48 / 57
辺境伯夫人は頑張ります
11
しおりを挟む
「シャーリー、すまない。やり過ぎた……」
フレッドがしょんぼりとしながらわたくしに謝罪をする。侍女達の視線が冷たい。
「良いの。わたくしも嬉しかったから」
結局、身体が動かなくてお母様について行く事は出来なかった。エリザベスが心配だから、通信をしたいんだけど……起き上がる事すら困難だ。
お母様が様子を見てきて下さるそうだから、待っておく方が良いかしら。
「奥様は旦那様に甘過ぎますわ!」
「そうですよ! 奥様は繊細な方なんです! 体力お化けの旦那様と一緒にしないで下さい!」
「面目ない……」
侍女達に叱られるフレッドがなんだか可愛い。昨日はあんなに侍女達に怯えられていたのに、今日は叱られている。
なんだかおかしくなって、クスクスと笑ってしまった。すると、フレッドも侍女達も目を見開いている。
「シャーリー……可愛い……」
「本当ですわ。なんて愛らしいのでしょう」
「しばらく2人にしてくれ」
「なりません。これ以上奥様を疲れさせてはいけません」
「うっ……」
「奥様は常識がおありですから、我々が居れば旦那様が迫っても止めて下さいます。ですが、2人きりにしてしまえば、また奥様が疲労してしまわれますわ」
フレッドと、侍女達が揉めている。
「あ、あの……!」
「どうした? シャーリー」
「どうされました? 奥様!」
フレッドと結婚してからは、いつもみんなが優しくしてくれる。ご飯だって美味しいし、ご機嫌を伺わなくても良い。
「フレッドは大好きだけど、今は少し休みたいわ」
こんな風に、自分の意思で発言できる。以前は、いかに姉や両親の機嫌を取るかしか考えてなかった。だって、わたくしが泣いても、喚いても、誰も聞いてくれないのだもの。先生やエリザベスのおかげで少しは話せるようになったけど、フレッドと結婚したら会話の前に悩まなくて良くなった。
今はみんながちゃんとわたくしの話を聞いてくれる。違う事は違うと教えてくれるし、認めてくれる時は認めてくれる。否定する時も、怒鳴ったり食事抜きだと脅したりしない。
だから、自分の意思で話せるようになった。フレッドに一目惚れしてフレッドの事しか考えずに結婚したけど、優しい家族が出来た。使用人も、みんなわたくしを大事にしてくれる。
前だったら、こんな風に言えば姉が怒って食事は抜かれていた。今はそんな事ない。
「分かった。オレは出て行った方が良いか?」
フレッドが寂しそうにしてる。そんな顔されたら、愛しくなってしまう。だけど、さすがにこれ以上は身体がもたない。
「一緒に居たいわ。だけど、身体がつらいから何もしないで欲しいの」
「……分かった。何もしない。約束する」
「2人きりにしてくれる?」
「承知しました。奥様、見事でございますわ」
侍女達は、ニコニコ笑いながら出て行った。フレッドは、そっとわたくしの頭を撫でてくれた。
「これくらいなら良いか?」
「ええ、ありがとう。ねぇフレッド……わたくし、とっても幸せよ」
「ああ、オレも幸せだ」
「こんなに幸せなのは、フレッドを紹介してくれたエリザベスのおかげなのよね。なのにわたくしは……エリザベスの助けになれない」
昨日からずっと、王太子殿下のお言葉が頭から離れない。
「エリザベス様はシャーリーを犠牲にしてまで自分の事を考えるお方か?」
「いいえ。エリザベスはそんな人じゃないわ。先生に相談役を頼めたのに、大事な生徒が居るだろうからって頼まなかった」
「なら、シャーリーが相談役になる事を望むとは思えない」
わたくしは、ハッとした。確かにフレッドの言う通りだ。
「そうね。フレッドの言う通りだわ」
「当事者であるエリザベス様もシャーリーも望んでいないのに、どうしてそんなにシャーリーに拘るんだろうな。シャーリー、王太子殿下に何を言われた?」
「エリザベスが心配ではないのか。親友のわたくしが支えてあげるべきだって仰ってたわ」
その瞬間、フレッドから殺気が溢れた。侍女が居なくて良かった。わたくしは平気だけど、みんなは怯えてしまうもの。
「へぇ……。エリザベス様は王太子殿下の妻なのに……シャーリーに支えろと言うのか……」
フレッドは低い声で何かを呟いている。だけど、声が小さ過ぎで聞こえない。
「ねぇフレッド、エリザベスは何かトラブルに巻き込まれているの? 茶会の時は、そんな話一切聞かなかったんだけど……。もしかして、わたくしに言えない悩みがあったのかしら? お茶会ではお互い惚気話ばっかりしてるのよね。嫌な事があればお互い愚痴は言うけど、そんなに悩んでるようには見えなかったの」
「気になるか?」
「ええ、気になるわ。心配なの。わたくし、あんなにエリザベスと話してたのに気が付かなかったのかしら……」
「安心して。内緒でカールに調べて貰ってる。けど、父上や母上にも言っては駄目。出来る?」
「出来るわ!」
「分かった、ならシャーリはしばらく王城に行かずに大人しくしておいてくれ。別棟に行く時はオレが連れて行く。もちろん、エリザベス様との会話は聞かないから安心してくれ。オレが不在の時に誰が来ても、絶対屋敷を出ないで欲しい。出来るか?」
「ええ、分かったわ。でも、どうして?」
