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「す、すいません……僕、鈍臭くて……」
パーネル男爵は、とても誠実なお方だった。あの浮気者共が会場に戻った事を確認すると、すぐに魔法をやめて下さった。
だけど、魔法をやめたせいで近づく人が分からなくて危なかった。木の影に隠れてやり過ごしている最中だ。
「あの、どうか魔法をお使い下さいませ」
どうせ、一度は読まれてるのだ。構わない。
「良いのですか?」
「ええ、今はパーネル男爵の魔法にお縋りするしかありません。我々の姿を見られていれば誤魔化さねばなりませんし、今こんな所で隠れているのが見つかったら我々が浮気したと思われます。それはお嫌でしょう? お願いします。魔法をお使い下さい」
絶対あの浮気者を追い詰めてやる。こんな所で足元を掬われてたまるか。
「分かりました。では、魔法を使います。あの、心の中で思ってる事が分かるだけですから、何も考えなければ僕が読み取る事は出来ません」
なるほど。無になれば良いのね。
………………。
無理だわ。あの男の事を考えるとイライラしてしまう。
わたくしをお飾りの妻だなんて……アイツこそお飾りの夫のくせに、よくもまああんな台詞が言えたもんよね。それに、あの女も何なの?!
っと……いけない。旦那様が目の前にいらっしゃるのに、他所のご婦人の悪口はダメね。
「大丈夫です。きっと、僕の妻が誘ったのですよ。結婚したばかりなのですが、僕に不満があるみたいでほとんど顔を合わせないんです」
まさか……初夜は……ああ! しまった!
「お察しの通りですよ。拒否されて、妻とは関係を持った事はありません。ですが、あの様子だと妻は……」
あの猿共の心の声が聞こえてますものね!
何て酷いの!
うちの馬鹿夫ですら、初夜は済ませ……。
あ、あ……聞かれてるんでしたわ!
「お気遣いありがとうございます。今は周りに人は居ません。今のうちに人のいない道を通って逃げましょう。会場に戻られますか?」
「ええ、今は浮気に気が付かない演技をいたしませんと。絶対に追い詰めて、離婚を突き付けてやるのですわ」
「……お強いですね。僕はそんな気になれません」
「それは、パーネル男爵が奥様を愛しておられるからですわ。わたくしは、あの男を愛しておりませんもの」
「政略結婚だったのですか?」
「ええ、そうです。パーネル男爵は違うのですか?」
「うちは、幼馴染なんですよ。親同士が仲良くて婚約が決まったのですが、彼女のご両親が捕まってしまいまして。ご両親が捕まる寸前に僕と結婚したので、一応男爵夫人ですね」
「別れなかったのですか?」
まさか、ご両親が捕まるから早く婚姻したなんて事ありませんわよね?
「ご明察です」
もう、考えるだけで会話が成立しているではありませんか!
「す、すいません……」
大丈夫ですわ。それにしてもパーネル男爵はお人好しですわね。普通、親が捕まると分かってる方と結婚しませんわよ。そんなに奥様がお好きなのですか? あまり騒ぐといけませんので、肯定なら頷いて下さいませ。
パーネル男爵はこくりと頷く。とても悲しそうだ。こんなに優しそうな方の何が不満なのかしら。
「あ……あの……、僕は彼女の好みの見た目ではないようてす。僕は……幼い頃から好きだったんですけど……」
見た目ぇ?
マジマジとパーネル男爵を見る。
少し身長が低いくらいで、身なりも整ってるし貴族として批判されるような外見をしてるとは思えない。
え、これで見た目が良いからってうちの馬鹿夫に引っかかったの?!
あの猿は見た目以外は全て最低なのに!
