お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり

文字の大きさ
上 下
57 / 57
辺境伯夫人は頑張ります

20

しおりを挟む
「彼は、変わったよ。すっかり真面目になって、深夜まで勉強してる。怪我も治ったし、元気にしてるそうだ」

「そうなのね。わたくしはお会いしてないから、気になってたのよね。元気になられたなら良かったわ」

「ハンス様に会いたい?」

「お元気ならそれで良いわ。あ、もしかしてお会いしないといけないの? 今ではハンス様は英雄ですものね。辺境伯夫人として交流した方が良いかしら?」

「大丈夫! そんな事しなくて良い! ハンス様を英雄視する声はあるけど、彼は今後は目立つ事をしないよ。平和に国が分割されたら自分の役目は終わりだと姿を隠されている。混乱期には、カリスマのあるリーダーが必要だからな。自分が英雄視されるなんておこがましいって言っておられたけど、王太子殿下が説得して表に立って頂いたんだ。外部の人間に出来る事は限られてるからね。美しい容姿の方が傷だらけで必死に訴えたら、かなり効果的だったよ。正直、オレはあまりハンス様を信用してなかったんだが……失礼だったな」

「今までの事を考えると、すぐには信用出来ないわよね。それはお互い様よ。ハンス様は本来はお優しい方なのでしょうね」

「そうだな。何度かお会いしたが、まるで別人のようだった。穏やかになっておられたし、シャーリーへの発言も無礼だったと謝罪してくれた。今まであんな態度を取っていた事が恥ずかしいと、ずっと謝っておられたよ」

「わたくしもそうだったけど、自分で考える事が出来るようになるとなんであんなに必死で言う事を聞いていたのかしらって馬鹿馬鹿しくなるのよね。わたくしは先生に会って、エリザベスと仲良くなって世界が広がったら急に家族の言う事がおかしいって分かるようになったの。それまでは、無条件で両親や姉の言う事を聞いていたんだけど……今思えば馬鹿馬鹿しいわ。先生に相談したら、今まで通り言う事を聞くフリをして自分の意志を通す方法をたくさん教えてくれたの。だからフレッドと結婚する時も上手く言いくるめられたわ!」

「あの時か。姉の為だと言って結婚を認めさせたものな」

「ふふっ、エリザベスやクリストファー様の口添えもあったけどね」

「本当に、シャーリーと結婚出来て良かったよ」

「わたくしもよ! 愛してるわ!」

そう言って口付けを交わすと、とっても幸せな気持ちになる。

「そうだ! このブレスレット、お返しするわ。もう安全よね?」

「そのままシャーリーが持っててくれ」

「え?! 駄目よ! 大事な宝物なんだから!」

「父上も母上も、親族達も皆賛成してる。ただし、シャーリーが嫌がらない事って条件は付いてるけどね。カールなんか、持ってないと危ないから持たせておけって譲らなかったよ。それにね、ハンス様の国に残っていた宝物が売りに出されたんだ。同じような効果のある魔道具がいくつか手に入ったから、問題ない。そのブレスレットはシャーリーの持ち物にしてくれ」

「待って! これって辺境伯に伝わる宝物よね?!」

「そうだよ。でも、あくまでも大事なのは魔道具の効果だから。同じような効果のある魔道具があればそれで良い。俺達は国を守る為に色んな準備をしてるよね。そのブレスレットも単なる防具だ。他の物で代用出来るなら、シャーリーに渡して構わない。それにね、シャーリーが危険に晒されたらとっても困るんだよ」

「そ、そうなの?」

「そうだよ。シャーリーに何かあれば、まずエリザベス様が怒るだろ?」

「確かに、そうね」

「それだけじゃない。オレ達だって冷静でいられる自信はない。今回だって、記録玉をふたつも同時に起動するなんて無茶をして……魔力、ギリギリだっただろう? 魔力切れを起こしたら気絶するんだぞ。敵の前で無防備に倒れるところだったじゃないか。なんであんな無茶をした」

録画魔法は同時にふたつの魔法玉に保存すると、かなりの魔力を消費する。ひとつだけなら1日中保存する事も可能だが、ふたつは厳しい。

だから、ハンス様も記録玉をふたつ保存しているなんて疑ったりしなかった。記録玉を出せば、複製しない限りひとつだけしかない。そう思うのが当然だ。フレッドだけは、気が付いていたけれど。だから、帰ったらすぐに叱られてしまったわ。

