魔力なしの役立たずだと婚約破棄されました

編端みどり

文字の大きさ
上 下
54 / 55
改稿版

第二部番外編 シモン視点3

しおりを挟む
ジェラール様が、私に笑いかけて下さった。他の人ではなく、私に笑顔を向けてくれたのはいつぶりだろう。マックス殿も、優しそうに私に笑いかけてくれた。とても安心する優しい笑顔だ。エルザはこの笑顔に惚れたのだろうな。

「ジェラールは、シオンを助ける為に俺に土下座したんだよ。王太子が平民の俺に土下座だぜ。それがどんだけの覚悟だったのか、同じように王太子だったシオンなら分かるだろ」

「内政干渉だと分かっていても、王太子としてやってはいけないと分かっていても、どうしてもシモンを助けたかったんだ」

「……私を助けてくれたのは……哀れだったからでは……」

「その程度であんな大それた事するかよ。ジェラールは、俺に言ったんだ。頼む、親友を助けてくれってな」

「ジェラール様の親友はマックス殿では……!」

「親友が1人なんて法律ねぇだろ」

「そういう事だ。シオンの魔力が上がったのなら、エルザを利用しようする気持ちは無い。君は、僕の心配をしてくれた……シモンのままだったんだよ」

「私は愚かで……醜くて……婚約者すら利用しようとした男です。ジェラール様の事だって……贈り物も全てエルザに任せていたし……手紙だって……!」

「それに気が付いたんなら前よりマシになったんじゃね。エルザの特殊能力は、エルザを利用しようとしたら効かねえんだよ。前に魔力が下がりまくったのは、エルザがシオンを嫌ったのもあるかもしれねぇけどシオンがエルザを利用しようとしたからだ。今はそんな気持ちねぇだろ?」

「ある訳ないじゃありませんか! 私がエルザに好かれる事など未来永劫あり得ない!」

「あり得るんだよ。エルザは優しい。あんだけ酷い事をした元婚約者すら心配する。エルザの家族も最近は魔力が上がってるらしいぜ。理由は、シオンなら分かるだろ?」

そう言って、マックス殿は紙束をくれた。その紙束には、エルザの特殊能力について書かれていた。城に残っていた資料と同じ記述も多かったが、知らない事も沢山書かれていた。200年以上前に王家から逃げ出した姫。彼女は国を荒らし、国宝を奪った野蛮な女性だと聞いている。

だが、マックス殿から渡された資料を読むと、間違っていたのではないかと思うようになった。そう言うと、マックス殿は嬉しそうに微笑んだ。気は強かったが、優しい人だったそうだ。何故彼がそんな事を知っているのかと問うと、逃げた姫の事を教えてくれた。彼の家族に保護されて生きていたらしい。

……やはり、王族や貴族が平民として暮らすには誰かの助けが必要だ。エルザと王妃様は、マックス殿が助けなければ生きていなかっただろう。

私は、改めて彼に礼を言った。

すると、ジェラール様からふたつの頼み事をされた。仕事ではなく、友人としてお願いがあると言われた。私を友人と呼んでくれるなんて、嬉しくて涙が出た。本当は親友と呼びたいが、しばらくは友人で我慢しよう。そう言われて更に泣いた。

ジェラール様の願いは、些細な事だった。人目のない時は以前のようにジェラールと呼んで欲しい。それから、城中の者達にマックス殿の魅力を伝えて欲しい。それだけだった。ジェラール様とマックス殿が親友である事は城中の者達が知っている。私がマックス殿とあまり良い関係を築いていない事も、みんな知っている。だから私がマックス殿の魅力を伝えれば、怯えている城の者達も変わるだろう。そう、ジェラール様は言った。

私だけでなく、父や母、エルザや王妃様の命の恩人であるマックス殿は間違いなく優しい人だ。私は、喜んで請け負った。

私の事は話せないが、王妃様の命の恩人というだけでみんなの見る目は変わる。王妃様は、ご自分の過去を堂々と話しているしジェラール様を狙っていた令嬢の陰湿な嫌がらせも耐えるのではなく上手く撃退しておられる。

見事な手腕だと思っていたら、全てエルザの指導によるものらしい。私は全く知らなかったが、エルザも令嬢達の攻撃を受けていたのだ。

正確には、知ろうとしなかったんだ。エルザが何度か弱音を吐いた事はあった。だが、私は冷たくあしらった。私を煩わせるなと、話すら聞かなかった。ジェラール様やマックス殿なら、決してそんな事はしない。自分がとても恥ずかしい事をしたんだと分かるようになったのは、最近だ。

過去は変えられない。だが、未来は変えられる。私はもう二度と、あんな恥ずかしい真似はしない。

「今度、3人で酒でも飲もう」

嬉しそうにジェラールが笑う。親友の笑顔を見れて、とても暖かい気持ちになった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...