぇだろうけどな。

お嬢様がやっと幸せになれると思ってたのに。なんだか頼りないから結婚前に調べようとしていた矢先にコレだ。

俺は、なんでみんなお嬢様を大事にしねぇのか理解出来ん。

旦那様はお嬢様の事を子どもではなく自分の駒だと思っておられる。家の役に立てばそれで良いそうだ。俺をお嬢様に付けた時はなんだかんだと娘を心配しているのかと思っていたが、そうではなかった。侍女達を嫌っている我儘娘だと聞いていたのに、お嬢様は侍女を嫌ったりしていなかった。多少我儘ではあったが、今まで会った貴族令嬢の誰よりも思慮深いお方だった。侍女達がお嬢様を我儘娘に仕立て上げていただけだ。実際、お嬢様は何も言っていないのに侍女達が旦那様の前で我儘を言って困ると泣き付いていた姿を何度も見た。旦那様はお嬢様を叱るでもなく、侍女達から話を聞く訳でもなく、ただ面倒そうにしているだけだった。

見てられずに、侍女達を交代制にして貰った。それからは侍女達は最低限の世話しかしねぇ。俺が居るから良いだろってほざいてやがる。

俺はお嬢様と同い年。話し相手ならともかく、娘と同じ歳の異性の子どもに世話を任せるなんておかしいだろ。話を聞いて呆れた父上が俺を連れ戻そうとしたが、俺はこのままお嬢様にお仕えする道を選んだ。

苦労は多かったが、お嬢様は素直で可愛く、俺を信用してくれた。だから、俺は決めたんだ。絶対お嬢様を幸せにするって。ご結婚されても、なんとかしてお仕えしようって。

それなのに、お嬢様の婚約者は口先だけのクズ男だった。
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