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レベッカ様のおかげで、わたくしの刺繍の腕は上がった。アル様にお渡し出来るハンカチはたくさん出来たんだけど……お会い出来ないから渡せない。

「申し訳ありません。せっかく教えて頂いていたのに……」

「もしかして、先日の下らない噂を気にされているのではなくて? 安心なさい。アルフレッド殿下がアマンダ様との婚約を解消するなんてあり得ないわ」

「どうして、そう思われるんですか?」

最初はお母様が警戒していたけど、お家はともかくレベッカ様自身は清廉潔白なお方だ。

あまりお家に馴染めておられないらしく、家に居づらいのだそうだ。レベッカ様のキツい態度が災いして、お友達も少ないらしい。

わたくしもあんまりお友達は居ないけどねっ!
だって、打算が透けて見える人達ばかりなんだもの。実は家にご招待したのはレベッカ様が初めてだ。

レベッカ様は公爵令嬢なだけあって、わたくしに媚びる必要がない。真っ直ぐで、素敵なご令嬢。

そんなレベッカ様が仰るなら、きっと大丈夫。でも、あの日の夜会からずっと胸がザワザワする。どうすれば治るのか、全く分からない。

「もっと自信を持ちなさい! アマンダ様より素敵な令嬢をわたくしは知らないわ! アルフレッド殿下だって、あれだけ脅されたのに貴女だけは渡さないって……」

脅された?

レベッカ様が、しまったという顔をしている。

「……アル様が……脅されてる? レベッカ様、詳しくお聞かせ下さい」

「……言えないわ。貴女だって分かってるでしょ。わたくしの家と貴女の家は敵同士。わたくしはあくまでも貴女に刺繍を教えに来ているだけよ」

「そう……ですね」

「けど! お友達として、お友達として言うわ! アルフレッド殿下を信じなさい! わたくしはあの方は大嫌いだけど! でも、アルフレッド殿下は貴女の事をとっても大事にしているわ! お願い、それだけは信じて……!」

レベッカ様が涙目で訴える。

「わたくしが結婚したら、もっと教えてあげる! だからもう少し待ってちょうだい!」

「ありがとうございます。レベッカ様。大丈夫、わたくしはアル様が幸せならそれで良いんです。……たとえ……」

わたくしが捨てられても。
その言葉だけは、どうしても言えなかった。

言葉にしたら、本当になってしまいそうだったから。分かってる。アル様がわたくしを大事にしてくれているのは分かってる。

……けど、わたくしを愛してくれているのか……女性として好きでいてくれているのか。それは分からない。アル様は婚約者なのに、一定の距離を置いているような気がする。まるでアイドルとファンみたいに。

婚約をした時に手に口付けを頂いただけで、それ以降は手を繋ぐ事くらいしかしていない。わたくしはもう、大人なのに。

前世ならまだ子どもだからと割り切れるけど、この世界ではもう結婚出来る年なのに。レベッカ様だって、もうご結婚なさるのに。

あと2年は、長い。
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