ああ、先程から猿に例えてしまいましたが、猿に失礼でしたわ! わたくし、領地で野生の猿を見ましたけど、家族を大事にしていて賢かったです。
……なにか、もっと罵倒する良い言葉はないかしら。
「その、無理矢理罵倒しなくても宜しいのでは」
そうですわね。わたくしとした事が理性を失っておりましたわ。
それにしても、わたくしと違って愛している奥様の不貞を見たのに彼は一度も奥様を批判なさらない。それどころか、わたくしに謝罪してくるなんて……。
こんなに素晴らしい男性の何が不満なのかしら。言いたくありませんけど、奥様は男を見る目が無さすぎますわ。
パーネル男爵は、とても誠実なお方だった。あの浮気者共が会場に戻った事を確認すると、すぐに魔法をやめて下さった。
だけど、魔法をやめたせいで近づく人が分からなくて危なかった。木の影に隠れてやり過ごしている最中だ。
「あの、どうか魔法をお使い下さいませ」
どうせ、一度は読まれてるのだ。構わない。
「良いのですか?」
「ええ、今はパーネル男爵の魔法にお縋りするしかありません。我々の姿を見られていれば誤魔化さねばなりませんし、今こんな所で隠れているのが見つかったら我々が浮気したと思われます。それはお嫌でしょう? お願いします。魔法をお使い下さい」
絶対あの浮気者を追い詰めてやる。こんな所で足元を掬われてたまるか。
「分かりました。では、魔法を使います。あの、心の中で思ってる事が分かるだけですから、何も考えなければ僕が読み取る事は出来ません」
なるほど。無になれば良いのね。
………………。
無理だわ。あの男の事を考えるとイライラしてしまう。
わたくしをお飾りの妻だなんて……アイツこそお飾りの夫のくせに、よくもまああんな台詞が言えたもんよね。それに、あの女も何なの?!
っと……いけない。旦那様が目の前にいらっしゃるのに、他所のご婦人の悪口はダメね。
「大丈夫です。きっと、僕の妻が誘ったのですよ。結婚したばかりなのですが、僕に不満があるみたいでほとんど顔を合わせないんです」
まさか……初夜は……ああ! しまった!
「お察しの通りですよ。拒否されて、妻とは関係を持った事はありません。ですが、あの様子だと妻は……」
あの猿共の心の声が聞こえてますものね!
何て酷いの!
うちの馬鹿夫ですら、初夜は済ませ……。
あ、あ……聞かれてるんでしたわ!
「お気遣いありがとうございます。今は周りに人は居ません。今のうちに人のいない道を通って逃げましょう。会場に戻られますか?」
「ええ、今は浮気に気が付かない演技をいたしませんと。絶対に追い詰めて、離婚を突き付けてやるのですわ」
「……お強いですね。僕はそんな気になれません」
「それは、パーネル男爵が奥様を愛しておられるからですわ。わたくしは、あの男を愛しておりませんもの」
「政略結婚だったのですか?」
「ええ、そうです。パーネル男爵は違うのですか?」
「うちは、幼馴染なんですよ。親同士が仲良くて婚約が決まったのですが、彼女のご両親が捕まってしまいまして。ご両親が捕まる寸前に僕と結婚したので、一応男爵夫人ですね」
「別れなかったのですか?」
まさか、ご両親が捕まるから早く婚姻したなんて事ありませんわよね?
「ご明察です」
もう、考えるだけで会話が成立しているではありませんか!
「す、すいません……」
大丈夫ですわ。それにしてもパーネル男爵はお人好しですわね。普通、親が捕まると分かってる方と結婚しませんわよ。そんなに奥様がお好きなのですか? あまり騒ぐといけませんので、肯定なら頷いて下さいませ。
パーネル男爵はこくりと頷く。とても悲しそうだ。こんなに優しそうな方の何が不満なのかしら。
「あ……あの……、僕は彼女の好みの見た目ではないようてす。僕は……幼い頃から好きだったんですけど……」
見た目ぇ?
マジマジとパーネル男爵を見る。
少し身長が低いくらいで、身なりも整ってるし貴族として批判されるような外見をしてるとは思えない。
え、これで見た目が良いからってうちの馬鹿夫に引っかかったの?!
あの猿は見た目以外は全て最低なのに!
ああ、先程から猿に例えてしまいましたが、猿に失礼でしたわ! わたくし、領地で野生の猿を見ましたけど、家族を大事にしていて賢かったです。
……なにか、もっと罵倒する良い言葉はないかしら。
「その、無理矢理罵倒しなくても宜しいのでは」
そうですわね。わたくしとした事が理性を失っておりましたわ。
それにしても、わたくしと違って愛している奥様の不貞を見たのに彼は一度も奥様を批判なさらない。それどころか、わたくしに謝罪してくるなんて……。
こんなに素晴らしい男性の何が不満なのかしら。言いたくありませんけど、奥様は男を見る目が無さすぎますわ。
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