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21.隊長
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第三騎士団は、隊長不在のまま1カ月の時が過ぎた。
騎士団長と隊長達は何度も会議を重ね、ようやく第三騎士団の新しい隊長が決まった。
自分には関係ないだろうといつも通りの訓練と見回りの仕事を行っていたガンツは、仕事を終えると騎士団長から呼び出された。
言われるまま騎士団長の執務室に行ったガンツを笑顔で迎え入れたのは、騎士団長と国王、それからフィリップだった。
「来たか」
「はっ」
「単刀直入に言おう。ガンツ、第三騎士団の隊長を引き受けてくれないか?」
団長の依頼に、ガンツは戸惑いながら返事をする。
「……私が、ですか? しかし私はまだ入隊して日が浅いので……」
「引き受けて貰わんと困る。第三騎士団をまとめられるのはガンツだけだ。見ろ、これを」
フィリップが取り出したのは、分厚い署名。ガンツを隊長に推す第三騎士団の隊員達の名が署名されている。
「全員だぞ。全員。これでも引き受けないのなら、ガンツに騎士団長の地位を譲る」
騎士団長の脅しに近い説得に、ガンツは頷くしかなかった。
「分かりました。お引き受けします」
「いっそ団長になってもらっても良かったのだが」
「私のような未熟者には務まりません」
「団長、当てが外れたね」
「だから言ったではないか。ガンツは地位を求めているのではないと」
フィリップと国王が笑うと、騎士団長は苦笑いした。
「しかしですな……私はガンツに勝てません」
「そんなの分かってるよ。強さだけを求めるのなら、シルビアが騎士団長さ。けど、あの子に騎士団長が務まると思うかい?」
「王女殿下はとてもお強いですし、頭も良いです」
「知ってるよ。けど、あの子は自分を鍛える事はできても周りを強くする力はない」
「シルビア様の訓練にはついていけませんから……その……」
「その通り。その点、団長は違う。ねぇ父上」
「うむ。まだまだ引退はさせん」
「ありがたきお言葉。今後も精進します」
「頼むぞ。これから騎士団は変わる。ガンツには先駆者になって欲しい。第三騎士団は問題ないだろうが、全ての騎士達の理解が得られている訳ではない。きっと苦労する。それでも、やって欲しい」
「ここまで時間がかかったのも、私の隊長就任を反対する声があったからですよね?」
「当たりだよ。だから身の回りに気をつけておいてくれ。ま、ガンツをどうにかできる人間はシルビアしかいないけどさ」
「シルビア様はお強いですから」
「あの子も、色々言われてるよ。でも負けてない」
「私も、負けません」
「頼もしいね。期待してるよ。隊長殿」
次の日、ガンツの隊長就任が発表された。第三騎士団は大喜びしたが、反発する者もたくさんいた。
だが、カンツは時間をかけて反発する者たちと打ち解けていった。第三騎士団の元隊長であるリオンも、牢獄から出され第三騎士団に戻って来た。
降格されたのに傲慢な態度を改めないリオンは隊員達から冷たくあしらわれていたが、ガンツが気を回して徐々に隊に溶け込んでいった。
隊長になったガンツは、優しいだけの男ではなくなった。最後の仕上げとばかりに模擬戦でリオンをコテンパンにしたのだ。
ガンツの訓練を受けた第三騎士団は変わり、リオンは新人隊員にすら勝てず、地面を舐め続けた。
いつの間にか誰よりも弱くなっていると気付いたリオンは、初心を取り戻し訓練に励むようになり、次第に仲間達に受け入れられ、副隊長に就任してガンツを支えている。
騎士団は実力がないと出世しない組織。そこで隊長を務めていたリオンの能力は高く、ガンツはリオンを信頼して共に仕事をしている。
受け入れてくれたガンツの懐の深さに惚れ込んだリオンは、仲間と酒を飲みながらガンツの良さを語り合うようになった。
隊がまとまると、次々と任務が舞い込む。
