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アル様がお城に戻られてから、あっという間に半年が過ぎた。

アル様は定期的に来てくれる。頻度は減ったけど、歌やダンスも見せてくれる。けど、足りない。特に最近は、あまり会えていない。もう1ヶ月、お顔を拝見していない。

ずっと一緒に暮らしたせいで、寂しくて仕方ない。

「アマンダ、準備は出来た?」

「はい。完璧ですわ」

「相変わらず可愛いわ」

お母様がニコニコ笑って部屋に入って来た。お母様は厳しくて、優しい。自分の都合で怒ったりしないし、わたくしの意志を尊重して下さる。結婚式のドレスは最高の物を用意すると譲らなかったけど、それもわたくしを可愛がって下さっているから。以前の母親ならきっと結婚式をやるお金があるなら金を渡せって言うだろう……。

……っと、いけない。ついつい比べてしまっていたわ。あんな人とお母様を比べるなんて、お母様に失礼だ。

わたくしの家族は、テイラー公爵家。わたくしは貴族。自分の役目を果たさなければ。

隣国の王女様が訪問する事になり、歓迎の宴が開かれる事になった。我が家は、お父様とお母様、お兄様夫婦、そしてわたくしが参加する。

弟や妹達も参加したがっていたが、まだ成人していないので残念ながら不参加。

本来であればわたくしは婚約者のアル様にエスコートして頂くのだが、彼は王族。主催者側なので会場でお会いする事になっている。

最近は、王女様の案内があるからとお会い出来ていないから楽しみだ。……大丈夫よね。きっと今日は、アル様に会えるわよね。

「アマンダ、寂しいのは分かるけどしっかりしなさい。貴女がそんな顔をしていたら、アルフレッド殿下は全ての役目を放り出して貴女をエスコートしに来てしまうわよ」

「アル様はご自分の役目を放り出したりする方ではありませんわ」

「分かってないわね。貴女は……。っと、わたくしが言う事ではないわね。とにかく、アルフレッド殿下の妻に相応しい態度を取りなさい。今の貴女じゃ、連れて行けないわ」

そうだ。わたくしはアル様の妻になるんだから、もっとしっかりしないと。

「いい顔になったわね。男性にエスコートを申し込まれても、ダンスを申し込まれても、アルフレッド殿下以外の男性は断りなさい」

「もちろんですわ」

これは、お父様からもお兄様からも何度も言われた。例え王族が誘ってきても、いやむしろ王族だからこそ断れと。アル様の立場は決して良いものではない。もしわたくしが一度でも他の男性の手を取れば、それだけで婚約が解消されてしまうかもしれない。

断り方は、100パターンは頭に入っている。

わたくしの役目は、お家の為に社交をする事。そして、アル様の味方を増やす事。散々アル様の魅力を吹聴してきたから、同年代の令嬢はみんなアル様のファンになった。

けど、アル様と同世代の方はまだまだアル様を馬鹿にしている人が多い。だから今日は、アル様をファンを増やす。男性とはあまり話すなと言われているから、女性から攻略する。

へっぽこでも、営業してたんだ。
アル様の魅力なら、1000個は余裕で言える。アル様が冷遇されてるなんて許せない。みんなもっと、アル様の魅力を知るべきだわ。
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