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19.お買い物
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「もう! お兄様の意地悪!」
「ひとりで行かせるわけにいかないだろ。自分の立場を考えろ」
「わたくしなら大丈夫ですわ」
「確かにシルビアは強い。けど心配なんだよ。それに約束しただろ。城を抜け出したいなら、俺が協力してやるってな」
「……それはそうですけど、わざわざ一緒に来なくても良いではありませんの。内緒にしたかったのに」
「もちろんガンツには内緒にしておく。それに、ガンツの好みは俺の方が詳しいぞ。俺には精霊が付いてるからな」
「うっ……。お兄様、わがまま言ってごめんなさい。よろしくお願いいたします」
「素直で宜しい。さ、ここだ」
シルビアとフィリップは、とある商会を訪れた。
ガンツへの贈り物を買う為だ。
王族である彼らは、自ら買い物に行くことはあまりない。
「大きな建物ですね。何を売っているのですか?」
「食料品から武具甲冑、薬に家具、花なんかも売ってるね。ああそうだ、ほかの店には絶対に行くなよ。シルビアは顔を知られすぎてる。変装してもすぐバレる、変な物を売られたら我々の瑕疵になる。この店は安全だが他の店はダメだ」
「精霊達の情報収集の成果ですか?」
「ああ。ただし、行く前に必ず報告しろ。ここが安全なのは、今だけかもしれないからな」
「何か問題でも?」
「トップが変われば組織は変わる。それだけさ」
唇に指を当て、この話は終わりだと促すフィリップ。
子どもやお年寄りが商会に入る姿が見えたシルビアは、黙って歩き出した。
「いらっしゃいませ。本日はどのような品をお求めですか?」
商会に入ったシルビアとフィリップを迎えたのは、リリアと名札のついた女性だった。
リリアは商品知識が豊富で、予算に合った品を紹介してくれた。
1時間ほど悩んでシルビアが購入したのは、剣に付ける飾り房だった。
「刺繍も入れられますよ。いかがですか?」
「お時間はどのくらいかかりますか?」
「一週間程度かかります」
「それじゃあ間に合わないから、今回は不要です」
「かしこまりました」
「おいおい! リリア! 気が利かねぇな! シルビア王女の注文は最優先だ! 今すぐ刺繍をお入れしますよ!」
突如現れたのは、数分前からリリアの接客を舐めるように見つめていた男だった。
立派な服に見合わない傲慢な態度と、リリアの頭を掴んで無理に頭を下げさせる乱暴さに、シルビアが動いた。
ゆっくりとリリアの手を取り、男から引き離す。
シルビアとリリアの間に、フィリップが立ち塞がった。
「刺繍はいりません」
「いやぁ、シルビア王女の注文なら最優先ですよ! いいな! リリア!」
「お兄様……針子は手一杯で、今は空いていません」
「そんなもん、徹夜させりゃいいだろうが!」
「そんなことしたら針子達が倒れてしまいます。無理です」
「ああ?! 王族の方の注文だぞ?! 使用人のひとりやふたり、倒れたって構わねぇよ! 替えはいくらでもいる」
「替えなんていません! それに、彼女たちは使用人じゃありません!」
「だったら針子なんていらねぇよ! 俺様が跡取りになるんだ! ババアなんていらねえ! 若い美人ばかりを集めて……」
「下らん」
得意気に話す男の演説を、フィリップが遮る。
「あ……お、王太子殿下……? いや、やっぱり美人の方が……」
「リリアさん、針子の方々の外見と仕事の腕は比例するのか?」
「あ……あのそれは……」
言い淀む男を遮り、リリアが叫ぶ。
「比例しません! うちの針子達は皆優秀です!」
「そうか。我々は客だが、針子の方々に無理をさせるつもりはない。なぁ、シルビア」
「ええ、わたくしこう見えても刺繍は得意なのです。自分でやりますわ。ね、お兄様」
「うむ。だから刺繍はいらん。このままこれを売ってくれ」
「い、いやしかし……」
「聞こえなかったか? 刺繍はいらんと言った。それから、我々の正体を大声で話したのはなぜだ?」
「あ……お、お忍びでしたか……」
「この格好を見れば分かるだろう。妹君は理解しておられたぞ。彼女は我々の素性に気付いていた。だが、何も言わなかった。あくまでも、客として接してくれた。妹君の気遣いが台無しだ」
「リ……リリアてめぇ……」
「リリアさんは関係ない。文句があるなら王城まで来い。俺が相手になる」
「い、いや……王太子殿下に逆らうなんて……」
「そうか。では貴殿は口出ししないで頂こう」
「リリアさん、これを売って下さいな。それから、さっき気になるドレスがあったから試着させてくれない?」
