強すぎる王女様は、強い夫をご所望です

編端みどり

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12.騎士になる理由

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「騎士試験なら月に1回行われているから、合格すれば見習いになれる」

「オレみてぇな冒険者でも受けられるのか?」

「以前は貴族だけだったんだけどね、最近身分を問わなくなったんだ。性別も不問だから、女性も受けにくるよ。残念ながら、まだ合格者はいないけれど」

「なら、オレでも受けられるのか……?」

「身分証明と信頼できる者の推薦はいるけどね。身分証明は冒険者証で充分だよ。推薦状は俺が書こう」

「よっしゃ! ありがとうフィリップ! いや、王太子様!」

「人目があるところはともかく、非公式の場ではフィリップで構わない。ガンツは俺達の師匠なんだから。もう1人の弟子も、強くなって元気にやってるよ」

 嘘を吐きたくないが、シルビアの正体をガンツに言うのも違う。フィリップは苦し紛れに誤魔化した。

「そうか! 坊主も元気なら良かったぜ。いつか戦いたいなぁ。シルビア様より強いのか?」

「……シルビアの方が強いかな」

 うん、あの時の坊主はシルビアなんだ。あの時より今のシルビアの方が強い。苦し紛れな誤魔化しだったが、ガンツはフィリップの言葉を信じた。

「やっぱりすげぇんだな! あんなに綺麗で強いなんて……」

「まぁな。シルビアは頑張ったから。ところで、ガンツが騎士になりたいのはどうしてだ?」

「冒険者は稼げるけど、定職に就いてるとは言えねえだろ。騎士になれば、シルビア様に相応しくなれるかなと……あーもう、こんなの兄貴に言うなんて違うだろ!」

「ははっ……構わないよ。他国と違い、うちは騎士が休みの日に冒険者稼業をやるのは認められてる」

「へえ、珍しいな」

「優秀な人材を集める為最近改めたんだ。もちろん、騎士の仕事が優先だけどな。よほどの緊急事態でなければ呼び出されたりしないが、冒険者稼業に行く時は報告がいる」

「そりゃそうだよな」

「ただし、転移魔法と通信魔法が使えれば報告は要らん。転移魔法が使える騎士は必ず騎士団の詰め所に転移できるよう魔法印を刻んでもらう。いざという時すぐ戻れるなら、休みにどこにいても良い。ガンツは転移魔法が使えるし、休みの日に稼げるだろうな」

 通信魔法は、補助する魔道具を使えば大抵の者が使える簡単な魔法だ。互いの魔力を記録しておく魔道具を使い、連絡を取り合う。魔力量に応じて、距離が決まる。

 転移魔法を使える者は少なく、移動できる距離も人によって違う。魔法印を刻んだ場所か、きっちり景色を記憶している場所にしか転移できない。

 城や騎士団の詰め所など重要な建物は魔法印の刻んだ者以外転移できないよう魔法の結界が刻まれている。

 転移魔法は術者しか転移できない事が多い。訓練を重ねて複数人転移できる者も存在するが、数は少ない。

 ガンツもシルビアもフィリップも、数少ない者の1人だ。

「なんでオレが転移魔法を使えるって知って……ああ、精霊か」

「うん。精霊達にガンツの事を調べてもらった」

「上手くやってるな」

「勝手に調べたと、怒らないのか?」

「怒らねぇよ。王太子で精霊の加護もありゃ、大抵の情報は筒抜けだ。いちいち気にしてらんねぇよ。教えたのはオレだしな」

「師匠……いや、ガンツなら妹を幸せにしてくれる。俺は全力で応援するよ。ただ、シルビアは強いぞ」

「分かってる。何回挑んでも良いんだよな?」

「もちろん。だが、あまり待たせるようなら父上がシルビアの相手を探してしまうかもしれんな」

「くっ……それは困る!」

「今のところ大丈夫だ。俺も父上の気が変わらないように気をつけておくよ」

「ありがとな。頑張るよ」

「ひとつだけ教えてくれ。ガンツはシルビアのどこが気に入ったんだ?」

「最初会った時は、綺麗な人だなと思っただけだった。けど、戦いはじめたら目が離せなくて。シルビア様はすげえ楽しそうに戦うんだ。あんなに綺麗で、強くて、楽しそうに戦う人、初めて見た。彼女から目が離せなくて、なんか……懐かしくて、気付いたらドキドキしちまって。負けた後、オレが求婚者扱いになってるって知ったらどんどんシルビア様が気になり始めてさ」

「分かるぞ。シルビアに見惚れる男は多いからな。だが、皆シルビアの外見しか見ないんだ」

「なんでだよ! シルビア様は綺麗だけどよ、一番の良さは彼女の内面だろ?! 戦えば分かる。シルビア様はいい人だよ。それに、むちゃくちゃ強えんだぞ! 元々の素質だけであんなに完成されたりしねえ! どんだけシルビア様が努力したか想像もできねぇよ!」

「その通り。シルビアは1日も休まず訓練を続けた。王女としての教育も、政務も、一切手を抜かずにだ」

「すげえな……」

「だが、今までの見合い相手は全員シルビアの強さを求めず、封印しようとした」

「お偉いさんって、馬鹿なのか?」

「はは、ひとくくりにして欲しくはないがシルビアの見合い相手はそうかもしれんな」

「う、悪い。フィリップが馬鹿なわけねぇわ。今の言葉は取り消してくれ」

「承知した。気にしなくていいよ。さて、シルビアに惚れた理由を教えてくれ」

「またそこに戻るのな……オレさ、あんまりパーティを組まないし1人が好きなんだ。けど……シルビア様と一緒にいたいって、あの笑顔をずっと見たいって思って……あーくそ! 一言で言うなら、一目惚れだ!」

 耳まで赤いガンツの姿に、自分の人を見る目は正しかったと確信したフィリップは騎士試験の推薦状を書いてガンツに手渡した。

 推薦状を手に試験を受けたガンツは、当然のごとく合格した。

 騎士試験の日、シルビアはこっそりとガンツの姿を眺めていた。試験官を簡単に倒し、首席で合格したガンツに皆の羨望の視線が集まる。

 そこに僅かだが、嫉妬の視線が混ざっていた。シルビアは嫉妬の視線を向けた者の顔をしっかり覚えて、会場をひっそりと後にした。
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