「大丈夫よ。1時間以内にフレッドが来ると思ってたから、魔力は保つと計算してたわ」

「なんで1時間?」

「操られた王太子殿下に連れられて行く時、王太子殿下の手前、フレッドには連絡するなって言ったの。でも、みんなは絶対フレッドに連絡してくれるって信じてた。あの時点でフレッドが出かけてから1時間だったわ。ゲートを使っていたし、魔道具も付けたからわたくしの居場所を確認出来るでしょう? フレッドなら、1時間以内には来てくれるって思ってたの。実際、すぐ来てくれたじゃない」

「ああもう……本当にシャーリーは……」

どうしたのかしら?
フレッドが真っ赤な顔でわたくしを抱き締めてくれる。暖かくて、幸せだわ。

「シャーリー……オレはね、シャーリーが大好きなんだ。シャーリーの行動を制限なんてしたくない。けど、そのブレスレットは付けてて欲しいんだ」

「分かったわ! フレッドは優しいわね」

「オレの行動を優しいと思うのおかしいからね?! 言ったよね? そのブレスレット、居場所も分かるんだよ?! この間渡した物全てそうだ! そんなの、気持ち悪いだろ?」

「知ってるわよ。でも別にフレッドが居場所を知るくらい気にしないわ」

「嫌だろ普通! 居場所を把握されたくなんてないだろ?!」

「そうね。でも……フレッドは常にわたくしの居場所を探ったりしないでしょ?」

「え?」

「居場所を調べるのは、あくまでも緊急時だけでしょう? 例えば、わたくしがフレッドに内緒でプレゼントをしたいからって街を歩いていても、フレッドは居場所を調べたりしないわよね?」

「そりゃ、そんな事しないけど……」

「そうよね! なら別に大丈夫よ! 危ない時はこの宝石を押せば良いのよね?」

「ああ、そういえばあの時はなんで押さなかったんだ?」

「ブレスレットの存在を知られたくなかったの。次は大丈夫よ! こっそり押せるようにメアリーと研究したから!」

「え?! オレは何も知らないぞ!」

「本物を押したら、フレッドのお仕事の邪魔になるでしょう? 似たものを作って、練習したのよ。もちろん魔道具じゃないからただ押すだけだけどね。服に隠してても、縛られてても押せるようになったわ! だから安心して。普段は、居場所を調べたりしなくて良いわよ」

「分かった。シャーリーが嫌じゃないなら、そのまま付けててくれ」

「分かったわ! 街に出かける時はいくつか付けて行くから安心してね」

先生が最初に教えてくれた事。
自分で考え、行動する事。相手が何を望んでいるか、よく観察する事。相手の希望が分かれば、自分のやりたい事も出来るからよく周りを見なさいって言われたわ。その横でお姉様は寝てた。

わたくしがやりたかったのは、あの家で平穏に過ごす事。ケイリー様が現れてからは、あの家からなんとか脱出する事。それだけだった。

フレッドと結婚してから少しずつ楽しみを見つけた。刺繍は姉の手伝いをする面倒な時間だったのに、フレッドの持ち物を飾る幸せな時間になった。フレッドにお金を払わせているのが申し訳ないとメアリーに溢したら、事業をやれば良いと勧めてくれた。フレッドは賛成してくれて、家族もそれぞれ事業をしてたから色々教えてくれた。

わたくしは、自分の好きなものがたくさん出来た。取られるからと物には執着しなかったのに、フレッドからの贈り物は誰にも渡したくないって思う。

フレッドはわたくしが心配なだけ。
わたくしも、フレッドになら束縛されても構わない。でも、内緒でフレッドにプレゼントを買いたい時もあるから、こうやってフレッドの心配を取り除いてあげれば……平時は居場所を調べられない。

「シャーリー……愛してる」

「わたくしもフレッドだけを愛してるわ」

わたくしを閉じ込めたい旦那様。
だけど大丈夫。わたくしはどこにも行かないわ。だから、少しだけ自由を頂戴ね。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

処理中です...