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3.悪女はどちら?
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「わたくしが、悪いのです……。お姉様は悪くありませんわ……」
女はそう言って一粒の涙を流した。
それだけで、リリーは悪女となった。
「お前のような女が婚約者だなんて恥ずかしい」
「国母には向いていませんよ。婚約を辞退してはどうですか?」
「リリー様は、厳し過ぎますわ」
心無い言葉も、リリーは笑顔で受け止めた。
そうしないといけないと、教えられていたから。
そうしろと、幼い頃から刷り込まれていたから。
だけど、リリーの笑顔は悪女の笑みだと噂された。
「王子との婚約がなければ捨ててやったのに」
実の父はそう言って、毎日のように離縁状を渡してリリーをコントロールした。
捨てられるのが怖い幼いリリーは、必死で父の命令に従った。
「可愛くないわ。もっと可愛げのある娘が欲しかった。だから、もう一度育て直す事にしたの。リリーは結婚したら家を出るのだから、跡取りが必要だものね」
立派な令嬢になったリリーを見て、実の母は嫉妬した。
もう一度子育てをしたくなった母は、分家から引き取った令嬢を溺愛した。
溺愛された女がリリーを見下すようになるのはすぐだった。
「お姉様が……」
そう言って涙を流す。それだけでリリーは悪者になり、両親に責められる。
次第に面白くなった女は、リリーから全てを奪おうと画策した。
「お姉様……あっ……違うの! ごめんなさい……!」
そう言ってリリーの前から泣きながら去る。
それを数回繰り返しただけで、リリーは悪女と囁かれるようになった。
それは、リリーが必死で守ってきた領民にも及んだ。
「リリーお嬢様はしっかりなさってるんだが、厳しいんだよなぁ」
「そうなのね。お姉様は凄いから、厳しくても正しいわ。でも、わたくしなら……」
実現できない夢物語を話す。
次期領主である令嬢は、優しく、慈悲深いと褒め称えられるようになった。
リリーが、政策や財政不足のリスクを説明しても、女は涙を流すだけ。
領民は、リリーを疎ましく思うようになった。誰だって、耳障りの良い事を話す者を支持する。実行不可能な夢物語だと冷静に指摘する者は居なかった。
今よりも良い暮らしが出来る。
人間の欲は肥大する。
今の暮らしが、誰の努力で成り立っているのか、誰か1人でも気が付いていれば、リリーを非難する事がどれほど愚かな事か分かっただろうに。
誰も、リリーの苦労を知らなかった。……いや、知ろうとしなかった。
「お姉様が、駄目だって言うから……」
女は変わらず、涙を流すだけ。
「リリーお嬢様は、妹を虐めるひでぇ女だ」
それだけで、尽くしてきた領民からも悪女と呼ばれた。
だけど、リリーは何も言わない。いつも通り淡々と仕事をこなすだけ。いつも、穏やかな笑顔を浮かべるだけ。
王妃となるには、常に笑顔で、感情を表に出してはいけない。リリーは常に監視されており、少しでも表情を変えるとすぐさま報告が入り、王妃から叱責を受ける。
穏やかな笑みを浮かべるリリーは、誰からも心配などされない。
どんな事を言われても、どんな事をされても、リリーは穏やかに笑う。
リリーを心配した者は1人だけ。
「お嬢様、見張りを眠らせました。どうか、今日だけは……ご自由に泣き、笑い、怒り、悲しんで下さい」
執事見習いをしていた、フォッグだけだった。
女はそう言って一粒の涙を流した。
それだけで、リリーは悪女となった。
「お前のような女が婚約者だなんて恥ずかしい」
「国母には向いていませんよ。婚約を辞退してはどうですか?」
「リリー様は、厳し過ぎますわ」
心無い言葉も、リリーは笑顔で受け止めた。
そうしないといけないと、教えられていたから。
そうしろと、幼い頃から刷り込まれていたから。
だけど、リリーの笑顔は悪女の笑みだと噂された。
「王子との婚約がなければ捨ててやったのに」
実の父はそう言って、毎日のように離縁状を渡してリリーをコントロールした。
捨てられるのが怖い幼いリリーは、必死で父の命令に従った。
「可愛くないわ。もっと可愛げのある娘が欲しかった。だから、もう一度育て直す事にしたの。リリーは結婚したら家を出るのだから、跡取りが必要だものね」
立派な令嬢になったリリーを見て、実の母は嫉妬した。
もう一度子育てをしたくなった母は、分家から引き取った令嬢を溺愛した。
溺愛された女がリリーを見下すようになるのはすぐだった。
「お姉様が……」
そう言って涙を流す。それだけでリリーは悪者になり、両親に責められる。
次第に面白くなった女は、リリーから全てを奪おうと画策した。
「お姉様……あっ……違うの! ごめんなさい……!」
そう言ってリリーの前から泣きながら去る。
それを数回繰り返しただけで、リリーは悪女と囁かれるようになった。
それは、リリーが必死で守ってきた領民にも及んだ。
「リリーお嬢様はしっかりなさってるんだが、厳しいんだよなぁ」
「そうなのね。お姉様は凄いから、厳しくても正しいわ。でも、わたくしなら……」
実現できない夢物語を話す。
次期領主である令嬢は、優しく、慈悲深いと褒め称えられるようになった。
リリーが、政策や財政不足のリスクを説明しても、女は涙を流すだけ。
領民は、リリーを疎ましく思うようになった。誰だって、耳障りの良い事を話す者を支持する。実行不可能な夢物語だと冷静に指摘する者は居なかった。
今よりも良い暮らしが出来る。
人間の欲は肥大する。
今の暮らしが、誰の努力で成り立っているのか、誰か1人でも気が付いていれば、リリーを非難する事がどれほど愚かな事か分かっただろうに。
誰も、リリーの苦労を知らなかった。……いや、知ろうとしなかった。
「お姉様が、駄目だって言うから……」
女は変わらず、涙を流すだけ。
「リリーお嬢様は、妹を虐めるひでぇ女だ」
それだけで、尽くしてきた領民からも悪女と呼ばれた。
だけど、リリーは何も言わない。いつも通り淡々と仕事をこなすだけ。いつも、穏やかな笑顔を浮かべるだけ。
王妃となるには、常に笑顔で、感情を表に出してはいけない。リリーは常に監視されており、少しでも表情を変えるとすぐさま報告が入り、王妃から叱責を受ける。
穏やかな笑みを浮かべるリリーは、誰からも心配などされない。
どんな事を言われても、どんな事をされても、リリーは穏やかに笑う。
リリーを心配した者は1人だけ。
「お嬢様、見張りを眠らせました。どうか、今日だけは……ご自由に泣き、笑い、怒り、悲しんで下さい」
執事見習いをしていた、フォッグだけだった。
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