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29.冒険者試験、受付
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ジルとクリステルは、冒険者試験を受けに来ていた。登録名はふたりとも偽名だ。クリステルはクリス。ジルは、クリスの呼び名はあだ名だという事にして、別の名前を付けた。
「えっと、ジーティルさんと、クリスさんですね。ジーティルさんは盗賊で、クリスさんは狩人の試験ですね。書類も問題ありませんし、受験料も頂きましたのでこれで受付は完了です。試験官が訓練所で待っていますので向かって下さい」
「わかりました。よろしくお願いします」
「クリスさん、頑張ってね」
「お、クリスようやく試験か。的、外すなよ~」
「頑張ります!」
受付嬢だけでなく、屈強な冒険者達もクリステルを応援している。ジルは面白くなかったが、殺気を出すわけにもいかないのでなんとか我慢していた。
「クリス、いつの間に冒険者達と仲良くなったんだ?」
「いつも練習してたから。私は部外者だから毎回受付で訓練所の利用料を払ってたの。そのうち、みんなから色々教えてもらえるようになって……とってもいい人ばかりだったわ」
「そのうち何割の男がクリスに下心があるんだか……口説かれたりしなかったか?」
「したわ。きちんとお断りしたら分かってくれたわよ」
「……くっそ、やっぱりついて行けば良かった」
そんな会話をしながら、2人は訓練所へ消えて行った。
「たっだいまー……」
「あ! ガウスさーん! さっきクリスさんとジーティルさんが来て試験受けに行きましたよ! もう! 本当は試験官頼もうと思ったのに!」
受付嬢のクレームを流しながら、ガウスはレミィに問いかけた。
「やだよ、試験官なんて。なぁ、レミィ、ジーティルってやっぱり……」
「ジルさんね。街を出る時の手続きもそう書いてあったわ。本名は、ジーティルさんみたいね」
「良かったぜ、逃げといて。あの人の試験官なんて絶対やりたくねぇもん」
「やっぱりクリスの旦那ってただモンじゃねぇよな?」
ベテラン冒険者のガドは、そう言ってガウスに話しかけてきた。いつも落ち着いているガドの声が上擦っている。それだけで何かを察したガウスは、わざと他の冒険者にも聞こえるように大声で言った。
「ジーティルさんとだけは戦いたくねぇ。怖えもん」
「分かるぜ、あの男に喧嘩を売るくらいなら、魔物の群れに武器なしで飛び込む方がまだ良い」
「分かります! 魔物なら素手でも戦いようはありますけど……」
「ジルさんにどうやって勝てば良いか分かんないよね」
「私はジルさんの戦いを見た事無いのよね。ガウスに聞いても怖いとしか言ってくれないし。ねぇ、試験って見学出来るよね?! 行ってきて良い?」
「あ、あたしも行く! クリスさん、ちゃんと的狙えるか心配だもん!」
「私も行きます!」
女性陣が全員出て行った後に残されたガウスに、行かないのかとガドが問いかける。
「行かねぇよ。ジーティルさんの戦いは、見るだけで怖え」
中堅どころである筈のガウスの怯えように、クリスが受かったら仲間に誘おうと思っていた冒険者達は青褪める。
「けど、さっきは普通だったぜ。まぁ、見りゃ力量くれえ分かるから、隠れてる牙はヤバそうだったけどな」
「ジーティルさんの宝に触れなきゃ、あの人が牙を出す事はねぇよ」
「ちなみに、その宝ってなんだ?」
「クリスさんだな。愛する奥さんに手を出されなきゃ、平和なもんだぜ」
「ははっ、やっぱりそうか。んじゃあ、宝に手を出したらどうなるんだ?」
「……怖えから言いたくねぇ」
「なるほどな。俺も無駄に喧嘩を売る事だけはしねぇようにするわ。おい、お前らも気をつけろよ」
