お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり

文字の大きさ
上 下
52 / 57
辺境伯夫人は頑張ります

15

しおりを挟む
王太子殿下に連れられて王城に行くのかと思ったら、見知らぬ場所に出た。

大量のゲートがある。ここは……この間ハンス王子をお見送りした各国へ繋がるゲートだわ。だけど、様子がおかしい。居る筈の見張りが居ない。随所に設置された魔道具も、全て闇に覆われている。これでは、録画する事は不可能だ。音声だけは録れているかもしれないが……あまり期待は出来ないだろう。

「ここは?」

「……」

「殿下?! 王太子殿下?!」

まるで糸の切れた人形のように、動かなくなる王太子殿下。

「……やっと、連れ出せたんだ。ったく、遅いよ。そろそろ魔法の効果が切れるから焦ってたんだけど……やっぱり王太子が直接迎えに行くのは効くね。お久しぶり、シャーリー様」

「ハンス王子……。貴方の仕業ですの? 我が国の至宝である王太子殿下に、何をなさったのですか?」

「……至宝、ねぇ。貴女を攫おうとした男を信じるの?」

「殿下のご様子は明らかに異常です。本来の王太子殿下は、思慮深いお方ですわ」

「ふーん、そう。ついでに王太子の信頼も失わせようと思ったんだけど……アンタがそんな様子なら、期待は出来ないかぁ」

「王太子殿下の積み上げてきた信頼は、こんな事では揺るぎませんわ」

「まあ良い。予定の獲物は連れて来てくれたからね。さっさと俺に惚れてくれりゃあ話は簡単だったのに。アンタの国、なんなの。みんないい子ちゃんばっかり。エリザベスだって、俺に見向きもしない。王妃は国王にべったり。熊に嫁がされた哀れなアンタならいけると思ったのに、なんであんな熊が良いのさ」

「……熊、ですか。誰を指しているのか分かりかねますわ」

「辺境伯の化け物熊だよ! なんなのアイツ! アイツが辺境に君臨していると邪魔なんだよ! だから、唯一の弱点であるアンタを狙ったんだ。熊に攫われたお姫様なら、助けを求めてくれると思ったのに」

「フレッドは、熊ではありません。わたくしの大事な夫です」

「……熊にベタ惚れって本当だったんだね。信じなかった僕の失敗か。あーくそっ! なんであんなのが良いの?! 辺境伯って金だけはあるもんね。金目当て?」

「いいえ」

「そんなキラキラしたドレスやアクセサリー付けてる癖に、いい子ちゃんぶっちゃって。そのドレス、うちの国じゃ王族でもなかなか入手出来ない希少な絹だよ。姉上に見せたら、剥ぎ取られちゃうかも」

「そうなんですね。夫からのプレゼントですから剥ぎ取られる訳に参りませんわ。よろしければ、わたくしが運営する商会のドレスをお売りしますわよ。同じ絹を使用した最高級のドレスがごさいます」

「……ちっ……、豊かで良いよな。こっちは税金が搾り取れなくて困ってんのに」

「飢饉のせいですわね」

「ああ、そうだよ。だからちょっとくらい豊かな所から搾り取ろうとして何が悪い? 僕はね、出来損ないなの。顔だけ王子なんて呼ばれてる。僕が出来るのは女を誘惑する事だけ。それなのに、アンタの国は誰も僕に見向きもしない! このままじゃ僕は王族から追放される!!!」

「だから……魔法まで使って王太子殿下を操ったんですか?」

「この魔法、知ってるの? 辺境伯って田舎でしょう? なんでそんな知識があるのさ」

やはり、魔法か。

正直、精神に作用する魔法があったが今は失われている。程度の知識しかない。

ここからはハッタリ合戦よ。いかにわたくしが油断ならないかを見せて、話を引き伸ばす。

幸い、ここはゲートがあれば何処からでもすぐに来れる。フレッドが出かけてから1時間。フレッドならすぐにわたくしの居場所を把握して、ゲートに来てくれる。

ここでは魔法も使えるし、記録玉も起動しているから証拠も取れる。これで、王太子殿下の無実は証明された。

あとは最高で1時間、時間を稼げれば良い。

「辺境伯夫人を舐めないで下さいませ。辺境は国を守る最初の盾。皆、あらゆる事態を想定して常に研鑽を積んでおりますわ。わたくしは力こそありませんが、知識で夫を支えておりますの」

「アンタが熊と結婚してから、辺境はますます守りが強固になった。辺境で一番邪魔なのはアンタなんだよ」

「まぁ、そんな事ありませんわ。夫は常に鍛錬を欠かしませんし、わたくしよりもたくさん勉強しているのですよ。真剣に学ぶフレッドは、とってもとっても素敵なんですの」

「……うっとりとした顔で言われてもね。アンタ、あの熊の何処が好きなの?」

やった! やりました!
この質問なら、1時間なんて余裕ですわ!

わたくしはうっとりとしながら、フレッドの素晴らしさを羅列し始めた。もちろん、余計な情報は与えないように慎重に。

けんなりとした顔をしながら、わたくしの話を聞き続けるハンス王子。

そうそう、そうですわよね。

わたくしの話から、情報が取れるかもしれませんもの。ここに居る筈の見張りは居ない。

どんな手を使ったか分からないけど、録画も止まってる。

ここは、貴方のテリトリー。

もうわたくしを手に入れたおつもりでしよう?

ゆっくり、わたくしの話を聞いて下さいませ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

処理中です...