婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり

文字の大きさ
上 下
14 / 16

14. 2人の人形 ☆

しおりを挟む
「どうして……どうしてわたくしが平民になるの? リリー……リリーは何処に行ったの?」

「リリーお嬢様は、家出なさいました」

フォッグが解雇された事も知らず、いつものように使用人として扱い、リリーの行方を必死で探す姿は滑稽だとフォッグは思った。

「どうして?! 親を捨てるなんて許さないわ!」

「王太子殿下の命令で、国外追放だそうですよ」

「じゃあ、わたくしが平民になるのも、リリーのせいなのねっ!」

支離滅裂な母親の言葉に、フォッグの言葉がキツくなっていく。

「いいえ、我儘娘を制御できなかった奥様の責任です。王太子を唆して、婚約破棄させたのはあなたの娘ですよ」

「やっぱりリリーのせいじゃないの! リリーはわたくしの娘よ!」

「リリーお嬢様を娘と呼びますか? リリーお嬢様はもう奥様の娘ではありません。奥様も笑いながら離縁状を叩きつけていたではありませんか。わざわざ脅す為に魔法契約までしましたよね?」

「あれは、ちゃんと処分していたじゃない!」

「すり替えてたんですよ。魔法契約ですから、リリーお嬢様の絶縁は覆りません。良かったですね。奥様は、リリーお嬢様を捨てようとしたのでしょう? 親戚にも、リリーお嬢様がお付き合いしていた方々にも、全てお知らせしてありますよ。平民になってしまった奥様の味方は居ないしでしょうし、頼る所はありませんよ。奥様のご実家から、絶縁するとの知らせも届きました。おめでとうございます」

「めでたくない! ふざけるな! リリーは何処よ!」

「リリーお嬢様は、二度とこちらに戻る事はありません。持ち物は全てお部屋に残っておりますから、勝手に処分して下さい。これは、国外追放された時に着ていたドレスとアクセサリーです。お嬢様のご希望で、お返しに参りました」

フォッグの差し出したドレスとアクセサリーを投げ捨て、叫び声を上げる。彼女は、自分の事しか考えていない。リリーを探すのも、自分の為だ。

「リリーは何処にいるんだ?! フォッグがリリーを見張ると言ったじゃないか! すぐに連れて来い! 拾って貰った恩を忘れたのか?!」

「あんなの、リリーお嬢様のお側に居る為の嘘に決まってるでしょう。私を拾って下さったのはリリーお嬢様です。奥様に恩などありません。恨みなら大量にありますけどね。ああそうだ、旦那様は既に愛人と逃げました。使用人達も、逃走しましたよ。もうすぐ王家の使いが来ますからね。平民にするだけじゃ足りなかったみたいです。色々な罪を被せるスケープゴートにでもしたいんじゃないですか?」

「……は……? な、なんで……?!」

「王妃の残酷な所業が公開されてたの、見ましたよね? このままじゃまずいですからね。奥様と王妃は顔も背格好も似てますから、なんとか王家の威信を守りたい国王は、奥様のせいにするつもりだそうです。実はアレは王妃じゃなかった、リリーの母親は悪魔だって言うつもりみたいです。その為なら、奥様以外は殺しても良いから奥様を連れて来いって命令してました。旦那様にお伝えしたらすぐ逃げましたよ。奥様を放置してね。使用人も同じです」

「なっ……! あんな事わたくしが出来る訳ないでしょ! あのドS王妃め! 今まで通りリリーだけを玩具にしていれば良いものを……! リリーを連れて来い! リリーを差し出して、わたくしは逃げるから!!!」

その瞬間、怒ったフォッグの瞳が光り輝いた。
リリーの母親は恐怖で気を失った。

リリーの部屋に荷物を置き、屋敷の鍵を全て開けると、玄関先に気絶した母親を放り投げてフォッグは消えた。

見たいものだけ見てきた夫婦は、片方は逃亡先で全てを奪われて路地に打ち捨てられた。愛人だと思っていた女は、男の持つ金しか興味がなかった。

片方は娘が受けた仕打ちを可愛がっていた妹と共に受けている。

王妃は罪をリリーの母親になすりつけ、実の母親がこんな酷い事をしていたなんて知らなかった。可哀想なリリーと涙を流した。リリーを探してくれと涙ながらに訴えた。王妃の嘘に半数以上の貴族が気が付いていたが、誰も口には出さなかった。

王太子に群がる令嬢は居なくなり、適齢期の貴族令嬢は急いで嫁ぎ先を見つけ始めた。婚約を打診する前に目星をつけた令嬢が結婚してしまうので、王太子の婚約者は見つかっていない。

純愛をアピールして婚約した筈の女性は、言葉を交わせないお人形になってしまった。王太子は、必死で母親から逃げている。

仕事をせず母から逃げる王太子。
目の前の事で精一杯の国王。

僅かに残っていた優秀な者は国に見切りをつけ、次々と国外に出た。

国王は焦り、王妃はストレスを新しいお人形で発散した。悍ましい道具が増えて、2人になったお人形の泣き叫ぶ声が王妃の部屋に響き渡った。

リリーの受けた仕打ちを知っていたのに、王妃にもっと厳しくしても構わないと言ったのは母親だった。

フォッグがそれを知っていれば、こんなものでは済まなかっただろう。

フォッグは、リリーの母親や妹を長く苦しめるつもりはなかった。少し、リリーの苦しみを味わえば良いと思っただけだ。

王家がこのまま安泰になる事はない。国王も王太子も、フォッグが残した物に気が付いていない。だから2人はそのうち助けて貰えるだろうと思っていた。

しかし、リリーと違い我儘放題だった2人は脆く、つまらなくなった王妃に捨てられた。

娘を拷問した母親と、姉を貶めた妹だと国中に顔が知られた2人の生活は……今までのように楽ではなかった。彼女達の行方を知る者は居ない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

処理中です...