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番外編
マリオン視点 4
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「そうだったね。やっぱりいいや。婚約者を大事にしろよ」
「とっても素敵な方なんですよ。あの子を泣かしたら、いくらマリオン様でも許しませんわ」
あ、あれ?
アマンダは天使ではなかったのか……?
え、笑みが黒いんだが……?
「……ふぅん。マリオン、聞いたよね?」
悪魔が微笑む。
「は……はい。聞きました……」
肯定する事しか許されない。悪魔が微笑むとはそういう事だ。
「確か、今日いらしてる筈ですわ! わたくし、呼んで参ります。アル様もお会いしたいですよね?」
「そうだな、会いたい。なぁ兄貴、問題ねぇよな?」
「あ……ああ、マリオンが良ければ良いぞ。しかし、この後の予定は大丈夫か?」
兄上は、僕を逃がそうとしてくれているが、悪魔の目が逃げるなよと語っている。こんなの逃げられない。
「だ、大丈夫です……」
「良かった! 待っていて下さいまし」
アマンダはあっという間に去って行った。まだ婚約が決まったばかりで顔合わせくらいしかしていない。どんな子だったっけ……?
「どんな子なんだ?」
ひぃ!
答えられなければやられる!
「まさか、あんま知らねぇとか言わねぇよな?」
あ、悪魔の笑みが怖い……。
「まだ顔合わせを一度しただけなのだからあまり知らなくて当然だろう。私だって妻の事を知るまでに年単位の時間がかかったんだぞ」
兄上が、また助けてくれた。
「けどよ、兄貴は婚約者が居る身で他の女性に見惚れたりしたか?」
「そんな無礼な事はしない。私は妻一筋だ」
兄上ぇ!
僕の味方なのか、敵なのかどちらですか!
「だょなぁ? 兄上だってそうだし、俺もそうだ」
「アルフレッドは些か過保護だけどな。まぁ、アルフレッドの人気は凄まじいから仕方ない部分もあるが。先日のご令嬢はどうなったんだ?」
「兄上が抗議してくれた。このままじゃ危なくて俺を派遣出来ないって言ってくれたみたいだぜ」
「さすが兄上だな。あの令嬢は国に帰っても立場がないだろうな」
「勘当されたらしいぜ」
あっさり言うが、貴族が勘当されるなんて相当の事だ。誰の事を言っているか分からないが、悪魔が怒っている様子から判断すると……おそらくアマンダに何かしたのだろう。
勘当するよう圧力をかけたのは悪魔ではないか?
「アルフレッド、何かやったのか?」
あ、兄上ぇ……。怖いから聞くのやめましょう! ね!
「あの女の関係者は全員、俺の演奏を聞かせない、出入り禁止だって言っただけだ。アマンダにあんな事したんだから、当然だろう?」
「それが原因だ。お前、分かっててやっただろう?」
「ふん、なんのことだか分からねぇな」
「全く、気持ちは分かるがやり過ぎるなよ。真っ先に狙われるのはアマンダなんだぞ」
「加減はしてるよ。あの女だって、ちゃぁんと就職先を手配してやったんだぜ」
「まともなところだろうな?」
「失礼だな。アマンダが許してやれって言うから、見張りを付けてリチャードの商会に入れたよ」
「あのリチャードが、妹に唾をかけた女性を雇ったのか?」
唾?!
アマンダに?!
悪魔が怒る訳だ……。しかし、リチャードの商会で雇うなんて優しいな。あの悪魔の笑みを見る限り、無事で済んでるとも思えないのだが。
「すげぇ渋られたけど、リチャードもなんだかんだで妹には甘いからな」
「そうか、良かったな。生きていて。厳しく教育されるだろうが、衣食住の心配は無いし給金も出るからな」
「普通に生きてるし、真面目に働いてるよ。一生見張るけどな。兄貴は俺をなんだと思ってやがる」
「アマンダの事になると暴走する世界最高の歌い手だな。そう言えばマリオンはアルフレッドの歌を聞いた事がないだろう? 今度聞いてみると良い。世界が変わるぞ」
「そんな大層なモンじゃねぇよ」
悪魔が、嬉しそうに笑った。初めて見る微笑みだ。とても、とても美しい。
なんだ……この気持ちは。
「とっても素敵な方なんですよ。あの子を泣かしたら、いくらマリオン様でも許しませんわ」
あ、あれ?
