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8.面倒なしきたり
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「シルビア、よく考えろ。王族をやめても、シルビアは私の大切な娘だ。暮らしていけるよう支援する。シルビアは強いから冒険者として活躍できるだろう。その方が幸せかもしれぬ」
シルビアは目を瞑り、考え、結論を出した。
「やめません。わたくしは、お父様とお兄様のお役に立ちたいのです」
「では、結婚はどうする? 結婚せねば、貴族達がうるさいであろう」
「ひとつ案があります。お父様、わたくしより強いお方をご存知ですか?」
シルビアはこうなると予想していた。だから、兄と相談して父にとある提案をする。
「シルビアより強い者か……世界中探せばおるであろう。しかし、私は知らぬ」
「では、わたくしより強い殿方が国内に現れたとします。お父様やお兄様はどうなさいます?」
「囲い込むな。冒険者なら良い仕事を優先して回すし、居場所を把握しようと試みる。騎士なら、地位を与えて逃がさないようにする」
「騎士団長や騎士隊長の地位で、強い方が縛れるとは思えません」
「なら、どうする」
「夫なら妻を大切にするものでしょう?」
「まさか……」
「国中にお触れを出して下さい。わたくしより強い者が、わたくしの夫だと。平民でも、わたくしより強いならその辺の貴族や王族より貴重な人物のはずです。王女であるわたくしが、結婚して国に繋ぎ止めます」
「なっ……! 粗暴な者がシルビアの夫になるなんて許せん!」
「粗暴なだけでわたくしに勝てると思いますか?」
「思わないね。シルビア以上の魔力か……圧倒的な武力……どちらにしても、シルビアに勝てる者はきっと頭も良い。少なくとも戦略を立てる頭の良さはあるよ。でないとシルビアに勝てない」
「ね、これなら結婚までの猶予を稼げますわ。現れないなら、わたくしは望み通り独身を謳歌できます。わたくしに挑む者なら、今までの見合い相手とは違い骨のある男性でしょう」
「……いやしかし……それはあまりにも……」
「俺はシルビアの意見に賛成です。この条件なら、あのような愚か者は二度と現れないでしょう」
「……しかし……そんな条件を出せばますます……」
「じゃじゃ馬姫、男勝り、可愛げがない」
シルビアの呟きに、父がそっと目を伏せた。
シルビアの耳に届いていないが、もっと酷い言葉で貶す者も存在する。
「すでに散々言われています。気にしませんわ。わたくしはわたくしのやり方で、王族としての責務を果たします。わたくしは他のご令嬢のように、お淑やかに男性を立てる事はできません。でも、わたくしには魔法と、戦う力があります。わたくしは、尊敬できる方と結婚したい。戦えば、人となりが分かります」
「シルビアより弱い男じゃシルビアを守れないからな」
「強さだけではありませんけど、分かりやすい指標かと。わたくしが尊敬できる殿方はとても少ないのです。もちろん、お父様とお兄様は尊敬しておりますわ」
あとひとり、師匠もですけど。心の中の呟きは、フィリップにだけ通じた。
「父上、シルビアの好きにさせましょう。シルビアを倒せる男なら、我々の至宝を差し出す価値はある。シルビア自身の望みでもあります。シルビアの隣に並び立つなら、強さは必要でしょう。もちろん、シルビアは王女ですから誰でも良い訳ではない。事前に候補者の調査をしましょう。そして、条件を満たした男だけシルビアへの挑戦権を得る。身分は問わない。これでいかがですか? 身分を条件にしたらシルビアは本当に一生結婚できませんし、シルビアと戦えるのは素行の良い男だけ。それならシルビアに負けても縁談が舞い込みます。挑戦者も現れやすくなるでしょう」
「シルビアの結婚を見せ物にするつもりか!」
「我々王族は、表に出れば民の見せ物です。シルビア、不正が起きないよう戦いを公表する。どうだ?」
「良いですね。わたくしに憧れる女性を増やす良い機会です!」
強い王女に憧れる女性が増えれば、年頃になったからと全て取り上げられたりしなくなるかもしれない。兄の意図を正しく理解したシルビアは、満面の笑みで父におねだりをした。
「お父様、お願いします!」
「……う、うぬぬ……う……」
「父上、シルビアは我々だけの至宝ではない。国の宝です。シルビアを見て、憧れる人々が増えれば女性の活躍の場が増える。シルビアは、やりたい事を諦めないといけない令嬢達の境遇に胸を痛めているのです。だから、自ら先頭に立ち、道を切り開こうとしている。さすが父上の子です」
「う……うぬぬ……」
「シルビアは前例を作ろうとしているのです! 前例を踏襲するばかりではいずれ破綻します。せっかく通った法案を浸透させるチャンスです。親として、国王として、応援しない選択肢なんてありません!」
「……フィリップよ。言うようになったのぉ」
「俺も父上の子ですから」
