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7.親子の時間

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 家族との時間を持ちたい父の計らいで始まった夕食会は、王族達が唯一家族に戻れる時間だ。

 食事を運び終えると、使用人を下げて家族だけの空間となる。話が漏れないよう結界魔法を使い、ゆっくりと話をする。

 家族3人の大切な時間だ。

 だが今回は、フィリップとシルビアの様子がいつもと違っていた。

 最初に話を切り出したのはフィリップだ。

「父上、シルビアの事で相談があります」

 フィリップがシルビアの目を見る。心得たとばかりにシルビアが結界魔法を発動した。

「いつもはフィリップが使うのだがな……よほど大切な話か?」

 シルビアの魔力はとても多く、普通なら数十分しか持たない結界魔法を丸一日維持する事ができる。
 フィリップも数時間くらいは持つので、いつもの食事会ではフィリップが結界魔法を使っている。

「俺の魔法では精霊達が入ってきてしまいますから」

 精霊すら排除する強力な結界を使えるのは、国内ではシルビアだけだ。
 精霊は気に入った者に情報を伝えることがある。フィリップは精霊に好かれているので、口止めすれば情報は広がらない。だからいつもは、フィリップが食事会で聞いた話は黙っているように精霊達にお願いしている。

 今回シルビアが魔法を使ったのは、父に重大な話だと認識してもらう為だった。

「ふむ、それほど内密な話か……言ってみろ」

 グラスの酒を煽りながら、国王は微笑んだ。

「お父様。結婚をせず、独身のまま過ごす事をお許し下さい」

「……は、はぁ?! なんだと?!」

 酒を吹き出し、席から立ち上がる国王。

「これは……拗ねる精霊を宥めてシルビアに結界を頼んで正解だったな」

 フィリップが父にハンカチを渡しながら呟いた。

 国のトップが酒を吹き出して素っ頓狂な声を上げるなんて、どれだけ口止めしてもあっという間に世界中の精霊に伝わってしまうだろう。

 国王は、息子の発言を華麗にスルーして愛しい娘が結婚を拒んだ理由を頭の中で探す。

「あの男……シルビアに何をしたんだ?!」

 高価なグラスを握りつぶした国王の身体から強力な魔力が溢れ出す。
 シルビアには及ばないが、国王は結構な肉体派で魔力も高い。

 そして、普段は温厚だが敵には容赦しない。

「フィリップ、戦いの準備を」

「承知しました」

「承知しないで下さいませ!!!」

 シルビアが叫ぶ。

「「なぜだ?」」

「なぜって……戦う理由がありません」

「シルビアを侮辱したんだぞ」

「やはりそうか。それなら十分戦う理由になる」

「なりません! お兄様が抗議して下さったでしょう! あれで充分です!」

「俺は貿易を止めるつもりだったのだ。あれではぬるい」

「貿易を止める……なるほど、それもいい案だ。さすがフィリップ。まずは経済から締め付けるか」

「お父様までお兄様の過激な案に賛成しないで下さいまし!!!」

「過激ではない。これはけじめだ。シルビアを侮辱するということは、我が王家を侮辱するのと同義。つまりは、宣戦布告と同義だ」

「どうしてそうなりますの!」

「シルビアは王女だぞ」

「そうだ。我らが舐められれば民も不利益を被る。だから、毅然とした対応が必要なのだ」

「……そう言われると……。いえ! やはり駄目ですわ! お父様とお兄様は、あのえーっと……あのお方に怒っているだけで……」

「シルビア、まさかと思うけど見合い相手の名前を忘れてる?」

「えっと……テイラー国の……」

「良かった。国くらいは覚えてたんだね」

「……ごめんなさい……興味がなくて……」

 しょんぼりするシルビアに、父と兄は大笑いした。シルビアの意図とは違うが、怒りをそらせる効果はあったようだ。

「ふむ……シルビアが気にしていないなら、テイラー王に抗議して様子を見よう。詫びがなければ貿易を止める。全く、今までの男は断るにしても礼儀を尽くしていたぞ!」

「全くです! なんですかあの男は!」

「テイラー国の……お名前はなんでしたっけ?」

「ルイス・ マクドナルド ・テイラーだ」

「そうそう! そのルイス様は、国王に無断で見合いを申し込んだそうですの。だから、テイラー国に報復するのはやめましょう」

 シルビアの言葉に、フィリップと国王が目を見合わせた。

「父上」

「うむ。シルビアの願いだ。仕方ない。だが、厳重に抗議はする。良いな?」

「それで充分です」

 ホッとしたシルビアは父と兄の静かな怒りに気付かなかった。この後、テイラー国は大慌てで国王自ら謝罪に訪れる。

 だが、今は誰も知らない未来の話だ。

 父は娘に優しく問いかけた。

「あの男が関係ないなら、シルビアはどうして結婚したくないのだ?」

「お会いする殿方に魅力を感じませんの。お兄様くらい強い方なら良いのですけど……」

「ふむ……なんだかんだフィリップも強いからな。気持ちは分かるが、シルビアが結婚しないとなれば貴族達が黙っておらん」

「やっぱりそうですよね」

「しかし父上、もうめぼしい王族はいないのでは?」

「貴族達もいる。それに、王族も伝手を当たればまだ……」

「もう無理ですよ。なかなか見合い相手が来なくて、ようやく来たテイラー国の王子がアレですよ。無理に結婚を進めるなんて愚策です」

「王族の方が良いのだ。王族が無理なら、他国の貴族はどうだ? フィリップも婚約が決まっておらぬから、貴族達がシルビアを狙っておる。国内の貴族はあまり勧めたくない」

「俺は一人前になるまで結婚しません。貴族達の派閥が安定しておらず、国外から相手を探せばいいか、国内の貴族がいいか決めきれないんです。精霊達に頼んで情報収集はしていますが、コロコロと派閥が変わり過ぎていて……」

「フィリップはそれで良い。私も婚約をしたのは遅かったしな。しかし、シルビアは駄目だ」

「それは、わたくしが女だからですか?」

「そうだ。女性の結婚適齢期は短い。貴族ではなく王族となればなおさらだな。意中の者はおらぬのか?」

「いません」

「そうか……シルビア、どうしても結婚が嫌なら王族をやめていいぞ」

「父上?!」

 国王は、優しくシルビアの頭を撫でた。
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