上 下
16 / 25

15.兄は救世主

しおりを挟む
 シルビアとガンツのお茶会はすぐに開催された。

 だか、ゆっくり話したことがないふたりは何を話して良いか分からず、お互い俯いている。

 これではいけないと思ったシルビアが、意を決して話しかける。

「ああああの! ガンツ様は甘いものとしょっぱいもの、どちらがお好きですか?」

 なんでこんな事しか聞けないの。もっと色々あるでしょう?!

 シルビアの心は荒れ狂っていた。

「……あ、お……私は……甘いものが少々苦手でして……」

 違うだろ!
 せっかくシルビア様がお茶に誘って下さったのに、用意して頂いた菓子を否定してどうする?!

 ガンツの心も、同じように荒れていた。そこに、救世主が現れた。

 フィリップだ。手に1通の手紙を持っている。フィリップが目配せをすると、控えていた者達が全員部屋を出て行った。

「お前たち……何をやっているんだ」

「お兄様!」
「王太子殿下!」

「可愛い妹の求婚者殿を見極めたい。俺も参加して良いか?」

「「お願いします!」」

「……もうさっさと結婚しろよ……」

 フィリップの呟きは、しっかり2人の耳に届いたようで、シルビアとガンツの顔が真っ赤に染まった。

「すいません……私が弱いから……」

「ガンツが弱かったら俺は赤子と変わらんぞ。シルビアだけだ、貴殿に勝てるのは」

「シルビア様は素晴らしいです。戦うたびに強くなっておられる」

「そ、そんな! 毎日修行しているだけですわ!」

「毎日コツコツ続ける、それがどれだけ難しいか。今日は身体が痛いから。明日は天気が悪いから。いろんな理由を見つけ出してサボる者も多いのです。休養は必要ですが、休養しすぎればあっという間に衰えてしまう」

「ガンツ様は毎日修行なさっておられるのでしょう?」

「ええ、もちろん。騎士の仕事もありますが、毎日きっちりやっております」

「素敵!」

「……こ、光栄です……」

「なぁ、もう父上と相談して結婚したらどうだ?」

「「それはいけません!」」

「お……私は、必ずシルビア様に勝ってみせます」

 きっぱり言い切るガンツをうっとりと眺めるシルビア。

「……ガンツ様……」

 目の前の王女様から向けられる好意が心地良く、ガンツの訓練は激しさを増していた。本気の訓練は終業後にひっそりと行う。リオン隊長がガンツの訓練を一度でも見ていたら彼を貶めようとは思わなかっただろう。

「あまり長くお待たせするつもりはありません。正々堂々、勝利して権利を勝ち取ってみせましょう」

 うっとりとガンツを見つめるシルビアと、恥ずかしさで俯くガンツ。ふたりを愛しそうに眺めていたフィリップは僅かな笑みを浮かべ、持参した手紙を開けた。

「本題はこちらだ。今回の黒幕が分かった。こいつだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

処理中です...