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37.兄と妹
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「嫌われてるなって思うわ。式典では優しい兄を演じてるけど、人の目が無くなったら一瞬で冷たくなるもの。もしかして、私を殺したいって言い出したのはお兄様なの?」
「オレに暗殺の依頼をしたのは王妃だ。けど……裏には間違いなくヒュー様が居る。あの人、王妃の言いなりだと思われてるけど違う。あの人が王妃を操ってるんだ。王妃は最初はクリスの見張りとしてメイドを送っただけだった。けど、いつの間にか食事まで奪うようになったのは、ヒュー様が王妃やメイドを煽ったんだ。あの人は、自分が王妃の切り札だって分かってるし、上手に人の自尊心を煽って操る。相手は操られているとは全く気付かない。クリスの実の兄に言いたかねぇが、ヒュー様は頭は良いけど、どっかおかしいぜ。自分が最優先されねぇと急に癇癪を起こす。けど、その癇癪すら演技に見えるんだ。その事に気が付いたのは、クリスに助けられた時だ。オレは怪我が治ってもクリスと離れがたくて姿を消せなかった。けど、そんな時にオレの所にヒュー様が来たんだ。オレの心を見透かすみたいな目で、クリスと仲良くなったんだろう? 僕の妹はどんな子だったかって言われた。オレは最初、クリスと仲良くしたいのかと思って、クリスの事を可愛らしい姫君だって言ったんだ。その瞬間、あの人の顔が僅かに歪んだ。笑ってたけど、自分の思い通りにならない癇癪を起こす寸前の顔に見えた。だから、オレはわざとクリスを貶したんだ。クリスを貶すと、ヒュー様はご機嫌になってオレの元から去って行った。あそこでヒュー様の機嫌に気が付かなかったら、オレも、クリスも危なかったかもしれねぇ。このままクリスと接してるとやべえと思って、すぐ姿を消した。それからヒュー様に仕えたいから戻ったって媚を売ったら、あの人は満足そうに笑ってやがった。そんなヒュー様の忠実な部下が兄貴だ。親父は王妃寄りだが、兄貴は違う。ヒュー様が望めば、あっさり王妃を殺すくらいはやるぜ。兄貴が生き延びてるなら、多分オレ達が見つかるのは時間の問題だ。兄貴は、オレがクリスに執着してる事に薄々気が付いてたし、ヒュー様の邪魔になる可能性があるクリスの事を調べると思う。王妃みたいに、城に戻らないなら構わないと見逃してくれる男じゃない」
「だから、ランクを上げてギルドにとって必要な人材になっておく必要があるのね。必要な人材なら、多少は守って貰えるから。頑張ってシルバーランクになりましょう。それにしても、わたくしとジルが出会った事は王妃様だけじゃなくて、お兄様もご存知だったのね」
「……と言うか……、クリスはオレと初めて会った日の事覚えてるか?」
「もちろん! いつものように庭をお散歩してて……あれ……違う……あの時は、お兄様と式典のお仕事があって……終わった時にお兄様から、庭にウサギが居るから見に行ってみろって耳打ちされて……初めてお兄様が優しかったから……まさか……あれは……」
クリステルは、思い出したくないものを思い出し、頭を抱えて涙を流し始めた。
「やっぱりそうだったか。オレ達の出会いは、ヒュー様の差金だったみたいだな。オレは、忠誠心を試されたんだ。あの時オレがクリスに好意的なままなら、きっとオレにクリスを殺せって指示を出したんだろう。オレがクリスを殺せればよし、ダメならオレを始末するつもりだったのかもな。けど、オレはクリスをズタボロに貶した。そしたらすげえ満足そうに笑って、オレを気に入ったって言ったんだ。それから親父や兄貴の扱きは無くなって王妃からも重宝されるようになった。だから、オレはクリスを守る為にアイツらの都合の良い駒になる事にしたんだ」
「ジルは……わたくしを貶す事でわたくしを守ってくれたのね。お兄様は、そんなにもわたくしが嫌いなのね……」
「……多分、そうだと思う。王妃の教育の賜物だな。クリスがヒュー様に好かれたがってたのは知ってたから言えなかったんだ。ごめんな」
ジルはクリステルの涙を拭い、抱きしめた。クリステルは少し俯いてから何かを決意したように顔を上げた。
「ううん! 大丈夫よ! もうお兄様の事はなんとも思ってないから。好かれてても、嫌われてても構わないわ。私は、ジルがいちばん大事! あとは、お父様と、アーテルさんと……」
