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改稿版
10.訪問者
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「エルザ嬢……だよね?」
私の正体は、バレたくありません。ジェラール様は高貴なお方、森で暮らしていた設定の私と知り合いの訳ありません。どうしましょう。言葉が通じない方もジェラール様のご様子がおかしいと気が付かれたようです。
「エルちゃん、ジェラール様と知り合い?」
「そんな訳無いだろ。エルさんはずっと森で暮らしてたんだ。王子のジェラール様と知り合う機会があったとは思えない」
周りが騒いでいるのを見て、ジェラール様は平静を取り戻されました。でも、これは納得されておりませんわね……。どう誤魔化しましょうか。
「……すまない。あまりに知り合いに似ていたものだから」
「今回の通訳を務めさせて頂くエルと申します。私はずっと森で暮らしておりました。ジェラール様とお会いするのは初めてです」
「エルさんか、名前まで似ているな。まるで彼女が生き返ったようだ」
嘘を吐くのは心苦しいのですが、本当の事は言えません。見た目もかなり変えましたので、どうにか別人と思って頂きたいです。
「お亡くなりになったのですか?」
「魔物に襲われたようだ……」
「そうだったのですね。ご愁傷様です」
「ありがとう。今回の通訳はエルさんなのかな?」
「はい、宜しくお願いします」
他の人には、私が亡くなった知り合いに似ていて驚いたのだとお伝えしたところご納得いただけました。
それから数日間、ジェラール様の通訳を行いました。街中の名所を案内し、特産品の説明も行いました。いつもより多めの特産品の注文を頂けたそうで、私にも臨時ボーナスを頂きました。嬉しいですが、一刻も早くこの仕事を終えたいです。
最終日のお仕事を終えて、自宅に戻ると気が抜けて倒れ込んでしまいました。
「やっと……終わりましたわ……」
ジェラール様は、終始探るように私を眺めていました。昨日お姉様に相談したのですが、とにかく知らないフリをするしかないとの結論になりました。お姉様の式も近いですから、あまり心配をかけたくありません。
「マックスに相談するにしても……いくらなんでも早すぎるわよね」
別れて数日で助けを求めてしまうのは申し訳なさすぎます。なんだかんだでマックスは優しいので、またしばらく私の側に居てくれるでしょうけど……頼りすぎてはいけません。
「とにかく……これでジェラール様とは会わないから、あとは今まで通り過ごせば良いわ」
もう貴族に戻るなんてごめんです。魔力無しだと使い潰されるに決まってます。わたくしを大事にしてくれたのはお姉様だけ。婚約者のシモン様も、両親もただわたくしを利用するだけでしたもの。
……ジェラール様はいつもご親切でしたが……私の正体を知らせる気にはなれません。シモン様に伝わったら終わりですもの。
気を取り直して、食事にしましょう。今日は、疲れたので少しだけ贅沢をします。デザートにアップルパイを焼きました。
甘いものも令嬢時代は制限されていましたから、好きなだけ食べられて嬉しいです。ついつい食べ過ぎてしまうので、半分は明日食べましょう。
チャリン……チャリン……。
「呼び鈴? 誰かしら?」
私の家に訪ねて来る人はそんなに居ません。そういえば、冒険者ギルドでの写本の売り上げを取りに来るように言われていましたね。もしかして、持って来て頂けたのでしょうか?
「すまない、少し聞きたい事があるのだが……」
なんで、なんでよ! やっと終わったと思ったのに!
ドアを開けると、お忍びの格好でジェラール様が立っていました。
私の正体は、バレたくありません。ジェラール様は高貴なお方、森で暮らしていた設定の私と知り合いの訳ありません。どうしましょう。言葉が通じない方もジェラール様のご様子がおかしいと気が付かれたようです。
「エルちゃん、ジェラール様と知り合い?」
「そんな訳無いだろ。エルさんはずっと森で暮らしてたんだ。王子のジェラール様と知り合う機会があったとは思えない」
周りが騒いでいるのを見て、ジェラール様は平静を取り戻されました。でも、これは納得されておりませんわね……。どう誤魔化しましょうか。
「……すまない。あまりに知り合いに似ていたものだから」
「今回の通訳を務めさせて頂くエルと申します。私はずっと森で暮らしておりました。ジェラール様とお会いするのは初めてです」
「エルさんか、名前まで似ているな。まるで彼女が生き返ったようだ」
嘘を吐くのは心苦しいのですが、本当の事は言えません。見た目もかなり変えましたので、どうにか別人と思って頂きたいです。
「お亡くなりになったのですか?」
「魔物に襲われたようだ……」
「そうだったのですね。ご愁傷様です」
「ありがとう。今回の通訳はエルさんなのかな?」
「はい、宜しくお願いします」
他の人には、私が亡くなった知り合いに似ていて驚いたのだとお伝えしたところご納得いただけました。
それから数日間、ジェラール様の通訳を行いました。街中の名所を案内し、特産品の説明も行いました。いつもより多めの特産品の注文を頂けたそうで、私にも臨時ボーナスを頂きました。嬉しいですが、一刻も早くこの仕事を終えたいです。
最終日のお仕事を終えて、自宅に戻ると気が抜けて倒れ込んでしまいました。
「やっと……終わりましたわ……」
ジェラール様は、終始探るように私を眺めていました。昨日お姉様に相談したのですが、とにかく知らないフリをするしかないとの結論になりました。お姉様の式も近いですから、あまり心配をかけたくありません。
「マックスに相談するにしても……いくらなんでも早すぎるわよね」
別れて数日で助けを求めてしまうのは申し訳なさすぎます。なんだかんだでマックスは優しいので、またしばらく私の側に居てくれるでしょうけど……頼りすぎてはいけません。
「とにかく……これでジェラール様とは会わないから、あとは今まで通り過ごせば良いわ」
もう貴族に戻るなんてごめんです。魔力無しだと使い潰されるに決まってます。わたくしを大事にしてくれたのはお姉様だけ。婚約者のシモン様も、両親もただわたくしを利用するだけでしたもの。
……ジェラール様はいつもご親切でしたが……私の正体を知らせる気にはなれません。シモン様に伝わったら終わりですもの。
気を取り直して、食事にしましょう。今日は、疲れたので少しだけ贅沢をします。デザートにアップルパイを焼きました。
甘いものも令嬢時代は制限されていましたから、好きなだけ食べられて嬉しいです。ついつい食べ過ぎてしまうので、半分は明日食べましょう。
チャリン……チャリン……。
「呼び鈴? 誰かしら?」
私の家に訪ねて来る人はそんなに居ません。そういえば、冒険者ギルドでの写本の売り上げを取りに来るように言われていましたね。もしかして、持って来て頂けたのでしょうか?
「すまない、少し聞きたい事があるのだが……」
なんで、なんでよ! やっと終わったと思ったのに!
ドアを開けると、お忍びの格好でジェラール様が立っていました。
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