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ルビーのブローチを渡すまで逃しません
1.リアムの過去
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私の名前は、リアム。以前は、国の中枢で様々な仕事をしていた。その時親しくなった国王陛下からは、何度か爵位を与えると言われたが断った。国王陛下は笑って私の気持ちを受け止めて下さったが、上司から責められて出世ルートから外れた。
王都に居づらくなった私は、領地運営が出来たのであちこちで代官として仕事をするようになった。私が派遣されるのは、あまりうまくいっていない領地が多い。なんとか立て直すと、私に頼りきりにならないようにすぐに辞めていた。私が辞めると知ると焦って恫喝されたり、泣いて縋ったりもされた。だが、私がずっと居ると思われても困る。半年間で見込みのある人を見つけ、領地運営が上手くいくように整えるのが私の仕事だ。
貴族が正しく領地を運営する事。それが国王陛下のお望みだ。私は、この仕事に誇りを持っている。
私は生まれた時から平民だが、領地運営の知識はある。
私の身体の半分は、貴族の血が流れている。忌まわしい父親の血だ。そのせいで、優しい母は衰弱して死んだ。
父さえ居なければ、母は幸せに暮らせただろうに。
「そんな事言わないで。リアムが生まれて良かった。大好きよ。どうか幸せになって」
衰弱した母は、死の間際まで私を気遣い、笑っていた。
辛い日々だった筈なのに。
私さえ居なければ、母は父から……いや、あの忌まわしい子爵様から逃れて……幸せに生きていただろうに。
それでも母は、これで良かった。
私が生まれて良かったと最後まで笑ってくれた。
母が死んで数ヶ月経つと、私の元に毎日来ていた教師が突然来なくなった。
おかしいと思い調べると、私を閉じ込めた子爵様は奥方の懐妊で大喜びだと街中の噂になっていた。
ああ……私は殺される。そう直感した。
私は、子が生まれなかったからと引き取られたリンゼイ子爵の跡取り候補。母は、リンゼイ子爵家の使用人だった。父であるリンゼイ子爵に無理矢理手籠にされた母は私を身籠り、逃げた。
だが、逃げる事は許されなかった。子が産まれないリンゼイ子爵の奥方は、私を見つけ出し跡取り教育を施した。母と私を脅し、逃げ道を塞いだ。私は、母と生きる為に厳しい跡取り教育を受けるしかなかった。この国は、血縁者でなければ爵位を継ぐ審査が厳しい。
だから、夫の子である私は重要な駒だったのだろう。だが、正当な跡取りが生まれれば私は邪魔者だ。きっと、私は殺される。
母は、私が幸せになる事を望んでいる。
こんな所で死ぬ訳にいかない。
ついに跡取りが産まれたと街中がお祭り騒ぎになっている隙を狙い、母の遺骨だけを持って逃げ出した。
その日から、私は貴族を恨んでいる。
数年経って街に戻ると、私が住んでいた、いや、閉じ込められていた家は無くなっていた。火事になったそうだ。父も、いつの間にか死んでいた。今は奥方が爵位を継いだそうだ。あの奥方は、会った事はないが冷酷な人物だろう。母と私を閉じ込めるように命じたのも父ではなく彼女だし、近所に噂を広めて母が働けないようにしたのも彼女だ。
家だけ与えて、住まいがあるだけありがたいだろうと言ったそうだ。哀れに思った近所の人がこっそり助けてくれなければ、生活はもっと苦しかった。久しぶりに会った恩のある人達は、私が生きていたと知ると、とても喜んでくれた。そして、二度とこの街に来るなと助言してくれた。
あのままあの家に居たら、私は殺されていたのだろう。私は、恩人達のアドバイス通り二度とリンゼイ子爵家の領地に足を踏み入れる事はなかった。
後から知ったのだが、私はリンゼイ子爵が認めない限り跡取りにはなれなかったのだそうだ。逃げる必要はなかったかもしれない。だが、下手に知識がある私は都合良く利用された可能性が高い。
やはりあの時、逃げて正解だったのだ。
それから、様々な仕事を経て……なんの因果か私は国に仕えている。父よりも偉い貴族がたくさん居る職場に、だんだん感覚が麻痺していった。むやみやたらに国の最高権力者が顔を出し、時にはみんなに酒を振る舞う。いつの間にか、私は国王陛下の飲み友達になっていた。
私の知っている貴族像が、ガラガラと崩れていった。
王都に居づらくなった私は、領地運営が出来たのであちこちで代官として仕事をするようになった。私が派遣されるのは、あまりうまくいっていない領地が多い。なんとか立て直すと、私に頼りきりにならないようにすぐに辞めていた。私が辞めると知ると焦って恫喝されたり、泣いて縋ったりもされた。だが、私がずっと居ると思われても困る。半年間で見込みのある人を見つけ、領地運営が上手くいくように整えるのが私の仕事だ。
貴族が正しく領地を運営する事。それが国王陛下のお望みだ。私は、この仕事に誇りを持っている。
私は生まれた時から平民だが、領地運営の知識はある。
私の身体の半分は、貴族の血が流れている。忌まわしい父親の血だ。そのせいで、優しい母は衰弱して死んだ。
父さえ居なければ、母は幸せに暮らせただろうに。
「そんな事言わないで。リアムが生まれて良かった。大好きよ。どうか幸せになって」
衰弱した母は、死の間際まで私を気遣い、笑っていた。
辛い日々だった筈なのに。
私さえ居なければ、母は父から……いや、あの忌まわしい子爵様から逃れて……幸せに生きていただろうに。
それでも母は、これで良かった。
私が生まれて良かったと最後まで笑ってくれた。
母が死んで数ヶ月経つと、私の元に毎日来ていた教師が突然来なくなった。
おかしいと思い調べると、私を閉じ込めた子爵様は奥方の懐妊で大喜びだと街中の噂になっていた。
ああ……私は殺される。そう直感した。
私は、子が生まれなかったからと引き取られたリンゼイ子爵の跡取り候補。母は、リンゼイ子爵家の使用人だった。父であるリンゼイ子爵に無理矢理手籠にされた母は私を身籠り、逃げた。
だが、逃げる事は許されなかった。子が産まれないリンゼイ子爵の奥方は、私を見つけ出し跡取り教育を施した。母と私を脅し、逃げ道を塞いだ。私は、母と生きる為に厳しい跡取り教育を受けるしかなかった。この国は、血縁者でなければ爵位を継ぐ審査が厳しい。
だから、夫の子である私は重要な駒だったのだろう。だが、正当な跡取りが生まれれば私は邪魔者だ。きっと、私は殺される。
母は、私が幸せになる事を望んでいる。
こんな所で死ぬ訳にいかない。
ついに跡取りが産まれたと街中がお祭り騒ぎになっている隙を狙い、母の遺骨だけを持って逃げ出した。
その日から、私は貴族を恨んでいる。
数年経って街に戻ると、私が住んでいた、いや、閉じ込められていた家は無くなっていた。火事になったそうだ。父も、いつの間にか死んでいた。今は奥方が爵位を継いだそうだ。あの奥方は、会った事はないが冷酷な人物だろう。母と私を閉じ込めるように命じたのも父ではなく彼女だし、近所に噂を広めて母が働けないようにしたのも彼女だ。
家だけ与えて、住まいがあるだけありがたいだろうと言ったそうだ。哀れに思った近所の人がこっそり助けてくれなければ、生活はもっと苦しかった。久しぶりに会った恩のある人達は、私が生きていたと知ると、とても喜んでくれた。そして、二度とこの街に来るなと助言してくれた。
あのままあの家に居たら、私は殺されていたのだろう。私は、恩人達のアドバイス通り二度とリンゼイ子爵家の領地に足を踏み入れる事はなかった。
後から知ったのだが、私はリンゼイ子爵が認めない限り跡取りにはなれなかったのだそうだ。逃げる必要はなかったかもしれない。だが、下手に知識がある私は都合良く利用された可能性が高い。
やはりあの時、逃げて正解だったのだ。
それから、様々な仕事を経て……なんの因果か私は国に仕えている。父よりも偉い貴族がたくさん居る職場に、だんだん感覚が麻痺していった。むやみやたらに国の最高権力者が顔を出し、時にはみんなに酒を振る舞う。いつの間にか、私は国王陛下の飲み友達になっていた。
私の知っている貴族像が、ガラガラと崩れていった。
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