フレッドがしょんぼりとしながらわたくしに謝罪をする。侍女達の視線が冷たい。
「良いの。わたくしも嬉しかったから」
結局、身体が動かなくてお母様について行く事は出来なかった。エリザベスが心配だから、通信をしたいんだけど……起き上がる事すら困難だ。
お母様が様子を見てきて下さるそうだから、待っておく方が良いかしら。
「奥様は旦那様に甘過ぎますわ!」
「そうですよ! 奥様は繊細な方なんです! 体力お化けの旦那様と一緒にしないで下さい!」
「面目ない……」
侍女達に叱られるフレッドがなんだか可愛い。昨日はあんなに侍女達に怯えられていたのに、今日は叱られている。
なんだかおかしくなって、クスクスと笑ってしまった。すると、フレッドも侍女達も目を見開いている。
「シャーリー……可愛い……」
「本当ですわ。なんて愛らしいのでしょう」
「しばらく2人にしてくれ」
「なりません。これ以上奥様を疲れさせてはいけません」
「うっ……」
「奥様は常識がおありですから、我々が居れば旦那様が迫っても止めて下さいます。ですが、2人きりにしてしまえば、また奥様が疲労してしまわれますわ」
フレッドと、侍女達が揉めている。
「あ、あの……!」
「どうした? シャーリー」
「どうされました? 奥様!」
フレッドと結婚してからは、いつもみんなが優しくしてくれる。ご飯だって美味しいし、ご機嫌を伺わなくても良い。
「フレッドは大好きだけど、今は少し休みたいわ」
こんな風に、自分の意思で発言できる。以前は、いかに姉や両親の機嫌を取るかしか考えてなかった。だって、わたくしが泣いても、喚いても、誰も聞いてくれないのだもの。先生やエリザベスのおかげで少しは話せるようになったけど、フレッドと結婚したら会話の前に悩まなくて良くなった。
今はみんながちゃんとわたくしの話を聞いてくれる。違う事は違うと教えてくれるし、認めてくれる時は認めてくれる。否定する時も、怒鳴ったり食事抜きだと脅したりしない。
だから、自分の意思で話せるようになった。フレッドに一目惚れしてフレッドの事しか考えずに結婚したけど、優しい家族が出来た。使用人も、みんなわたくしを大事にしてくれる。
前だったら、こんな風に言えば姉が怒って食事は抜かれていた。今はそんな事ない。
「分かった。オレは出て行った方が良いか?」
フレッドが寂しそうにしてる。そんな顔されたら、愛しくなってしまう。だけど、さすがにこれ以上は身体がもたない。
「一緒に居たいわ。だけど、身体がつらいから何もしないで欲しいの」
「……分かった。何もしない。約束する」
「2人きりにしてくれる?」
「承知しました。奥様、見事でございますわ」
侍女達は、ニコニコ笑いながら出て行った。フレッドは、そっとわたくしの頭を撫でてくれた。
「これくらいなら良いか?」
「ええ、ありがとう。ねぇフレッド……わたくし、とっても幸せよ」
「ああ、オレも幸せだ」
「こんなに幸せなのは、フレッドを紹介してくれたエリザベスのおかげなのよね。なのにわたくしは……エリザベスの助けになれない」
昨日からずっと、王太子殿下のお言葉が頭から離れない。
「エリザベス様はシャーリーを犠牲にしてまで自分の事を考えるお方か?」
「いいえ。エリザベスはそんな人じゃないわ。先生に相談役を頼めたのに、大事な生徒が居るだろうからって頼まなかった」
「なら、シャーリーが相談役になる事を望むとは思えない」
わたくしは、ハッとした。確かにフレッドの言う通りだ。
「そうね。フレッドの言う通りだわ」
「当事者であるエリザベス様もシャーリーも望んでいないのに、どうしてそんなにシャーリーに拘るんだろうな。シャーリー、王太子殿下に何を言われた?」
「エリザベスが心配ではないのか。親友のわたくしが支えてあげるべきだって仰ってたわ」
その瞬間、フレッドから殺気が溢れた。侍女が居なくて良かった。わたくしは平気だけど、みんなは怯えてしまうもの。
「へぇ……。エリザベス様は王太子殿下の妻なのに……シャーリーに支えろと言うのか……」
フレッドは低い声で何かを呟いている。だけど、声が小さ過ぎで聞こえない。
「ねぇフレッド、エリザベスは何かトラブルに巻き込まれているの? 茶会の時は、そんな話一切聞かなかったんだけど……。もしかして、わたくしに言えない悩みがあったのかしら? お茶会ではお互い惚気話ばっかりしてるのよね。嫌な事があればお互い愚痴は言うけど、そんなに悩んでるようには見えなかったの」
「気になるか?」
「ええ、気になるわ。心配なの。わたくし、あんなにエリザベスと話してたのに気が付かなかったのかしら……」
「安心して。内緒でカールに調べて貰ってる。けど、父上や母上にも言っては駄目。出来る?」
「出来るわ!」
「分かった、ならシャーリはしばらく王城に行かずに大人しくしておいてくれ。別棟に行く時はオレが連れて行く。もちろん、エリザベス様との会話は聞かないから安心してくれ。オレが不在の時に誰が来ても、絶対屋敷を出ないで欲しい。出来るか?」
「ええ、分かったわ。でも、どうして?」
7
お気に入りに追加
1,899
あなたにおすすめの小説
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる