妹と婚約者の逢瀬を見てから一週間経ちました

編端みどり

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その後

ポールとリリアン

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「ポール! ソフィア! 無事で良かった!!!」

リリアンが僕とソフィアに抱きついてきた。リリアンの目は真っ赤で、前に会った時よりも華奢になっていた。きっと、心配であまりご飯が食べられなかったのだろう。

「ごめんね。心配かけて」

「心配なんかしてないわっ! でも、無事で良かった!」

「素直じゃないわねぇ」

「……うるさいわよ」

「あらぁ、下品な言葉遣いねぇ」

「失礼しました。ポール、ソフィア、おかえりなさいませ」

淑女の礼をするリリアンはとても美しい。堂々とした立ち振る舞いがイアン様にそっくりだ。そう言うと、リリアンはとても嬉しそうに笑った。その笑顔が可愛くて、思わず見惚れてしまうんだ。

「それじゃ、わたくしは帰るわ。また後でね、リリアン」

そう言って、ソフィアは帰って行った。リリアンは、じっと僕の顔を見ている。

「心配かけてごめんね。もう、大丈夫だから」

「……ソフィアが一緒なんだから、大丈夫だって分かってたわ」

寂しそうに微笑むリリアンの笑顔に、胸が締め付けられる。

「わたくしは、何も出来ないもの。ソフィアみたいに仕事は出来ないし、お姉様みたいに自分で考えて動く事も出来ない。ただ、オロオロして騒いでいただけよ」

そう言って、そっぽを向いたリリアン。僕もリリアンと同じ気持ちになった事がある。姉さんは凄くて、いつも僕を守ってくれた。だけど……そのせいで両親の攻撃は全て姉さんに向けられた。僕は何も出来なかった。姉さんの指示通り、両親やドロシーに好かれるように振る舞った。最初は苦しかったけど、次第に慣れた。今では、噓を吐くのは得意だ。

こんな時、どうでも良い相手ならそんな事ないと適当に慰めれば良い。だけど、リリアンには嘘を吐きたくない。

「僕もそうだったよ。姉さんが頑張ってるのに、僕は何も出来なかった。姉さんが殴られてても、助ける事が出来なかった。けど、今は違う。姉さんのドレスを用意出来るし、姉さんを狙う貴族を潰す事だって出来る。リリアンも、今は何も出来ないかもしれない。けど、1年後にはいろんな事が出来るようになってるよ。僕も協力するから、頑張ろう」

「ポール……。そこは嘘でもそんな事ないって言うところでしょう?」

リリアンの目に涙が浮かんでいる。そんな姿も愛おしい。

「リリアンには噓を吐きたくないんだ」

「ポールの正直なところ、好きよ」

「僕は嘘吐きだよ」

「わたくしに嘘を吐いた事はないでしょう?」

「……それは」

確かに、リリアンには噓を吐いた事はない。言わずに誤魔化したりした事は何度もあるけど……嘘だけは言えなかった。

リリアンは、目を細めてにっこり笑った。

「良いわ、半年待ってなさい。お姉様がうちに来れば、もっと色々教えて貰える。半年後、成長したわたくしを見てなさいよ! 絶対に、ポールをギャフンと言わせてあげるわ!」

涙が引っ込んだリリアンが胸を張る。ああ、やっぱりリリアンは前向きで、とても可愛い。リリアンと話していると、胸が暖かくなる。

「じゃあ、僕もリリアンに負けないように頑張るよ」

「ポールが頑張ったら、わたくしが追いつけないじゃないの!」

そう言って騒ぐリリアンが可愛くて仕方ない。僕は欲張りで、狡い。2人の気持ちは分かってるのにどうしたら良いのか、全く分からない。
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