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クリステルは、優雅な同い年の執事に絶大な信頼を寄せていた。ジョゼとクリステルは学園の淑女科と執事科を共に主席で卒業したばかりだった。ジョゼは優秀さが国王の目に止まり、王城に仕える事も可能だった。だが誘いを蹴り、今まで通りクリステルに仕える道を選んだ。
ジョゼは、婚姻してからもクリステルに付いて行く事を許された。
国王が勧誘した優秀な人材を雇えると嫁ぎ先のイオネスコ侯爵が歓迎したからだ。
「あら? あの馬車は……」
アリーゼの自宅の前まで来て引き返そうとしたクリステルだが、見覚えのある馬車に気が付き足を止めた。
「イオネスコ侯爵家の紋章がありますね。おや? あれはアリーゼ様ですね。随分と派手な格好でございますね。男に媚びる下品な衣装です」
「もう! そんな言い方しないでよ!」
「失礼致しました。お嬢様の親友……ですものね」
「あの馬車は……クリス専用の馬車の筈なのに……」
クリステルの不安は的中した。
馬車から出て来たのは愛しい婚約者。隠す素振りすらなく幸せそうに口付けを交わした相手が自分の親友だと理解したクリステルは、急いで身を隠した。
「アリーゼ、久しぶり」
「久しぶりね! 会いたかったわ! ずっと会ってくれないから、もう私の事なんて忘れてしまったのかと思っていたわ」
「そんな訳ないだろう。当主の勉強が佳境だから忙しかったんだ。もうすぐ侯爵を継ぐからね」
『勉強ねぇ。散々逃げ回ってるくせにカッコつけちゃって。おかげで、わたくしがクリスの分も学んだのよ。ジョゼが手伝ってくれたけど、とっても大変だったのに』
「もうお勉強は良いの?」
「母上に合格点を頂けたからね。侯爵家を継ぐ準備は完璧さ」
合格点を貰ったのはクリステルだけだ。クリステルの努力をまるで自分の手柄のように報告する婚約者に、クリステルの心が悲鳴を上げ始めた。
「そうか、もうすぐ結婚式だものね。こうして会えるのもあと少しね。寂しいわ」
「泣かないで。結婚してもクリステルを抱くつもりはない。子ができなければクリステルの立場はなくなる。3年、待ってくれ。その頃には確実に僕が当主だ。アリーゼを迎える準備を整えておくよ。まだ屋敷に僕の味方は少ない。けど、当主になればみんな僕に従う。誰にも文句を言わせない」
「嬉しいっ! でも、クリステルに申し訳ないわ……!」
「あの女は、優しい振りをしてアリーゼを影で虐めていたんだろう? そんな悪女に心を動かされるもんか。離婚は出来ないから、あの女を働かせて僕達は優雅に暮らそう」
「そんな……クリステルに悪いわ……」
「ああ、なんで優しいんだ……アリーゼ、愛してる」
再び熱い口付けを交わしたふたりは、扉の奥に消えた。クリステルは目の前の光景が信じられず呆然と立ち尽くしていた。
ジョゼはいつものように優しくクリステルを労わり、屋敷に連れて帰った。目の焦点が合わなくなっているクリステルを介抱しながら、ジョゼの心は怒りと悲しみに満たされていた。
ジョゼは、婚姻してからもクリステルに付いて行く事を許された。
国王が勧誘した優秀な人材を雇えると嫁ぎ先のイオネスコ侯爵が歓迎したからだ。
「あら? あの馬車は……」
アリーゼの自宅の前まで来て引き返そうとしたクリステルだが、見覚えのある馬車に気が付き足を止めた。
「イオネスコ侯爵家の紋章がありますね。おや? あれはアリーゼ様ですね。随分と派手な格好でございますね。男に媚びる下品な衣装です」
「もう! そんな言い方しないでよ!」
「失礼致しました。お嬢様の親友……ですものね」
「あの馬車は……クリス専用の馬車の筈なのに……」
クリステルの不安は的中した。
馬車から出て来たのは愛しい婚約者。隠す素振りすらなく幸せそうに口付けを交わした相手が自分の親友だと理解したクリステルは、急いで身を隠した。
「アリーゼ、久しぶり」
「久しぶりね! 会いたかったわ! ずっと会ってくれないから、もう私の事なんて忘れてしまったのかと思っていたわ」
「そんな訳ないだろう。当主の勉強が佳境だから忙しかったんだ。もうすぐ侯爵を継ぐからね」
『勉強ねぇ。散々逃げ回ってるくせにカッコつけちゃって。おかげで、わたくしがクリスの分も学んだのよ。ジョゼが手伝ってくれたけど、とっても大変だったのに』
「もうお勉強は良いの?」
「母上に合格点を頂けたからね。侯爵家を継ぐ準備は完璧さ」
合格点を貰ったのはクリステルだけだ。クリステルの努力をまるで自分の手柄のように報告する婚約者に、クリステルの心が悲鳴を上げ始めた。
「そうか、もうすぐ結婚式だものね。こうして会えるのもあと少しね。寂しいわ」
「泣かないで。結婚してもクリステルを抱くつもりはない。子ができなければクリステルの立場はなくなる。3年、待ってくれ。その頃には確実に僕が当主だ。アリーゼを迎える準備を整えておくよ。まだ屋敷に僕の味方は少ない。けど、当主になればみんな僕に従う。誰にも文句を言わせない」
「嬉しいっ! でも、クリステルに申し訳ないわ……!」
「あの女は、優しい振りをしてアリーゼを影で虐めていたんだろう? そんな悪女に心を動かされるもんか。離婚は出来ないから、あの女を働かせて僕達は優雅に暮らそう」
「そんな……クリステルに悪いわ……」
「ああ、なんで優しいんだ……アリーゼ、愛してる」
再び熱い口付けを交わしたふたりは、扉の奥に消えた。クリステルは目の前の光景が信じられず呆然と立ち尽くしていた。
ジョゼはいつものように優しくクリステルを労わり、屋敷に連れて帰った。目の焦点が合わなくなっているクリステルを介抱しながら、ジョゼの心は怒りと悲しみに満たされていた。
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