上 下
46 / 56
番外編

王太子視点 5

しおりを挟む
「上手くやり過ぎだ。下手したら恨まれて命を狙われるかもしれんぞ」

「表向きは穏やかに過ごしたんだから大丈夫だろ。俺が死んだら疑われて自分達が損する事も分かってるから手は出して来ねえよ。本当はもっと色々やろうと思ったんだけど、アマンダが止めるからこれくらいにしておいた」

アマンダ、よくやった!
アルフレッドはアマンダに関する事は容赦しない。アマンダを蔑ろにされたと怒っていたからこの程度で済んだのなら僥倖だ。正直、満面の笑みでアルフレッドが出かけて行った時はどうなる事かと胃を痛めていたからな。

褒美にアルフレッドの衣装を作ってやろう。私が出来るアマンダが最も喜ぶ褒美だ。アマンダのドレスやアクセサリーは全てアルフレッドが手配しているから、私が王であっても手を出せん。

アルフレッドの言う通り、いかに大国でも数多くの国の反感を買うリスクは負わないだろう。特にキャサリン女王はアルフレッドの大ファンだ。あの国の密偵は恐ろしい。アルフレッドが死んだら死因を調査して、もし暗殺だった場合は世界中に公表するくらいはするだろう。

それは、強力な抑止力となりうる。アルフレッドを害しても損しかない。それなら血筋を盾にたまにアルフレッドを呼んで歌ってもらう方が得だ。

アルフレッドは、母の故郷でまた歌いたいと言い残して帰って来たらしい。抜かりがない事だ。

「絹織物は衣装で使ったから宣伝しておいた。木材も質が良いものが取れるようになったから、ステージで使ったぜ。他にも色々、売れそうなモンは営業しておいた。アマンダが頑張ったんだぜ」

「いきなりあちこちから取引が増えたのはアルフレッドのおかげか」

「営業を頑張ってたのはアマンダだから後で褒めてやってくれ。それより兄上、このリストにあるやつらを調べてくれ。特に一番上の女! 香水臭え香りを漂わせて今日のステージに上がって来たんだ。俺に抱きつこうとして、避けたらキレてアマンダに唾をかけやがった。すぐ兄貴が追い出してくれたけど、絶対許さねぇ。名前は分からなかったんだけど、絵が上手いスタッフが似顔絵を残してくれたんだ。多分偉いヤツだと思うんだけど……悪い、俺は知らなくて」

「これは、例の国の公爵令嬢だ。他も取り巻きだな。一度だけパーティーで会った事がある」

「またあの国かよ。なぁ兄上、もう潰そうぜ」

「物騒な事を言うな。国がなくなれば戦争になる可能性もある。アマンダが怖い思いをするかもしれんぞ」

「それはダメだな。あーくっそ、なんで俺はこんなめんどくせぇ血を引いてんだよ! どうでも良いだろ血筋なんてよぉ!」

私が羨ましいと思ってしまった血筋を、あっさり面倒だと切り捨てるアルフレッド。

「なぁ、アルフレッドの大事なものはなんだ?」

「アマンダに決まってるだろ。あとはやっぱ歌だな。……最近はまぁ、兄上達も大事だぜ。俺が自由に歌えるのは、偉大なる国王陛下のおかげだしな」

「勝手に私を偉大な王にするのはやめろ。私は即位したばかりの未熟な王なんだぞ」

「そう言ってるから、兄上は信用出来るんだよ。我は偉大な王なり! なーんて言ってるのは無能の証だ。王は世界一過酷な職業なんだから、助けは多い方が良いだろ。俺の歌は、兄上の助けにならねぇか?」

「なってるよ。アルフレッドには感謝してる。私だってアルフレッドの歌が好きなんだ。だから、今後も自由に歌ってくれ」

「へぇ、そんな事言うの初めてだな。なら、これからもしっかり歌わせてもらうぜ」

くしゃりと笑う弟は、ステージの上では見せない無邪気な笑みを浮かべていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜

悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜 嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。 陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。 無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。 夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。 怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

初夜をボイコットされたお飾り妻は離婚後に正統派王子に溺愛される

きのと
恋愛
「お前を抱く気がしないだけだ」――初夜、新妻のアビゲイルにそう言い放ち、愛人のもとに出かけた夫ローマン。 それが虚しい結婚生活の始まりだった。借金返済のための政略結婚とはいえ、仲の良い夫婦になりたいと願っていたアビゲイルの思いは打ち砕かれる。 しかし、日々の孤独を紛らわすために再開したアクセサリー作りでジュエリーデザイナーとしての才能を開花させることに。粗暴な夫との離婚、そして第二王子エリオットと運命の出会いをするが……?

ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして

夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。  おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子  設定ゆるゆるのラブコメディです。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

処理中です...