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25.王女は、教えを乞う

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「はい、ジル。あーん」

「ちょっと待て……なんでこうなった……」

時間は、数分前に遡る。

「あの、ご飯は出来たんですけど5分だけジルと2人にして貰えませんか?」

クリステルの希望は、あっさりと叶えられた。ジルがクリステルの隣に居れば危険はない。

むしろ、近付く方が危険だと分かっている冒険者達は、ジルを呼びに行き、ジルがクリステルと会った事を確認してから姿を消した。

「大丈夫よ! 5分だけ2人きりにして頂いたから!」

「……マジかよ」

「ほら、早くしないと皆さん帰ってくるから。はい、あーん」

クリステルは、自分にされた時と同じようにジルの口元にスプーンを押し付ける。

ジルの顔がみるみる赤く染まるが、スプーンは口元から離れない。むしろ、唇をツンツンとつつき始めていた。

「……分かった。あーん……」

真っ赤な顔のジルは、恐る恐る口を開けた。それを見たクリステルは、嬉しそうに微笑んで自信作の料理をジルの口に運び入れる。

「……美味い」

「やったわ! 嬉しい!」

「クリス、もっかいやってくれよ」

「……へ?」

「ほら、もっかい。な? 良いだろ? だってクリスからやり始めたんだから」

そう言われると恥ずかしくなったクリステルは、真っ赤な顔のままジルの口に食事を運ぶ。

気を遣った冒険者達が遅めの時間に戻ってくる頃には、クリステルはジルの膝の上で餌付けされていた。

「ねぇ、シュラブにはどんなものがあるの?」

ジルの膝の上に居ても、何も言わない冒険者達の様子に、この行為は平民の夫婦なら普通なんだと壮絶な勘違いをしたクリステルは、開き直ってジルの膝に収まる事にした。

今までにない安心感が心地良く、離れがたかったのだ。

王女としての知識はあっても実際に街に行った経験はないクリステルは、シュラブについて知っている事は少なかった。

遺跡が数多く存在するので、冒険者相手の商売が多いとは聞いていたが、それだけの知識しかない。クリステルは、冒険者達から情報を集めようと様々な質問をぶつけ始めた。勉強をしていても、質問にきちんと答えてくれる教師に会った事のないクリステルは、冒険者達が答えてくれるのが嬉しくて仕方なかった。

キラキラとした目で鋭い事を聞いてくるクリステルは、質問の答えを返すと心から嬉しそうに笑い、賞賛した。冒険者達はくすぐったく思いながらも、暖かい気持ちに包まれ、クリステルを溺愛するジルの気持ちを理解した。

「着いたぞ。ここがシュラブだ」

その後は問題なく進み、予定通り1週間でシュラブに到着した。

「すごい! 遺跡が街の周りにたくさんあるわ!」

「クリスさん、遺跡の入り口に警備が居る所は、たまに魔物が出てきますから気をつけて下さいね」

「分かったわ。ありがとうレミィさん」

「クリスさん! あっちに美味しい屋台があるの! 時間あるなら行ってみない?」

「ありがとうファルさん! ねぇジル、行っても良い?」

「私達は急いでないし、ファルも行きたがってるから良かったらどうですか?」

「ね、ルカさんもそう言ってるしお願い!」

「分かった。ガウスは良いのか?」

「構いませんよ。女性陣には勝てませんし。それに、本当に美味いからオススメです」

「……クリスは人たらしだな」

「狭量な男は嫌われますぜ」

「ねぇ、早く行こうよ!」

「ジル! 行きましょう!」

女性陣に急かされて、ジルとガウスは周りを警戒しながら着いて行く。クリステルは人目を引くし、冒険者達も戦闘がなかったので疲労がなく、シュラブに集まる冒険者達の目を引いた。

レミィ達の腕が立つのは雰囲気で分かるから声を掛ける者は居ないが、隙だらけのクリステルは狙われてもおかしくない。

「これなら、街の外の方が安全だ」

「同意します。けど、ここは街の中ですからね。揉め事は御免ですよ。もう、穴掘りはしませんからね」

「分かってる」

ジルは、クリステルに近づこうとする男に殺気を飛ばし威嚇しながら、音を立てずに走って行った。
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