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番外編
王太子視点 5
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「上手くやり過ぎだ。下手したら恨まれて命を狙われるかもしれんぞ」
「表向きは穏やかに過ごしたんだから大丈夫だろ。俺が死んだら疑われて自分達が損する事も分かってるから手は出して来ねえよ。本当はもっと色々やろうと思ったんだけど、アマンダが止めるからこれくらいにしておいた」
アマンダ、よくやった!
アルフレッドはアマンダに関する事は容赦しない。アマンダを蔑ろにされたと怒っていたからこの程度で済んだのなら僥倖だ。正直、満面の笑みでアルフレッドが出かけて行った時はどうなる事かと胃を痛めていたからな。
褒美にアルフレッドの衣装を作ってやろう。私が出来るアマンダが最も喜ぶ褒美だ。アマンダのドレスやアクセサリーは全てアルフレッドが手配しているから、私が王であっても手を出せん。
アルフレッドの言う通り、いかに大国でも数多くの国の反感を買うリスクは負わないだろう。特にキャサリン女王はアルフレッドの大ファンだ。あの国の密偵は恐ろしい。アルフレッドが死んだら死因を調査して、もし暗殺だった場合は世界中に公表するくらいはするだろう。
それは、強力な抑止力となりうる。アルフレッドを害しても損しかない。それなら血筋を盾にたまにアルフレッドを呼んで歌ってもらう方が得だ。
アルフレッドは、母の故郷でまた歌いたいと言い残して帰って来たらしい。抜かりがない事だ。
「絹織物は衣装で使ったから宣伝しておいた。木材も質が良いものが取れるようになったから、ステージで使ったぜ。他にも色々、売れそうなモンは営業しておいた。アマンダが頑張ったんだぜ」
「いきなりあちこちから取引が増えたのはアルフレッドのおかげか」
「営業を頑張ってたのはアマンダだから後で褒めてやってくれ。それより兄上、このリストにあるやつらを調べてくれ。特に一番上の女! 香水臭え香りを漂わせて今日のステージに上がって来たんだ。俺に抱きつこうとして、避けたらキレてアマンダに唾をかけやがった。すぐ兄貴が追い出してくれたけど、絶対許さねぇ。名前は分からなかったんだけど、絵が上手いスタッフが似顔絵を残してくれたんだ。多分偉いヤツだと思うんだけど……悪い、俺は知らなくて」
「これは、例の国の公爵令嬢だ。他も取り巻きだな。一度だけパーティーで会った事がある」
「またあの国かよ。なぁ兄上、もう潰そうぜ」
「物騒な事を言うな。国がなくなれば戦争になる可能性もある。アマンダが怖い思いをするかもしれんぞ」
「それはダメだな。あーくっそ、なんで俺はこんなめんどくせぇ血を引いてんだよ! どうでも良いだろ血筋なんてよぉ!」
私が羨ましいと思ってしまった血筋を、あっさり面倒だと切り捨てるアルフレッド。
「なぁ、アルフレッドの大事なものはなんだ?」
「アマンダに決まってるだろ。あとはやっぱ歌だな。……最近はまぁ、兄上達も大事だぜ。俺が自由に歌えるのは、偉大なる国王陛下のおかげだしな」
「勝手に私を偉大な王にするのはやめろ。私は即位したばかりの未熟な王なんだぞ」
「そう言ってるから、兄上は信用出来るんだよ。我は偉大な王なり! なーんて言ってるのは無能の証だ。王は世界一過酷な職業なんだから、助けは多い方が良いだろ。俺の歌は、兄上の助けにならねぇか?」
「なってるよ。アルフレッドには感謝してる。私だってアルフレッドの歌が好きなんだ。だから、今後も自由に歌ってくれ」
「へぇ、そんな事言うの初めてだな。なら、これからもしっかり歌わせてもらうぜ」
くしゃりと笑う弟は、ステージの上では見せない無邪気な笑みを浮かべていた。
「表向きは穏やかに過ごしたんだから大丈夫だろ。俺が死んだら疑われて自分達が損する事も分かってるから手は出して来ねえよ。本当はもっと色々やろうと思ったんだけど、アマンダが止めるからこれくらいにしておいた」
アマンダ、よくやった!
アルフレッドはアマンダに関する事は容赦しない。アマンダを蔑ろにされたと怒っていたからこの程度で済んだのなら僥倖だ。正直、満面の笑みでアルフレッドが出かけて行った時はどうなる事かと胃を痛めていたからな。
褒美にアルフレッドの衣装を作ってやろう。私が出来るアマンダが最も喜ぶ褒美だ。アマンダのドレスやアクセサリーは全てアルフレッドが手配しているから、私が王であっても手を出せん。
アルフレッドの言う通り、いかに大国でも数多くの国の反感を買うリスクは負わないだろう。特にキャサリン女王はアルフレッドの大ファンだ。あの国の密偵は恐ろしい。アルフレッドが死んだら死因を調査して、もし暗殺だった場合は世界中に公表するくらいはするだろう。
それは、強力な抑止力となりうる。アルフレッドを害しても損しかない。それなら血筋を盾にたまにアルフレッドを呼んで歌ってもらう方が得だ。
アルフレッドは、母の故郷でまた歌いたいと言い残して帰って来たらしい。抜かりがない事だ。
「絹織物は衣装で使ったから宣伝しておいた。木材も質が良いものが取れるようになったから、ステージで使ったぜ。他にも色々、売れそうなモンは営業しておいた。アマンダが頑張ったんだぜ」
「いきなりあちこちから取引が増えたのはアルフレッドのおかげか」
「営業を頑張ってたのはアマンダだから後で褒めてやってくれ。それより兄上、このリストにあるやつらを調べてくれ。特に一番上の女! 香水臭え香りを漂わせて今日のステージに上がって来たんだ。俺に抱きつこうとして、避けたらキレてアマンダに唾をかけやがった。すぐ兄貴が追い出してくれたけど、絶対許さねぇ。名前は分からなかったんだけど、絵が上手いスタッフが似顔絵を残してくれたんだ。多分偉いヤツだと思うんだけど……悪い、俺は知らなくて」
「これは、例の国の公爵令嬢だ。他も取り巻きだな。一度だけパーティーで会った事がある」
「またあの国かよ。なぁ兄上、もう潰そうぜ」
「物騒な事を言うな。国がなくなれば戦争になる可能性もある。アマンダが怖い思いをするかもしれんぞ」
「それはダメだな。あーくっそ、なんで俺はこんなめんどくせぇ血を引いてんだよ! どうでも良いだろ血筋なんてよぉ!」
私が羨ましいと思ってしまった血筋を、あっさり面倒だと切り捨てるアルフレッド。
「なぁ、アルフレッドの大事なものはなんだ?」
「アマンダに決まってるだろ。あとはやっぱ歌だな。……最近はまぁ、兄上達も大事だぜ。俺が自由に歌えるのは、偉大なる国王陛下のおかげだしな」
「勝手に私を偉大な王にするのはやめろ。私は即位したばかりの未熟な王なんだぞ」
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「なってるよ。アルフレッドには感謝してる。私だってアルフレッドの歌が好きなんだ。だから、今後も自由に歌ってくれ」
「へぇ、そんな事言うの初めてだな。なら、これからもしっかり歌わせてもらうぜ」
くしゃりと笑う弟は、ステージの上では見せない無邪気な笑みを浮かべていた。
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