政略結婚の指南書

みどり

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23.国王陛下との謁見

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「お初にお目にかかります。リリアン・オブ・レイモンドと申します」

国王陛下との謁見が始まった。わたくしの仕事は、好印象を残してマチルダ様とミーシャ様の話題を出すことよ。

国王陛下は、わたくしの堂々とした態度に口元に微笑を漂わせた。

「ほう。病弱と聞いていたがずいぶん顔色が良いじゃないか」

「ええ、ガルシア殿下が紹介して下さった医師が優秀でして。ようやく娘を外に出せるようになりました」

「そういえば、貴殿はガルシア殿下と交流があったな。元気になって良かったのぉ。無理はするでないぞ」

「ありがとうございます。マチルダ王女にも励まされました」

「……マチルダが?」

「はい。ガルシア殿下がわたくしの話をして下さったようなのです。素敵なお手紙を頂きました。今日はマチルダ王女にお礼を言いたくて! 頂いた手紙も持ってまいりましたわ。マチルダ王女はどちらに?」

キョロキョロと周りを見て、憧れの王女様に会いたい令嬢を演じる。手紙を胸に、空気を読まず微笑む。

手紙はマチルダ様に用意して頂いた。ガルシア様経由で渡されたという設定だ。当然、ガルシア様にも口裏を合わせてもらっている。

手紙には、怪しそうな人たちの名前を書いてもらっている。国王陛下の名前もある。亡くなった王妃様と現在の王妃様の事も好意的に書かれている。他にもマチルダ王女と交流のある令嬢の名前や、家庭教師の名前などを書いてもらった。

「マチルダ様のお手紙を読んで、頑張れました。お手紙に書かれている通り、国王陛下と王妃様は素敵な方ですね。そうだわ。ミーシャ王女の事も書かれていました。ミーシャ王女にもご挨拶したいですわ」

第二王女は、女性のみが参加するサロンしか社交をしない。けど、それは王家のしきたりで貴族達は知らないのだ。レイモンド公爵と夫人は病弱だから夜会に来ないと思っていたみたいで、驚いていたもの。第二王女は他国に嫁がないとミーシャ様は言っていたけど、そのこともレイモンド公爵は知らなかった。

マチルダ様か、ミーシャ様が王位を継ぐと思っていたそうだ。

マチルダ様やミーシャ様から聞いた情報と、レイモンド公爵やリリアン様から聞いた情報には、かなりの食い違いがある。

もしかしたら、今回の事件の黒幕は……。

ミーシャ様の名前を出した瞬間、王妃様の顔が歪み、国王陛下が身を乗り出した。

「……マチルダとミーシャは病気で、今日は出られない。だから、ワシがリリアンの言葉を伝えておく。マチルダが書いた手紙を見せてくれ」

「そ、そんな。国王陛下のお手を煩わせるわけには……」

「良い! ワシが良いと言っておるのだ! 問題なかろう! 手紙を見せてくれ!!!」

「かしこまりました。リリアン、手紙を陛下へ」

「は、はい。こちらでございます。わたくしの宝物なのです……どうか……」

「分かっておる。来週の夜会で返すと約束する。マチルダに見せねば其方の話が出来ぬであろう」

国王陛下が手紙を開くと、どんどん顔色が悪くなっていった。

「承知しました。来週も連れてまいります。リリアン、時間だ」

「分かりましたお父様。御前失礼いたします」

レイモンド公爵には、手紙を渡したら理由をつけて去るようにと頼んでおいた。焦った様子の国王陛下と、表情の歪んだ王妃様。きっと数日以内に接触してくるだろう。

情報を少し与えて、自ら調べてもらう。人は自分で調べた情報を信じる傾向がある。すでに種は蒔いているから、偽物の情報を刈り取って貰うわ。

デビュタントの謁見時間は5分と決まっている。時間ギリギリまで話した令嬢はわたくしだけだった。

今まで姿を見せた事のない、国王陛下に目をかけられた高位の公爵令嬢は目立ってしまった。レイモンド公爵と離れた途端、男性達に囲まれた。

しかし、誰一人良いとは思えない。

ロバート様を見習いなさいよ!
エスコートはスマートだし、令嬢を呼び捨てになんてしない。たとえ下位貴族のご令嬢でも、ロバート様なら礼を尽くすわ!

それに比べてこの男達は……!

公爵家より身分が低いのに、公爵令嬢を呼び捨てにして腕を引っ張ろうとする。病弱でマナーを知らないだろうからと舐めているのだわ。一度踊ってしまえば、それを理由にレイモンド公爵家に近づけると思ってる。女性達が心配そうに見ているわね。あのグループは、あとで接触しましょう。

今回の捜査では、絶対に踊らないと約束している。踊ると、色々面倒な事になってしまうらしいわ。どうやってあしらおうか悩んでいたら、目の前に愛しい夫が現れた。

「お嬢様、旦那様がお呼びです」

「ろ……フィリップありがとう。みなさん、お誘いありがとうございます。父が呼んでおりますので、まずは父に相談しますわ」

「い……いや……それは……」
「わ、私は用を思い出した!」
「私もだ!」

レイモンド公爵の名を出され、身体の大きなロバート様にひと睨みされると、男達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
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