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23.野盗は後悔する

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「なぁ、あの馬車はえらく遅いぜ。こりゃ楽勝じゃねぇの?」

「馬鹿! よく見ろよ! 冒険者が護衛に付いてんじゃん。やめとこうぜ」

「けどよぉ、女ばっかじゃん? いけるんじゃね」

「そーだぜ。そろそろ蓄えも無くなるし、次にいつ馬車が来るか分かんねぇじゃん」

「それに、女ばっかなら楽しめるじゃん」

「女だからって冒険者やってんだから腕が立つに決まってんだろ! 油断すんなって」

「楽勝だろ!」

「ったく、オメェは臆病だなぁ。そんな事じゃ、立派な盗賊になれねぇぞ!」

「そうだそうだ! お頭、良い事言ったぜ!」

「よーし、オメェら、ターゲットはあの馬車だ! そろそろ夕方だし野営するだろ。荷物は傷つけたくねぇから、馬車が休憩してから襲うぞ!」

「「「おお!!!」」」

つい数時間前の事を思い出した男は、心から後悔していた。

なぜあの時、もっと強く反対しなかったのか。

なぜあの時、コイツらと縁を切らなかったのか。

なぜあの時、男の顔を見た瞬間逃げ出さなかったのか。

食い詰めて盗賊団に入り、人に言えない事をやってきた男は、人生を舐めていた。多少武器で脅せば、大抵の商人は言う事を聞いたし、働くなんて馬鹿らしいと思っていた。

お頭は少し自分勝手だが、言う通りにしていれば飯は食えた。

今回は護衛も居たが、人数も少ないし、女ばかりだし大した事はないと思っていた。

だが、それらは全て間違っていた。僅かな不安を、無視するべきではなかったのだ。

「だから……やめようって言ったのに……」

男の人生は、そこで幕を閉じた。

「ったく……クリスが怖がるだろうが。おい、穴は掘ったか?」

「はい。こんなもんでどうっすか? しかしすげえですね。ほとんど血が出てねぇ。こんだけ倒せば、普通血だらけになりますよ」

「コイツらは弱かったからな。お前相手ならこうはいかない」

「依頼人を襲うほど落ちぶれてませんぜ」

「分かってる。ガウス達は熟練の冒険者だから手強いという意味だ」

「そりゃ光栄ですね。まぁ、俺らは付き合いも長いですからね」

「そうなのか?」

「はい、もう3年は経ちます。最初は色々ありましたけど、今はうまくやってますね。レミィがリーダーで良かったですよ」

「そうか、レミィは人を纏めるのが得意そうだからな。さすが、元貴族だ」

「……っなんで……知って……まさか……」

「噂話は、もう少し小声で言え」

「すいませんっ!」

ガウスは、カタカタ震えながら頭を下げた。

「レミィは素性を知られたくないだろうから、オレが知ってる事は言うなよ。その代わり……」

「分かってます! なんにも、まったく、詮索など致しません! 俺達は護衛の仕事をすれば良いだけですから!」

「物分かりが良いな」

「俺は、命が惜しいんです」

「なんだよ、大事な護衛に危害は加えないぞ」

「俺らが、ジルさん達の邪魔をするなら……コイツらと一緒に穴の中でしょう?」

「当然だ。オレの邪魔をするのか?」

「しませんよ。長年冒険者やってますけど、ジルさん程強い人は見た事がありません。それに、その……殺気からして只者じゃないのは分かります。ジルさんの素性なんてどうでも良いし聞きませんけど、俺らと初対面の時は、わざと隙を見せないようにしてましたよね? でも、野盗が狙ってるって分かったら……隙を見せて誘き寄せて見事に全滅させてるじゃないですか」

「野盗はどっちにしろ処刑だ」

「ジルさんが殺気を出せば、野盗なんて襲ってきませんよ」

「それでは意味がない。野盗を倒す姿はクリスに見せたくないが、放っておいて別の馬車が襲われたりしたらクリスが悲しむ」

「相変わらずの溺愛っぷりですね。ホント、おふたりは騎士とお姫様みたいっすね。あ、単なる例えですよ?」

「わかってる。お前は弁えている良い冒険者だな」

「光栄です。今後ともご贔屓に」

「ああ、タイミングが合えばまた護衛を頼むよ。それから、これは今回の危険手当だ」

「それは流石に受け取れませんよ。いくら金欠でも、冒険者としてのプライドはありますからね。今回俺がやったのは穴掘りだけです。女性陣なんて、楽しくメシ作ってるだけですからね。これで金を受け取ったら、俺がレミィからどやされます」

「……そうか、分かった。ますます気に入った。また機会があれば仕事を頼む」

「毎度あり~」
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