補欠と揶揄されていた第三騎士団は騎士団の中でも指折りの優秀な部隊に成長を遂げた。
騎士団長と隊長達は何度も会議を重ね、ようやく第三騎士団の新しい隊長が決まった。
自分には関係ないだろうといつも通りの訓練と見回りの仕事を行っていたガンツは、仕事を終えると騎士団長から呼び出された。
言われるまま騎士団長の執務室に行ったガンツを笑顔で迎え入れたのは、騎士団長と国王、それからフィリップだった。
「来たか」
「はっ」
「単刀直入に言おう。ガンツ、第三騎士団の隊長を引き受けてくれないか?」
団長の依頼に、ガンツは戸惑いながら返事をする。
「……私が、ですか? しかし私はまだ入隊して日が浅いので……」
「引き受けて貰わんと困る。第三騎士団をまとめられるのはガンツだけだ。見ろ、これを」
フィリップが取り出したのは、分厚い署名。ガンツを隊長に推す第三騎士団の隊員達の名が署名されている。
「全員だぞ。全員。これでも引き受けないのなら、ガンツに騎士団長の地位を譲る」
騎士団長の脅しに近い説得に、ガンツは頷くしかなかった。
「分かりました。お引き受けします」
「いっそ団長になってもらっても良かったのだが」
「私のような未熟者には務まりません」
「団長、当てが外れたね」
「だから言ったではないか。ガンツは地位を求めているのではないと」
フィリップと国王が笑うと、騎士団長は苦笑いした。
「しかしですな……私はガンツに勝てません」
「そんなの分かってるよ。強さだけを求めるのなら、シルビアが騎士団長さ。けど、あの子に騎士団長が務まると思うかい?」
「王女殿下はとてもお強いですし、頭も良いです」
「知ってるよ。けど、あの子は自分を鍛える事はできても周りを強くする力はない」
「シルビア様の訓練にはついていけませんから……その……」
「その通り。その点、団長は違う。ねぇ父上」
「うむ。まだまだ引退はさせん」
「ありがたきお言葉。今後も精進します」
「頼むぞ。これから騎士団は変わる。ガンツには先駆者になって欲しい。第三騎士団は問題ないだろうが、全ての騎士達の理解が得られている訳ではない。きっと苦労する。それでも、やって欲しい」
「ここまで時間がかかったのも、私の隊長就任を反対する声があったからですよね?」
「当たりだよ。だから身の回りに気をつけておいてくれ。ま、ガンツをどうにかできる人間はシルビアしかいないけどさ」
「シルビア様はお強いですから」
「あの子も、色々言われてるよ。でも負けてない」
「私も、負けません」
「頼もしいね。期待してるよ。隊長殿」
次の日、ガンツの隊長就任が発表された。第三騎士団は大喜びしたが、反発する者もたくさんいた。
だが、カンツは時間をかけて反発する者たちと打ち解けていった。第三騎士団の元隊長であるリオンも、牢獄から出され第三騎士団に戻って来た。
降格されたのに傲慢な態度を改めないリオンは隊員達から冷たくあしらわれていたが、ガンツが気を回して徐々に隊に溶け込んでいった。
隊長になったガンツは、優しいだけの男ではなくなった。最後の仕上げとばかりに模擬戦でリオンをコテンパンにしたのだ。
ガンツの訓練を受けた第三騎士団は変わり、リオンは新人隊員にすら勝てず、地面を舐め続けた。
いつの間にか誰よりも弱くなっていると気付いたリオンは、初心を取り戻し訓練に励むようになり、次第に仲間達に受け入れられ、副隊長に就任してガンツを支えている。
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受け入れてくれたガンツの懐の深さに惚れ込んだリオンは、仲間と酒を飲みながらガンツの良さを語り合うようになった。
隊がまとまると、次々と任務が舞い込む。
補欠と揶揄されていた第三騎士団は騎士団の中でも指折りの優秀な部隊に成長を遂げた。
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