21 / 25
20.理想と現実
しおりを挟む
「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」
「構わないよ。ところでリリアさんはいつ我々の正体に気が付いたんだ? 彼はどうやら部下に調べさせたようだけど、リリアさんは最初から分かっていたよね?」
「はい。シルビア王女のお顔は絶対忘れません! 変装なさっていても分かります! 私、いつもシルビア王女の戦いを見てるんです。とっても美しくて、素敵で……この間は凄かったです! 3時間も戦って、おふたりともとっても楽しそうで!」
リリアが嬉しそうに声を弾ませると、従業員たちは微笑んだ。
リリアはすぐ周りの視線に気が付いて、頬を染めて俯いた。
「ごめんなさい……大声で……」
「もうバレているから気にしなくて良い。シルビア、気になるドレスは良いのか?」
「着たいです。試着をお願いできますか?」
「かしこまりました。王太子殿下はこちらでお待ちになりますか? それとも、なにか商品をご覧になりますか?」
「うーん、こんな機会滅多にないし……店内をブラブラさせて貰おうかな。いい?」
「もちろんです! 兄が貸切にしてしまったようですから、他のお客様の目を気にせずお買い物頂けます。むやみにお声がけしないよう指示しておきますね」
「ありがとう。気がきくね」
「身分を隠したままお買い物できず、申し訳ありません。次は兄を追い出しておきます」
いたずらっぽく笑うリリアは、シルビアを連れてドレスの試着へ向かう。
商品を眺めながら、フィリップは店員を呼び止めた。
「ねぇ、リリアさんは先代の娘さん?」
「は、はい!」
「まだ先代が亡くなられたばかりだからもっと後だろうけど、跡取りはリリアさんかな?」
「……それは、坊ちゃんもいらっしゃるのでなんとも……それに、お嬢様は女ですし……」
「あれ? 昨年変わった法を知らない?」
「申し訳ありません。存じません」
「女性でも家を継げるようになったんだよ。貴族はもちろん、平民もね」
「そうなのでございますか?!」
「ああ、君達だって彼女が上にいてくれる方が働きやすいんじゃない?」
「その通りでございます! 貴重な情報をありがとうございます!」
「俺は新しい法律が民に浸透しているか確認しただけさ。さ、商品を見せてもらえるかな?」
「はい! こちらにございます!」
フィリップの助言は、従業員達の希望になった。
フィリップはシルビアの為にアクセサリーと、父に万年筆を購入した。
シルビアはガンツに贈る飾り房と、試着したドレス、内緒で家族への贈り物を購入した。
リリアの接客は見事で、フィリップはシルビアが自分達への贈り物を購入していると気付かなかった。
シルビアから贈られた美しい栞は、父と兄の宝物になった。それから何度か商会を訪れ、リリアとシルビアは親しくなった。
リリアは、従業員の後押しもあり商会の会頭になる……予定だった。
だが、法が変わっても人々の意識は簡単に変わらない。女だから、それだけの理由でリリアは排斥され、商会を追い出された。
兄が跡を継いだが、経営は苦しい。
従業員はどんどん辞めて、かつて賑わっていた売り場は人もまばらだ。
リリアは店を辞めた従業員と共に、新しい店を始めた。しかし、兄の妨害にあい経営は厳しい。今シルビアがリリア訪ねれば、兄の妨害が酷くなる。
リリアは泣きながら、シルビアにしばらく来ないでくれと頼んだ。最後にたくさんの品を購入したシルビアは、兄と共に店を出た。
「お兄様……人は簡単に変わらないんですね」
「そうだね。けど、俺達が諦めたらリリアさんや、彼女と同じような境遇の子達はどうなる」
「そうですね……お父様が法を変えるまでに何十年もかかったのに、いまだに人の意識は変わらない。このままじゃ、せっかく改正した法が埋もれてしまいます。だから……」
シルビアは、自身の決意をフィリップに打ち明けた。
「そうか。ガンツと共に生きるなら、そちらの道もいいかもしれんな。寂しいが、シルビアの決めた道なら応援するよ。俺達はずっと家族だ」
シルビアの選び取った未来は、人々の意識に風穴を開ける。後に人々は語る。シルビア王女は、川に橋をかけて山を切り開き新しい世界を見せてくれた開拓者のようだと。
「構わないよ。ところでリリアさんはいつ我々の正体に気が付いたんだ? 彼はどうやら部下に調べさせたようだけど、リリアさんは最初から分かっていたよね?」
「はい。シルビア王女のお顔は絶対忘れません! 変装なさっていても分かります! 私、いつもシルビア王女の戦いを見てるんです。とっても美しくて、素敵で……この間は凄かったです! 3時間も戦って、おふたりともとっても楽しそうで!」
リリアが嬉しそうに声を弾ませると、従業員たちは微笑んだ。
リリアはすぐ周りの視線に気が付いて、頬を染めて俯いた。
「ごめんなさい……大声で……」
「もうバレているから気にしなくて良い。シルビア、気になるドレスは良いのか?」
「着たいです。試着をお願いできますか?」