アマンダは天使ではなかったのか……?
え、笑みが黒いんだが……?
「……ふぅん。マリオン、聞いたよね?」
悪魔が微笑む。
「は……はい。聞きました……」
肯定する事しか許されない。悪魔が微笑むとはそういう事だ。
「確か、今日いらしてる筈ですわ! わたくし、呼んで参ります。アル様もお会いしたいですよね?」
「そうだな、会いたい。なぁ兄貴、問題ねぇよな?」
「あ……ああ、マリオンが良ければ良いぞ。しかし、この後の予定は大丈夫か?」
兄上は、僕を逃がそうとしてくれているが、悪魔の目が逃げるなよと語っている。こんなの逃げられない。
「だ、大丈夫です……」
「良かった! 待っていて下さいまし」
アマンダはあっという間に去って行った。まだ婚約が決まったばかりで顔合わせくらいしかしていない。どんな子だったっけ……?
「どんな子なんだ?」
ひぃ!
答えられなければやられる!
「まさか、あんま知らねぇとか言わねぇよな?」
あ、悪魔の笑みが怖い……。
「まだ顔合わせを一度しただけなのだからあまり知らなくて当然だろう。私だって妻の事を知るまでに年単位の時間がかかったんだぞ」
兄上が、また助けてくれた。
「けどよ、兄貴は婚約者が居る身で他の女性に見惚れたりしたか?」
「そんな無礼な事はしない。私は妻一筋だ」
兄上ぇ!
僕の味方なのか、敵なのかどちらですか!
「だょなぁ? 兄上だってそうだし、俺もそうだ」
「アルフレッドは些か過保護だけどな。まぁ、アルフレッドの人気は凄まじいから仕方ない部分もあるが。先日のご令嬢はどうなったんだ?」
「兄上が抗議してくれた。このままじゃ危なくて俺を派遣出来ないって言ってくれたみたいだぜ」
「さすが兄上だな。あの令嬢は国に帰っても立場がないだろうな」
「勘当されたらしいぜ」
あっさり言うが、貴族が勘当されるなんて相当の事だ。誰の事を言っているか分からないが、悪魔が怒っている様子から判断すると……おそらくアマンダに何かしたのだろう。
勘当するよう圧力をかけたのは悪魔ではないか?
「アルフレッド、何かやったのか?」
あ、兄上ぇ……。怖いから聞くのやめましょう! ね!
「あの女の関係者は全員、俺の演奏を聞かせない、出入り禁止だって言っただけだ。アマンダにあんな事したんだから、当然だろう?」
「それが原因だ。お前、分かっててやっただろう?」
「ふん、なんのことだか分からねぇな」
「全く、気持ちは分かるがやり過ぎるなよ。真っ先に狙われるのはアマンダなんだぞ」
「加減はしてるよ。あの女だって、ちゃぁんと就職先を手配してやったんだぜ」
「まともなところだろうな?」
「失礼だな。アマンダが許してやれって言うから、見張りを付けてリチャードの商会に入れたよ」
「あのリチャードが、妹に唾をかけた女性を雇ったのか?」
唾?!
アマンダに?!
悪魔が怒る訳だ……。しかし、リチャードの商会で雇うなんて優しいな。あの悪魔の笑みを見る限り、無事で済んでるとも思えないのだが。
「すげぇ渋られたけど、リチャードもなんだかんだで妹には甘いからな」
「そうか、良かったな。生きていて。厳しく教育されるだろうが、衣食住の心配は無いし給金も出るからな」
「普通に生きてるし、真面目に働いてるよ。一生見張るけどな。兄貴は俺をなんだと思ってやがる」
「アマンダの事になると暴走する世界最高の歌い手だな。そう言えばマリオンはアルフレッドの歌を聞いた事がないだろう? 今度聞いてみると良い。世界が変わるぞ」
「そんな大層なモンじゃねぇよ」
悪魔が、嬉しそうに笑った。初めて見る微笑みだ。とても、とても美しい。
なんだ……この気持ちは。
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