ニコニコ笑いながらクリステルが挙げた人物は、全てジルの知る人物で、ほぼジルが攫ってから出会った人ばかりだった。全てを諦めていたクリステルに、それだけ大事な人がたくさん出来た事を喜びつつも、ジルは僅かな嫉妬に駆られた。
「でも、やっぱりジルがいちばん大事よ! 愛してるわ!」
クリステルの一言であっさり機嫌が治ったジルは、クリステルと口付けを交わした後、冒険者ギルドに向かった。
「オレに暗殺の依頼をしたのは王妃だ。けど……裏には間違いなくヒュー様が居る。あの人、王妃の言いなりだと思われてるけど違う。あの人が王妃を操ってるんだ。王妃は最初はクリスの見張りとしてメイドを送っただけだった。けど、いつの間にか食事まで奪うようになったのは、ヒュー様が王妃やメイドを煽ったんだ。あの人は、自分が王妃の切り札だって分かってるし、上手に人の自尊心を煽って操る。相手は操られているとは全く気付かない。クリスの実の兄に言いたかねぇが、ヒュー様は頭は良いけど、どっかおかしいぜ。自分が最優先されねぇと急に癇癪を起こす。けど、その癇癪すら演技に見えるんだ。その事に気が付いたのは、クリスに助けられた時だ。オレは怪我が治ってもクリスと離れがたくて姿を消せなかった。けど、そんな時にオレの所にヒュー様が来たんだ。オレの心を見透かすみたいな目で、クリスと仲良くなったんだろう? 僕の妹はどんな子だったかって言われた。オレは最初、クリスと仲良くしたいのかと思って、クリスの事を可愛らしい姫君だって言ったんだ。その瞬間、あの人の顔が僅かに歪んだ。笑ってたけど、自分の思い通りにならない癇癪を起こす寸前の顔に見えた。だから、オレはわざとクリスを貶したんだ。クリスを貶すと、ヒュー様はご機嫌になってオレの元から去って行った。あそこでヒュー様の機嫌に気が付かなかったら、オレも、クリスも危なかったかもしれねぇ。このままクリスと接してるとやべえと思って、すぐ姿を消した。それからヒュー様に仕えたいから戻ったって媚を売ったら、あの人は満足そうに笑ってやがった。そんなヒュー様の忠実な部下が兄貴だ。親父は王妃寄りだが、兄貴は違う。ヒュー様が望めば、あっさり王妃を殺すくらいはやるぜ。兄貴が生き延びてるなら、多分オレ達が見つかるのは時間の問題だ。兄貴は、オレがクリスに執着してる事に薄々気が付いてたし、ヒュー様の邪魔になる可能性があるクリスの事を調べると思う。王妃みたいに、城に戻らないなら構わないと見逃してくれる男じゃない」
「だから、ランクを上げてギルドにとって必要な人材になっておく必要があるのね。必要な人材なら、多少は守って貰えるから。頑張ってシルバーランクになりましょう。それにしても、わたくしとジルが出会った事は王妃様だけじゃなくて、お兄様もご存知だったのね」
「……と言うか……、クリスはオレと初めて会った日の事覚えてるか?」
「もちろん! いつものように庭をお散歩してて……あれ……違う……あの時は、お兄様と式典のお仕事があって……終わった時にお兄様から、庭にウサギが居るから見に行ってみろって耳打ちされて……初めてお兄様が優しかったから……まさか……あれは……」
クリステルは、思い出したくないものを思い出し、頭を抱えて涙を流し始めた。
「やっぱりそうだったか。オレ達の出会いは、ヒュー様の差金だったみたいだな。オレは、忠誠心を試されたんだ。あの時オレがクリスに好意的なままなら、きっとオレにクリスを殺せって指示を出したんだろう。オレがクリスを殺せればよし、ダメならオレを始末するつもりだったのかもな。けど、オレはクリスをズタボロに貶した。そしたらすげえ満足そうに笑って、オレを気に入ったって言ったんだ。それから親父や兄貴の扱きは無くなって王妃からも重宝されるようになった。だから、オレはクリスを守る為にアイツらの都合の良い駒になる事にしたんだ」
「ジルは……わたくしを貶す事でわたくしを守ってくれたのね。お兄様は、そんなにもわたくしが嫌いなのね……」
「……多分、そうだと思う。王妃の教育の賜物だな。クリスがヒュー様に好かれたがってたのは知ってたから言えなかったんだ。ごめんな」
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「でも、やっぱりジルがいちばん大事よ! 愛してるわ!」
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