前世の推しが婚約者になりました

編端みどり

文字の大きさ
上 下
4 / 56

3

しおりを挟む
「お初にお目にかかります。テイラー公爵が娘。アマンダ・オブ・テイラーと申します」

お母様に叩き込まれた挨拶をする。

「あ、ああ……面を上げろ」

ここで上げてはいけない。

「よい。面を上げろ」

「アマンダ、顔を上げて良いよ」

お父様の声がする。そこでようやく、わたくしは顔を上げた。1回目で顔を上げてはいけないと習っていたから上手く対応出来た。

「……本当に10歳か?」

「アマンダは間違いなく10歳の令嬢です。赤子の時に会いに来たでしょう。忘れてしまったのですか?」

「いや、分かってはいたのだが……あまりにその……大人びておるので……」

「アマンダは優秀ですから。で、肝心の主役は何処に行ったんですか?」

「すまん。今呼んでおる」

「アルフレッド殿下は今回の縁談を嫌がっておられのですかな? 年下の娘など好みではないのでしょう。殿下のご意向に逆らう訳には参りません。アマンダ、失礼にならないように帰ろう」

「ま、待ってくれ!」

「待たん」

国王陛下に不敬じゃない? 大丈夫なの? お父様!

「お父様。もう少し待ちませんか?」

「アマンダ嬢は良い子だな! お前とは大違いだ!」

「アマンダが良い子なのは当然だろ!」

お父様と国王陛下は、ずいぶん仲が良さそうだ。まるで戯れあっている子どものように見える。

「あの、お父様と国王陛下は……旧知の間柄なのですか?」

「そうなのだ。アマンダ嬢の父上は凄いんだぞ。ワシの侍従の中でも、とびきり優秀だったんだ」

「お父様が?」

「侍従がどんどん辞めたから仕方なくやったんだ!」

なるほど。お父様が今回を話を嫌々ながらも受けた理由が分かった。王家の罠かもしれないなんて、考え過ぎだったわね。

「大体、お前は王の癖に脇が甘い!」

「すまん……。まさか王家の名を使ってアマンダ嬢に婚約を打診するとは思わなかったんだ……」

「私が王に直接確認すると言わなければ、押し切られるところだったんだぞ! 今回だってうちの優しい優しいアマンダが会ってもないのに断るなんて失礼だと言うから来たんだ! 今日じゃなければ、顔合わせなんて来なかった!」

「王妃が確実に不在だからな。安心しろ。今日の事を知っているのはワシと信用出来る者だけだ」

「でなければ来なかったと言っただろ! 王の不在時に王子の婚約を打診するなんて分かりやすい事を許す体制がまずおかしい! 早急になんとかしろ! 王妃様は、私が断っても受けても益があると考えたのだろう。上手くかわしたから良かったが、我が家の跡取りはお冠だぞ。自分の妻の動向くらい把握しておけ」

えーっと……この会話から察するに、わたくしの予想はあながち間違ってなかったみたいね。国王陛下は違うけど、王妃様とお父様はあまり親しくはなさそう。

王妃様のご実家は公爵家。あまり貴族の人間関係は知らないけど、競い合っていて仲が良くないのかもしれない。

「今日は王妃が里帰りしているから邪魔される事はない。単刀直入に言うぞ。王妃が珍しく良い仕事をしたと思っておる。ワシは、アルフレッドとアマンダ嬢の婚約を望んでいる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...