腹黒公爵の狩りの時間

編端みどり

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「サイモン、お前好きな子ができたって?」

「おめでとう、良かったわね。どちらの方?」

「マチルダ・ドゥ・シヴィル嬢です」

「ああ、あの武術で有名な」

そう、シヴィル家の武勇伝は他国にも伝わるほどだ。さすが私の剣を止めただけある。

「で、いつ婚約を申し込むの?」

「もう行きました。そして、保留になりました」

「どうしてよ!」

母上、申し訳ありません。私のツメが甘かったのです……。格上の立場だからと、少し甘くみていた。シヴィル様があんなにもマチルダ嬢を大事にされているとは。いやしかし、私もエミリーにあんな男が来たら追い返すな。保留として下さっただけ、ありがたいのではないだろうか。まず、最初の申し込みから焦っており礼を欠いていた。まずい、このままではマチルダ嬢を他の男に取られてしまう。

「私がきちんと気持ちをご説明しなかった故に、マチルダ嬢を大事にしないとご判断されたようですね。私のミスです」

「……あなたもなのね、サイモン」

「私も?」

「お父様がわたくしに求婚した時と全く同じよ」

「父上、そのあとどうやって母上と結婚出来たのですか? 今すぐ、全て、教えて下さい!」

「さささ、サイモン、気持ちは分かるが落ち着け」

「これが落ち着いていられるか! オレがぼんやりしてる間に他の男にかっ攫われたらどうする?!」

シュ……

「エミリー、扇子を投げるのはやめなさい」

「お兄様がお疲れのご様子ですので、少し身体を動かせばよろしいかと思いまして。今日は夜会ですわよ。ひとまず、参りましょう?」

「夜会など行っている場合ではないぞ?!」

「大丈夫ですわ、お兄様。マチルダ様には夜会に行く暇がない程のお仕事をお願いしましたの。マチルダ様は真面目な方ですから、お仕事を優先なさいますからあちらで夜会に行かれる事はありません。そのかわり、出張と称して2ヶ月後の王家主催の夜会に参加して頂こうと思いまして。もう招待状の手配は王妃様にお願いしましたの。おそらくもう届いてますわ。それから、マチルダ様のお好みは腹黒いくらい計算高い男性だそうですわよ? いつものお兄様なら大丈夫ではありませんの?」

「本当か?! ありがとうエミリー!」

そうか、私はマチルダ嬢の好みのタイプなのだな。なら希望はある。いつもの自分に戻れば良いのだ。幸い時間はあるから、先祖の失敗エピソードは全て読み込んでおこう。マチルダ嬢の好みと分かれば、私を意識して貰えるはずだ。ああ、それからマチルダ嬢に婚約の申し込みをしそうな貴族はピックアップしたが、どこもろくでもないな。シヴィル様なら断って頂けるだろうが、お手間は取らせない方が良かろう。幸い、どこの貴族もネタはあるから、少しおとなしくして頂くか、ご退場願おう。

それから、マチルダ嬢に似合うドレスも仕立てなければ。まだ私からとは言わない方が良いな。エミリーからと言う事にしてもらうか。しかし、こちらの貴族が手を出しても困るから、私の色を着てもらうか。マチルダ嬢に気づかれるだろうか。それはそれでありがたい。私の事を少しでも意識して頂こう。
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