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13.嫉妬の代償

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 ガンツが騎士になって、半年が過ぎた。
 ガンツは月に一度のペースでシルビアに挑んでいるが、未だに勝てない。

「あー……今日も負けてしまいましたか! 次こそは! またよろしくお願いします」

 爽やかな笑みを浮かべて去るガンツを止められないシルビアは、部屋に戻ると溜息を吐く。

「今日は、3時間も戦ったのに! 今日こそはと思ったのに! もう! どうして!」

「シルビア様、手を抜くという選択肢はありませんか?」

「あるわけないでしょう?! ガンツ様は手を抜いたら絶対に気付くわ!」

「なら、訓練をおやめになれば……」

「最高の状態でお迎えしないと失礼でしょう?! それに、ガンツ様は強くなったといつも褒めて下さるの!」

 両思いなんだからさっさと結婚しろよと誰もが思っている言葉を飲み込み、侍女のマリアはシルビアに氷の入った冷たい紅茶を差し出す。

「美味しいわ。ありがとうマリア」

 紅茶を飲み干したシルビアの部屋に、兄が現れた。

「シルビア! 大変だ!」

「どうなさったの?」

「ガンツが……ひとりで魔物の群れに……」

 息を切らしながら、フィリップが状況を手短に伝えるとシルビアの目がどんどん険しくなっていった。

 ガンツは騎士団で着々と力をつけていた。先日見習いを卒業し、正規の騎士となったばかりだ。

 ガンツの所属する部隊は実力主義の第三部隊。正確に言えば、ガンツが入ってからメキメキと力をつけて実力主義の部隊になったと言った方が正しい。

 しかし、有望な部下をよく思わない者もいる。

 ガンツが所属する部隊のリオン隊長は、有力貴族出身のエリート思考が強い男だ。

 彼はどんどん部下の信頼を勝ち得ていくガンツの事をよく思っていなかった。何度もシルビアに挑むくらい強いのだからと訳の分からない理由で、ひとりで魔物の討伐を命じた。

「ガンツ様はわたくしと戦って消耗しておられるのに。試験の時から嫌な目をしていましたけど……許せませんわ」

「第三騎士団の者達が心配して俺に報告に来たんだ。自分達は隊長の命令でガンツを手伝えない。推薦状を書いたのは俺だから、なんとかならないかって」

「……騎士は、上司の命令に絶対服従ですものね」

「そうなんだ。彼らはガンツの手助けをするなと命じられた。けど、俺に報告するなとは言われていないと来てくれてね」

「ひとりで魔物と戦えと命じられたのですか?」

「そうだ。命令を上書きできるのは父上だけ。だから今すぐ父上の元へ行こう」

「はいっ! マリア、あとは頼むわ!」

「承知しました」

 シルビアは兄と共に転移魔法で父の元に向かった。

「父上!」

「お父様! お願いがあります!」

「2人揃ってどうした?!」

「今すぐ第三騎士団のリオン隊長を呼んで……」

「それでは間に合いません。お父様、わたくしに命令書を書いて下さい。いついかなる時でも、誰の命令があろうともガンツ様のお仕事に関わって良いと書いて頂ければ、わたくしがガンツ様をお助けします」

 娘の真剣な眼差しに、緊急事態を感じ取った国王はすぐに動いた。

「詳しい話はフィリップから聞く。これを持って行けシルビア!」

 父はサラサラと命令書を書き、魔法印を押した。魔法印とは書類を書いた者を証明する魔法の印の事で、改ざんを防ぐ目的で使われる。カワード国外では商人の契約にも使われるほど浸透しているが、他国ではあまり利用されない。魔法印を刻む魔道具が他国にはあまりないからだ。

 国王の魔法印がある命令書があればガンツが命令違反で処罰を受けたりしない。今回の件で処罰されるのは、別の人物。

 父も半年でガンツの人柄や強さを理解しており、早く娘と結婚して欲しいと願っているひとりだった。

「ありがとうございますお父様!」

「場所は東の草原だ!」

 東の草原と言えば、この国ではたったひとつの場所を指す。定期的に魔物が溢れるので、騎士団で討伐している。

 今回の当番は第三騎士団だった。隊員全員で向かう討伐をひとりでさせようとするあたり、隊長がどれだけ腐った命令を出したか分かるというものだ。シルビア達の怒りはとっくに限界を越えていた。

「分かりました! 転移魔法で向かいます!」

「ガンツも転移魔法で向かったらしい! 全く、馬なら着く前に間に合ったのに」

「ガンツ様は一刻も早く仕事を終わらせようとなさったのですわ。相変わらず真面目で素敵なお方です」

「分かっている。早く行けシルビア! 俺はこの件の裏を調べて黒幕がいたら捕らえておく」

「ありがとうございます、お兄様」

「シルビア! 危なくなったら転移で戻れ! 約束だぞ!」

「分かりましたお父様。では、行って参ります」

 シルビアが消えた後、父と兄はリオン隊長を呼び出した。彼が隊長と呼ばれるのは、あと数時間であろう。
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