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ルビーのブローチを渡すまで逃しません
7.カーラのお仕事
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「お嬢様、いい加減寝て下さい!」
「待って、あとちょっと! もう少しだけ!」
「駄目です! イアン様とポール様にお伝えしますよ!」
「……お願い、あと5分だけ」
エリザベスお嬢様は、狡い。そうやって手を合わせて可愛くお願いされたら、駄目とは言えないじゃないの。
「分かりました。5分だけですからね!」
「ありがとうカーラ! じゃあ、集中するから5分後に声を掛けて!」
そう言うと、エリザベスお嬢様は真剣に机に向かわれた。仕方ない、キリがいい所までは見守ろうと決めて、10分後に声を掛けた。
「終わったわ! 待ってくれてありがとう、カーラ」
「さ、もうお休みになりませんと倒れてしまいますわ」
「そうね。私に付き合ってカーラも眠れないと困るもの。明日は午前中は予定がないから少しゆっくり起きてちょうだい。リアにもそう指示しておくから」
そう言って、エリザベスお嬢様は一枚のカードを書いて私に預けてくれた。私が残業した事と、今の時間、朝を遅めにするようにと書かれていた。
これを、メイドと侍女の統括をしているリアさんの部屋の前にある箱に入れておくと、勤務時間をリアさんが調整してくれる。どうしても時間を調整出来なければ、別途手当が付く。
他の家の使用人をしている友人に話すと、驚かれる。残業になる事は多いけど、手当なんて出た事がないし、時間を調整してくれるなんてありえないらしい。
たくさん働けば後で休みを貰える事はあるそうだけど、それも主人の気分次第だそうだ。
うちは、そんな事ない。
みんなそれぞれ勤務時間が決まっているし、勤務時間を超えたらちゃんと手当が付く。時間を管理してくれていて、働き過ぎを防いで貰えるし、半年毎に働きを査定してもらえる。
私は、エリザベスお嬢様の警備と侍女とメイドの仕事を兼任している。だから、メイドだけの時より給与がかなり上がった。
だけど、誰も私に文句を言ったりしない。他の家ならあいつは狡いと虐められかねないのに。
みんな、カーラが居てくれるから安心だと言ってくれる。それはみんな、満足いく給与を貰えているし、休みもきちんとあるからだ。
以前は、こんなにしっかりしてなかった。うちも、他の家と同じようなものだった。いや、もっと酷かった。以前の旦那様や奥様は気まぐれで、すぐにクビだクビだと使用人を脅す。
その度に、エリザベスお嬢様やポール様がセバスチャンさんやリアさんに命じて、使用人を領地に避難させてくれる。馬番のトムは、エリザベスお嬢様の婚約者を奪い取ったドロシーお嬢様の怒りを買って、領地に避難して来た。
本当はクビだった筈なのに、なんて優しい人なんだとエリザベスお嬢様に心酔している。
ポール様が爵位を継ぎ、我々の主人になってから一気に変わった。あっという間に王都の屋敷の使用人が半分解雇された。解雇されたのはみんな、以前の旦那様や奥様、ドロシー様に媚を売り仕事をしない役立たずばかりだった。
反省した者は引き続き雇われたが、居心地が悪いのか自ら辞めていった。ポール様が爵位を継いで、エリザベスお嬢様がイアン様と婚約する頃には、屋敷の使用人は減ったが、とても働きやすい職場になった。
エリザベスお嬢様とポール様は、以前のように親の目を盗んで動く必要がなくなり、我々の事を今まで以上に気にかけて下さるようになった。
暴力や金切り声に怯えなくて良くなったので、王都の屋敷でも楽しく働けるようになった。
だけど、心配事がない訳ではない。エリザベスお嬢様は、イアン様と婚約した。イアン様は侯爵様だ。しかも、かなり人気がある。
リアム様の仰る通り、エリザベスお嬢様は狙われるようになった。
「……またか」
庭から、エリザベスお嬢様のお部屋の窓を覗いている男を見つけた。即座に捕まえて、話を聞く。
ポール様の同僚のソフィア様は、尋問のプロだ。ごくたまに、私にも手ほどきをして下さる。男がガタガタ震えてるけど、穏便に話をして貰えた。
「リラック伯爵家……、ふぅん、まだ懲りないのね。縁切りした家と婚約するなんてあり得ないでしょ」
次の日の朝、男を引き渡した。
この事は、エリザベスお嬢様には報告していない。だけど、ポール様とイアン様は知っている。