「かしこまりました。王太子殿下はこちらでお待ちになりますか? それとも、なにか商品をご覧になりますか?」
「うーん、こんな機会滅多にないし……店内をブラブラさせて貰おうかな。いい?」
「もちろんです! 兄が貸切にしてしまったようですから、他のお客様の目を気にせずお買い物頂けます。むやみにお声がけしないよう指示しておきますね」
「ありがとう。気がきくね」
「身分を隠したままお買い物できず、申し訳ありません。次は兄を追い出しておきます」
いたずらっぽく笑うリリアは、シルビアを連れてドレスの試着へ向かう。
商品を眺めながら、フィリップは店員を呼び止めた。
「ねぇ、リリアさんは先代の娘さん?」
「は、はい!」
「まだ先代が亡くなられたばかりだからもっと後だろうけど、跡取りはリリアさんかな?」
「……それは、坊ちゃんもいらっしゃるのでなんとも……それに、お嬢様は女ですし……」
「あれ? 昨年変わった法を知らない?」
「申し訳ありません。存じません」
「女性でも家を継げるようになったんだよ。貴族はもちろん、平民もね」
「そうなのでございますか?!」
「ああ、君達だって彼女が上にいてくれる方が働きやすいんじゃない?」
「その通りでございます! 貴重な情報をありがとうございます!」
「俺は新しい法律が民に浸透しているか確認しただけさ。さ、商品を見せてもらえるかな?」
「はい! こちらにございます!」
フィリップの助言は、従業員達の希望になった。
フィリップはシルビアの為にアクセサリーと、父に万年筆を購入した。
シルビアはガンツに贈る飾り房と、試着したドレス、内緒で家族への贈り物を購入した。
リリアの接客は見事で、フィリップはシルビアが自分達への贈り物を購入していると気付かなかった。
シルビアから贈られた美しい栞は、父と兄の宝物になった。それから何度か商会を訪れ、リリアとシルビアは親しくなった。
リリアは、従業員の後押しもあり商会の会頭になる……予定だった。
だが、法が変わっても人々の意識は簡単に変わらない。女だから、それだけの理由でリリアは排斥され、商会を追い出された。
兄が跡を継いだが、経営は苦しい。
従業員はどんどん辞めて、かつて賑わっていた売り場は人もまばらだ。
リリアは店を辞めた従業員と共に、新しい店を始めた。しかし、兄の妨害にあい経営は厳しい。今シルビアがリリア訪ねれば、兄の妨害が酷くなる。
リリアは泣きながら、シルビアにしばらく来ないでくれと頼んだ。最後にたくさんの品を購入したシルビアは、兄と共に店を出た。
「お兄様……人は簡単に変わらないんですね」
「そうだね。けど、俺達が諦めたらリリアさんや、彼女と同じような境遇の子達はどうなる」
「そうですね……お父様が法を変えるまでに何十年もかかったのに、いまだに人の意識は変わらない。このままじゃ、せっかく改正した法が埋もれてしまいます。だから……」
シルビアは、自身の決意をフィリップに打ち明けた。
「そうか。ガンツと共に生きるなら、そちらの道もいいかもしれんな。寂しいが、シルビアの決めた道なら応援するよ。俺達はずっと家族だ」
シルビアの選び取った未来は、人々の意識に風穴を開ける。後に人々は語る。シルビア王女は、川に橋をかけて山を切り開き新しい世界を見せてくれた開拓者のようだと。
36
お気に入りに追加
263
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?
キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。
戸籍上の妻と仕事上の妻。
私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。
見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。
一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。
だけどある時ふと思ってしまったのだ。
妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣)
モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。
アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。
あとは自己責任でどうぞ♡
小説家になろうさんにも時差投稿します。
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜
白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人の心は結ばれるのか?
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる