21 / 52
ルビーのブローチを渡すまで逃しません
1.リアムの過去
しおりを挟む
私の名前は、リアム。以前は、国の中枢で様々な仕事をしていた。その時親しくなった国王陛下からは、何度か爵位を与えると言われたが断った。国王陛下は笑って私の気持ちを受け止めて下さったが、上司から責められて出世ルートから外れた。
王都に居づらくなった私は、領地運営が出来たのであちこちで代官として仕事をするようになった。私が派遣されるのは、あまりうまくいっていない領地が多い。なんとか立て直すと、私に頼りきりにならないようにすぐに辞めていた。私が辞めると知ると焦って恫喝されたり、泣いて縋ったりもされた。だが、私がずっと居ると思われても困る。半年間で見込みのある人を見つけ、領地運営が上手くいくように整えるのが私の仕事だ。
貴族が正しく領地を運営する事。それが国王陛下のお望みだ。私は、この仕事に誇りを持っている。
私は生まれた時から平民だが、領地運営の知識はある。
私の身体の半分は、貴族の血が流れている。忌まわしい父親の血だ。そのせいで、優しい母は衰弱して死んだ。
父さえ居なければ、母は幸せに暮らせただろうに。
「そんな事言わないで。リアムが生まれて良かった。大好きよ。どうか幸せになって」
衰弱した母は、死の間際まで私を気遣い、笑っていた。
辛い日々だった筈なのに。
私さえ居なければ、母は父から……いや、あの忌まわしい子爵様から逃れて……幸せに生きていただろうに。
それでも母は、これで良かった。
私が生まれて良かったと最後まで笑ってくれた。
母が死んで数ヶ月経つと、私の元に毎日来ていた教師が突然来なくなった。
おかしいと思い調べると、私を閉じ込めた子爵様は奥方の懐妊で大喜びだと街中の噂になっていた。
ああ……私は殺される。そう直感した。
私は、子が生まれなかったからと引き取られたリンゼイ子爵の跡取り候補。母は、リンゼイ子爵家の使用人だった。父であるリンゼイ子爵に無理矢理手籠にされた母は私を身籠り、逃げた。
だが、逃げる事は許されなかった。子が産まれないリンゼイ子爵の奥方は、私を見つけ出し跡取り教育を施した。母と私を脅し、逃げ道を塞いだ。私は、母と生きる為に厳しい跡取り教育を受けるしかなかった。この国は、血縁者でなければ爵位を継ぐ審査が厳しい。
だから、夫の子である私は重要な駒だったのだろう。だが、正当な跡取りが生まれれば私は邪魔者だ。きっと、私は殺される。
母は、私が幸せになる事を望んでいる。
こんな所で死ぬ訳にいかない。
ついに跡取りが産まれたと街中がお祭り騒ぎになっている隙を狙い、母の遺骨だけを持って逃げ出した。
その日から、私は貴族を恨んでいる。
数年経って街に戻ると、私が住んでいた、いや、閉じ込められていた家は無くなっていた。火事になったそうだ。父も、いつの間にか死んでいた。今は奥方が爵位を継いだそうだ。あの奥方は、会った事はないが冷酷な人物だろう。母と私を閉じ込めるように命じたのも父ではなく彼女だし、近所に噂を広めて母が働けないようにしたのも彼女だ。
家だけ与えて、住まいがあるだけありがたいだろうと言ったそうだ。哀れに思った近所の人がこっそり助けてくれなければ、生活はもっと苦しかった。久しぶりに会った恩のある人達は、私が生きていたと知ると、とても喜んでくれた。そして、二度とこの街に来るなと助言してくれた。
あのままあの家に居たら、私は殺されていたのだろう。私は、恩人達のアドバイス通り二度とリンゼイ子爵家の領地に足を踏み入れる事はなかった。
後から知ったのだが、私はリンゼイ子爵が認めない限り跡取りにはなれなかったのだそうだ。逃げる必要はなかったかもしれない。だが、下手に知識がある私は都合良く利用された可能性が高い。
やはりあの時、逃げて正解だったのだ。
それから、様々な仕事を経て……なんの因果か私は国に仕えている。父よりも偉い貴族がたくさん居る職場に、だんだん感覚が麻痺していった。むやみやたらに国の最高権力者が顔を出し、時にはみんなに酒を振る舞う。いつの間にか、私は国王陛下の飲み友達になっていた。
私の知っている貴族像が、ガラガラと崩れていった。
王都に居づらくなった私は、領地運営が出来たのであちこちで代官として仕事をするようになった。私が派遣されるのは、あまりうまくいっていない領地が多い。なんとか立て直すと、私に頼りきりにならないようにすぐに辞めていた。私が辞めると知ると焦って恫喝されたり、泣いて縋ったりもされた。だが、私がずっと居ると思われても困る。半年間で見込みのある人を見つけ、領地運営が上手くいくように整えるのが私の仕事だ。
貴族が正しく領地を運営する事。それが国王陛下のお望みだ。私は、この仕事に誇りを持っている。
私は生まれた時から平民だが、領地運営の知識はある。
私の身体の半分は、貴族の血が流れている。忌まわしい父親の血だ。そのせいで、優しい母は衰弱して死んだ。
父さえ居なければ、母は幸せに暮らせただろうに。
「そんな事言わないで。リアムが生まれて良かった。大好きよ。どうか幸せになって」
衰弱した母は、死の間際まで私を気遣い、笑っていた。
辛い日々だった筈なのに。
私さえ居なければ、母は父から……いや、あの忌まわしい子爵様から逃れて……幸せに生きていただろうに。
それでも母は、これで良かった。
私が生まれて良かったと最後まで笑ってくれた。
母が死んで数ヶ月経つと、私の元に毎日来ていた教師が突然来なくなった。
おかしいと思い調べると、私を閉じ込めた子爵様は奥方の懐妊で大喜びだと街中の噂になっていた。
ああ……私は殺される。そう直感した。
私は、子が生まれなかったからと引き取られたリンゼイ子爵の跡取り候補。母は、リンゼイ子爵家の使用人だった。父であるリンゼイ子爵に無理矢理手籠にされた母は私を身籠り、逃げた。
だが、逃げる事は許されなかった。子が産まれないリンゼイ子爵の奥方は、私を見つけ出し跡取り教育を施した。母と私を脅し、逃げ道を塞いだ。私は、母と生きる為に厳しい跡取り教育を受けるしかなかった。この国は、血縁者でなければ爵位を継ぐ審査が厳しい。
だから、夫の子である私は重要な駒だったのだろう。だが、正当な跡取りが生まれれば私は邪魔者だ。きっと、私は殺される。
母は、私が幸せになる事を望んでいる。
こんな所で死ぬ訳にいかない。
ついに跡取りが産まれたと街中がお祭り騒ぎになっている隙を狙い、母の遺骨だけを持って逃げ出した。
その日から、私は貴族を恨んでいる。
数年経って街に戻ると、私が住んでいた、いや、閉じ込められていた家は無くなっていた。火事になったそうだ。父も、いつの間にか死んでいた。今は奥方が爵位を継いだそうだ。あの奥方は、会った事はないが冷酷な人物だろう。母と私を閉じ込めるように命じたのも父ではなく彼女だし、近所に噂を広めて母が働けないようにしたのも彼女だ。
家だけ与えて、住まいがあるだけありがたいだろうと言ったそうだ。哀れに思った近所の人がこっそり助けてくれなければ、生活はもっと苦しかった。久しぶりに会った恩のある人達は、私が生きていたと知ると、とても喜んでくれた。そして、二度とこの街に来るなと助言してくれた。
あのままあの家に居たら、私は殺されていたのだろう。私は、恩人達のアドバイス通り二度とリンゼイ子爵家の領地に足を踏み入れる事はなかった。
後から知ったのだが、私はリンゼイ子爵が認めない限り跡取りにはなれなかったのだそうだ。逃げる必要はなかったかもしれない。だが、下手に知識がある私は都合良く利用された可能性が高い。
やはりあの時、逃げて正解だったのだ。
それから、様々な仕事を経て……なんの因果か私は国に仕えている。父よりも偉い貴族がたくさん居る職場に、だんだん感覚が麻痺していった。むやみやたらに国の最高権力者が顔を出し、時にはみんなに酒を振る舞う。いつの間にか、私は国王陛下の飲み友達になっていた。
私の知っている貴族像が、ガラガラと崩れていった。
15
お気に入りに追加
6,536
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。