守りを固めるように指示されたので、兄と一緒に警備計画を練り直した。兄は物凄く怒っていた。私も同じ気持ちだ。
我々の女神に手を出すなんて、絶対に許さない。
ポール様が一番怒っていたので、あの家はもう終わりだと思う。案の定、3か月後にリラック伯爵家は取り潰された。
「待って、あとちょっと! もう少しだけ!」
「駄目です! イアン様とポール様にお伝えしますよ!」
「……お願い、あと5分だけ」
エリザベスお嬢様は、狡い。そうやって手を合わせて可愛くお願いされたら、駄目とは言えないじゃないの。
「分かりました。5分だけですからね!」
「ありがとうカーラ! じゃあ、集中するから5分後に声を掛けて!」
そう言うと、エリザベスお嬢様は真剣に机に向かわれた。仕方ない、キリがいい所までは見守ろうと決めて、10分後に声を掛けた。
「終わったわ! 待ってくれてありがとう、カーラ」
「さ、もうお休みになりませんと倒れてしまいますわ」
「そうね。私に付き合ってカーラも眠れないと困るもの。明日は午前中は予定がないから少しゆっくり起きてちょうだい。リアにもそう指示しておくから」
そう言って、エリザベスお嬢様は一枚のカードを書いて私に預けてくれた。私が残業した事と、今の時間、朝を遅めにするようにと書かれていた。
これを、メイドと侍女の統括をしているリアさんの部屋の前にある箱に入れておくと、勤務時間をリアさんが調整してくれる。どうしても時間を調整出来なければ、別途手当が付く。
他の家の使用人をしている友人に話すと、驚かれる。残業になる事は多いけど、手当なんて出た事がないし、時間を調整してくれるなんてありえないらしい。
たくさん働けば後で休みを貰える事はあるそうだけど、それも主人の気分次第だそうだ。
うちは、そんな事ない。
みんなそれぞれ勤務時間が決まっているし、勤務時間を超えたらちゃんと手当が付く。時間を管理してくれていて、働き過ぎを防いで貰えるし、半年毎に働きを査定してもらえる。
私は、エリザベスお嬢様の警備と侍女とメイドの仕事を兼任している。だから、メイドだけの時より給与がかなり上がった。
だけど、誰も私に文句を言ったりしない。他の家ならあいつは狡いと虐められかねないのに。
みんな、カーラが居てくれるから安心だと言ってくれる。それはみんな、満足いく給与を貰えているし、休みもきちんとあるからだ。
以前は、こんなにしっかりしてなかった。うちも、他の家と同じようなものだった。いや、もっと酷かった。以前の旦那様や奥様は気まぐれで、すぐにクビだクビだと使用人を脅す。
その度に、エリザベスお嬢様やポール様がセバスチャンさんやリアさんに命じて、使用人を領地に避難させてくれる。馬番のトムは、エリザベスお嬢様の婚約者を奪い取ったドロシーお嬢様の怒りを買って、領地に避難して来た。
本当はクビだった筈なのに、なんて優しい人なんだとエリザベスお嬢様に心酔している。
ポール様が爵位を継ぎ、我々の主人になってから一気に変わった。あっという間に王都の屋敷の使用人が半分解雇された。解雇されたのはみんな、以前の旦那様や奥様、ドロシー様に媚を売り仕事をしない役立たずばかりだった。
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暴力や金切り声に怯えなくて良くなったので、王都の屋敷でも楽しく働けるようになった。
だけど、心配事がない訳ではない。エリザベスお嬢様は、イアン様と婚約した。イアン様は侯爵様だ。しかも、かなり人気がある。
リアム様の仰る通り、エリザベスお嬢様は狙われるようになった。
「……またか」
庭から、エリザベスお嬢様のお部屋の窓を覗いている男を見つけた。即座に捕まえて、話を聞く。
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次の日の朝、男を引き渡した。
この事は、エリザベスお嬢様には報告していない。だけど、ポール様とイアン様は知っている。
守りを固めるように指示されたので、兄と一緒に警備計画を練り直した。兄は物凄く怒っていた。私も同じ気持ちだ。
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ポール様が一番怒っていたので、あの家はもう終わりだと思う。案の定、3か月後にリラック伯爵家は取り潰された。
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