シルビアはリリアに接客を求めた。リリアがテキパキと応じると、男は悔しそうに下を向き頭を下げて去って行った。
「ひとりで行かせるわけにいかないだろ。自分の立場を考えろ」
「わたくしなら大丈夫ですわ」
「確かにシルビアは強い。けど心配なんだよ。それに約束しただろ。城を抜け出したいなら、俺が協力してやるってな」
「……それはそうですけど、わざわざ一緒に来なくても良いではありませんの。内緒にしたかったのに」
「もちろんガンツには内緒にしておく。それに、ガンツの好みは俺の方が詳しいぞ。俺には精霊が付いてるからな」
「うっ……。お兄様、わがまま言ってごめんなさい。よろしくお願いいたします」
「素直で宜しい。さ、ここだ」
シルビアとフィリップは、とある商会を訪れた。
ガンツへの贈り物を買う為だ。
王族である彼らは、自ら買い物に行くことはあまりない。
「大きな建物ですね。何を売っているのですか?」
「食料品から武具甲冑、薬に家具、花なんかも売ってるね。ああそうだ、ほかの店には絶対に行くなよ。シルビアは顔を知られすぎてる。変装してもすぐバレる、変な物を売られたら我々の瑕疵になる。この店は安全だが他の店はダメだ」
「精霊達の情報収集の成果ですか?」
「ああ。ただし、行く前に必ず報告しろ。ここが安全なのは、今だけかもしれないからな」
「何か問題でも?」
「トップが変われば組織は変わる。それだけさ」
唇に指を当て、この話は終わりだと促すフィリップ。
子どもやお年寄りが商会に入る姿が見えたシルビアは、黙って歩き出した。
「いらっしゃいませ。本日はどのような品をお求めですか?」
商会に入ったシルビアとフィリップを迎えたのは、リリアと名札のついた女性だった。
リリアは商品知識が豊富で、予算に合った品を紹介してくれた。
1時間ほど悩んでシルビアが購入したのは、剣に付ける飾り房だった。
「刺繍も入れられますよ。いかがですか?」
「お時間はどのくらいかかりますか?」
「一週間程度かかります」
「それじゃあ間に合わないから、今回は不要です」
「かしこまりました」
「おいおい! リリア! 気が利かねぇな! シルビア王女の注文は最優先だ! 今すぐ刺繍をお入れしますよ!」
突如現れたのは、数分前からリリアの接客を舐めるように見つめていた男だった。
立派な服に見合わない傲慢な態度と、リリアの頭を掴んで無理に頭を下げさせる乱暴さに、シルビアが動いた。
ゆっくりとリリアの手を取り、男から引き離す。
シルビアとリリアの間に、フィリップが立ち塞がった。
「刺繍はいりません」
「いやぁ、シルビア王女の注文なら最優先ですよ! いいな! リリア!」
「お兄様……針子は手一杯で、今は空いていません」
「そんなもん、徹夜させりゃいいだろうが!」
「そんなことしたら針子達が倒れてしまいます。無理です」
「ああ?! 王族の方の注文だぞ?! 使用人のひとりやふたり、倒れたって構わねぇよ! 替えはいくらでもいる」
「替えなんていません! それに、彼女たちは使用人じゃありません!」
「だったら針子なんていらねぇよ! 俺様が跡取りになるんだ! ババアなんていらねえ! 若い美人ばかりを集めて……」
「下らん」
得意気に話す男の演説を、フィリップが遮る。
「あ……お、王太子殿下……? いや、やっぱり美人の方が……」
「リリアさん、針子の方々の外見と仕事の腕は比例するのか?」
「あ……あのそれは……」
言い淀む男を遮り、リリアが叫ぶ。
「比例しません! うちの針子達は皆優秀です!」
「そうか。我々は客だが、針子の方々に無理をさせるつもりはない。なぁ、シルビア」
「ええ、わたくしこう見えても刺繍は得意なのです。自分でやりますわ。ね、お兄様」
「うむ。だから刺繍はいらん。このままこれを売ってくれ」
「い、いやしかし……」
「聞こえなかったか? 刺繍はいらんと言った。それから、我々の正体を大声で話したのはなぜだ?」
「あ……お、お忍びでしたか……」
「この格好を見れば分かるだろう。妹君は理解しておられたぞ。彼女は我々の素性に気付いていた。だが、何も言わなかった。あくまでも、客として接してくれた。妹君の気遣いが台無しだ」
「リ……リリアてめぇ……」
「リリアさんは関係ない。文句があるなら王城まで来い。俺が相手になる」
「い、いや……王太子殿下に逆らうなんて……」
「そうか。では貴殿は口出ししないで頂こう」
「リリアさん、これを売って下さいな。それから、さっき気になるドレスがあったから試着させてくれない?」
シルビアはリリアに接客を求めた。リリアがテキパキと応じると、男は悔しそうに下を向き頭を下げて去って行った。
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