「分かった。明日触れを出す。ただし、素行調査はフィリップが行った後、私もやる。それから、勝ってもシルビアに求婚する権利を得るだけだ。必ず結婚させるわけではない。これだけは譲れん。調べると告知してしまえば、王族だろうと徹底的に調べられる。もう二度とあんな男と会わせるものか」
シルビアは目を瞑り、考え、結論を出した。
「やめません。わたくしは、お父様とお兄様のお役に立ちたいのです」
「では、結婚はどうする? 結婚せねば、貴族達がうるさいであろう」
「ひとつ案があります。お父様、わたくしより強いお方をご存知ですか?」
シルビアはこうなると予想していた。だから、兄と相談して父にとある提案をする。
「シルビアより強い者か……世界中探せばおるであろう。しかし、私は知らぬ」
「では、わたくしより強い殿方が国内に現れたとします。お父様やお兄様はどうなさいます?」
「囲い込むな。冒険者なら良い仕事を優先して回すし、居場所を把握しようと試みる。騎士なら、地位を与えて逃がさないようにする」
「騎士団長や騎士隊長の地位で、強い方が縛れるとは思えません」
「なら、どうする」
「夫なら妻を大切にするものでしょう?」
「まさか……」
「国中にお触れを出して下さい。わたくしより強い者が、わたくしの夫だと。平民でも、わたくしより強いならその辺の貴族や王族より貴重な人物のはずです。王女であるわたくしが、結婚して国に繋ぎ止めます」
「なっ……! 粗暴な者がシルビアの夫になるなんて許せん!」
「粗暴なだけでわたくしに勝てると思いますか?」
「思わないね。シルビア以上の魔力か……圧倒的な武力……どちらにしても、シルビアに勝てる者はきっと頭も良い。少なくとも戦略を立てる頭の良さはあるよ。でないとシルビアに勝てない」
「ね、これなら結婚までの猶予を稼げますわ。現れないなら、わたくしは望み通り独身を謳歌できます。わたくしに挑む者なら、今までの見合い相手とは違い骨のある男性でしょう」
「……いやしかし……それはあまりにも……」
「俺はシルビアの意見に賛成です。この条件なら、あのような愚か者は二度と現れないでしょう」
「……しかし……そんな条件を出せばますます……」
「じゃじゃ馬姫、男勝り、可愛げがない」
シルビアの呟きに、父がそっと目を伏せた。
シルビアの耳に届いていないが、もっと酷い言葉で貶す者も存在する。
「すでに散々言われています。気にしませんわ。わたくしはわたくしのやり方で、王族としての責務を果たします。わたくしは他のご令嬢のように、お淑やかに男性を立てる事はできません。でも、わたくしには魔法と、戦う力があります。わたくしは、尊敬できる方と結婚したい。戦えば、人となりが分かります」
「シルビアより弱い男じゃシルビアを守れないからな」
「強さだけではありませんけど、分かりやすい指標かと。わたくしが尊敬できる殿方はとても少ないのです。もちろん、お父様とお兄様は尊敬しておりますわ」
あとひとり、師匠もですけど。心の中の呟きは、フィリップにだけ通じた。
「父上、シルビアの好きにさせましょう。シルビアを倒せる男なら、我々の至宝を差し出す価値はある。シルビア自身の望みでもあります。シルビアの隣に並び立つなら、強さは必要でしょう。もちろん、シルビアは王女ですから誰でも良い訳ではない。事前に候補者の調査をしましょう。そして、条件を満たした男だけシルビアへの挑戦権を得る。身分は問わない。これでいかがですか? 身分を条件にしたらシルビアは本当に一生結婚できませんし、シルビアと戦えるのは素行の良い男だけ。それならシルビアに負けても縁談が舞い込みます。挑戦者も現れやすくなるでしょう」
「シルビアの結婚を見せ物にするつもりか!」
「我々王族は、表に出れば民の見せ物です。シルビア、不正が起きないよう戦いを公表する。どうだ?」
「良いですね。わたくしに憧れる女性を増やす良い機会です!」
強い王女に憧れる女性が増えれば、年頃になったからと全て取り上げられたりしなくなるかもしれない。兄の意図を正しく理解したシルビアは、満面の笑みで父におねだりをした。
「お父様、お願いします!」
「……う、うぬぬ……う……」
「父上、シルビアは我々だけの至宝ではない。国の宝です。シルビアを見て、憧れる人々が増えれば女性の活躍の場が増える。シルビアは、やりたい事を諦めないといけない令嬢達の境遇に胸を痛めているのです。だから、自ら先頭に立ち、道を切り開こうとしている。さすが父上の子です」
「う……うぬぬ……」
「シルビアは前例を作ろうとしているのです! 前例を踏襲するばかりではいずれ破綻します。せっかく通った法案を浸透させるチャンスです。親として、国王として、応援しない選択肢なんてありません!」
「……フィリップよ。言うようになったのぉ」
「俺も父上の子ですから」
「分かった。明日触れを出す。ただし、素行調査はフィリップが行った後、私もやる。それから、勝ってもシルビアに求婚する権利を得るだけだ。必ず結婚させるわけではない。これだけは譲れん。調べると告知してしまえば、王族だろうと徹底的に調べられる。もう二度とあんな男と会わせるものか」
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