ガドの一言で、クリスを狙う冒険者達は諦める事にした。ガウスだけならともかく、ギルドで一目置かれているガドがそこまで言う相手に喧嘩を売る程の命知らずは居なかったからだ。
「えっと、ジーティルさんと、クリスさんですね。ジーティルさんは盗賊で、クリスさんは狩人の試験ですね。書類も問題ありませんし、受験料も頂きましたのでこれで受付は完了です。試験官が訓練所で待っていますので向かって下さい」
「わかりました。よろしくお願いします」
「クリスさん、頑張ってね」
「お、クリスようやく試験か。的、外すなよ~」
「頑張ります!」
受付嬢だけでなく、屈強な冒険者達もクリステルを応援している。ジルは面白くなかったが、殺気を出すわけにもいかないのでなんとか我慢していた。
「クリス、いつの間に冒険者達と仲良くなったんだ?」
「いつも練習してたから。私は部外者だから毎回受付で訓練所の利用料を払ってたの。そのうち、みんなから色々教えてもらえるようになって……とってもいい人ばかりだったわ」
「そのうち何割の男がクリスに下心があるんだか……口説かれたりしなかったか?」
「したわ。きちんとお断りしたら分かってくれたわよ」
「……くっそ、やっぱりついて行けば良かった」
そんな会話をしながら、2人は訓練所へ消えて行った。
「たっだいまー……」
「あ! ガウスさーん! さっきクリスさんとジーティルさんが来て試験受けに行きましたよ! もう! 本当は試験官頼もうと思ったのに!」
受付嬢のクレームを流しながら、ガウスはレミィに問いかけた。
「やだよ、試験官なんて。なぁ、レミィ、ジーティルってやっぱり……」
「ジルさんね。街を出る時の手続きもそう書いてあったわ。本名は、ジーティルさんみたいね」
「良かったぜ、逃げといて。あの人の試験官なんて絶対やりたくねぇもん」
「やっぱりクリスの旦那ってただモンじゃねぇよな?」
ベテラン冒険者のガドは、そう言ってガウスに話しかけてきた。いつも落ち着いているガドの声が上擦っている。それだけで何かを察したガウスは、わざと他の冒険者にも聞こえるように大声で言った。
「ジーティルさんとだけは戦いたくねぇ。怖えもん」
「分かるぜ、あの男に喧嘩を売るくらいなら、魔物の群れに武器なしで飛び込む方がまだ良い」
「分かります! 魔物なら素手でも戦いようはありますけど……」
「ジルさんにどうやって勝てば良いか分かんないよね」
「私はジルさんの戦いを見た事無いのよね。ガウスに聞いても怖いとしか言ってくれないし。ねぇ、試験って見学出来るよね?! 行ってきて良い?」
「あ、あたしも行く! クリスさん、ちゃんと的狙えるか心配だもん!」
「私も行きます!」
女性陣が全員出て行った後に残されたガウスに、行かないのかとガドが問いかける。
「行かねぇよ。ジーティルさんの戦いは、見るだけで怖え」
中堅どころである筈のガウスの怯えように、クリスが受かったら仲間に誘おうと思っていた冒険者達は青褪める。
「けど、さっきは普通だったぜ。まぁ、見りゃ力量くれえ分かるから、隠れてる牙はヤバそうだったけどな」
「ジーティルさんの宝に触れなきゃ、あの人が牙を出す事はねぇよ」
「ちなみに、その宝ってなんだ?」
「クリスさんだな。愛する奥さんに手を出されなきゃ、平和なもんだぜ」
「ははっ、やっぱりそうか。んじゃあ、宝に手を出したらどうなるんだ?」
「……怖えから言いたくねぇ」
「なるほどな。俺も無駄に喧嘩を売る事だけはしねぇようにするわ。おい、お前らも気をつけろよ」
ガドの一言で、クリスを狙う冒険者達は諦める事にした。ガウスだけならともかく、ギルドで一目置かれているガドがそこまで言う相手に喧嘩を売る程の命知らずは居なかったからだ。
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