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15.王女は恩人に感謝する
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「アーテル様もずいぶんジルを信頼しているようですね」
「そうですね。姫君にあのように献身的に看病されて、恩を感じない者などおらぬでしょうからな」
「……まさか、アーテル様はわたくしがジルを助けたのを見ていたのですか? 薬を用意してくれたり、サポートしてくれたのもアーテル様ですか?」
「私だけではありませんが、ジルを姫様がお助けした時、密かに薬を用意したり、ジルが気を失っている間に手当をしたり致しました」
「そうだったのですね。幼かったので記憶が曖昧なのですが、今思えば幼いわたくしではあんなに綺麗に包帯を巻けません。薬や包帯も、わかりやすい場所に置かれておりましたし。アーテル様のおかげでジルが助かったのですね。ありがとうございます。それに、わたくしが幼い頃にお腹が空いていたら食事があったり、池に落ちたときにもお助けいただいたのでしょう?」
「国王陛下の忠実な影である我々は、姫様に気付かれないようにサポートせよとの国王陛下の命を遂行したに過ぎませぬ。それも、完璧ではありませんでした。メイドの愚行を見逃したために、姫様は飢える事になってしまいました。ジルが影に就任していなければ、姫様が餓死する事になりかねませんでした。姫様に無礼を働いた使用人は全員解雇しました。コックだけは、姫様に泣いて侘びておりましたので国王陛下が許しました。姫の墓前に、毎食食事を届けるそうです。失礼なことを言って申し訳ない。自分の食事が気に入らないのかと怒ってしまったが、毎食あれだけの量を完食している姫様があんなに痩せているなんておかしいと気が付くべきだったと泣いて懺悔しておりました」
「そう……。なんとかわたくしは許しているとお伝えしたいけど、無理ね」
「折を見て、国王陛下から許しを与えるようにお伝えします。それでも生涯後悔し続けるでしょうが。それは、彼が背負うべき業です」
「お父様に手紙を書くわ。届けてくださる?」
「もちろんです」
クリステルは、部屋にあった便箋と羽ペンで手早く手紙を書いてアーテルに手渡した。手紙には、父への感謝と、今後の予定、露天で食べた食べ物が美味しかったといった事まで書いた。手紙を書くクリステルはとても楽しそうで、アーテルは思わず目を見開いた。クリステルが生き生きとしている姿を見るのは、初めてだったからだ。
「お父様には感謝しているわ。わたくしが生きていたのは、お父様が密かに助けてくれたからなのよね。アーテル様も、ありがとう。他の影の方にも感謝を伝えてくださる?」
「かしこまりました。姫様からそのようなお言葉を頂けるとは光栄です。長年姫様を見守ってきましたが、今が一番お幸せそうですね。本当に良かった」
アーテルは、目に涙を浮かべながらクリステルに跪く。
「誰にも必要とされていないと思っていたけど、ジルがわたくしを攫ってくれて、教えてくれたの。お父様はわたくしを大事に思ってくれていて、アーテル様のように優秀な影の方もわたくしを助けてくれていた。それに、わたくしが死んで喜ぶ人しか居ないと思っていたのに、わたくしが死んだと聞いて泣いてくれる人も居た。わたくし、死んでもいいと思っていたけど今はそうは思わないわ。ジルと、生きたいの」
アーテルは、号泣しながら言った。
「そうですか……。良かった……。良かったです。ジルは姫に救われた命だからと、姫をお救いするためにずっと研鑽を積んでおりました。姫がお優しく、会ってもいない貴族の死を悼んでいる事を知り、王妃に売り込みをかけて大量の暗殺をジルが請け負うようになりました。全ては、暗殺対象者を保護する為です」
「……え?」
「王妃は、自分が気に入らない人間はすぐに暗殺しようとするのです。王妃とドレスが被っただけで暗殺対象のリストに入るなど異常です。ですが、おかしいと思っても証拠が見つからなかった。ジルが全てを教えてくれたので、我々は対策を立てることが出来ました。ジルの提案で、王妃が依頼した暗殺するに値しない人間を秘密裏に保護するようになりました。ジルが暗殺者なのは事実です。誰も殺してない訳ではありません。ですが、姫様には知っておいて欲しかったのです。ジルを誤解しないで頂きたいと……」
「ただいま戻りました! ってなんでアーテルさん泣いてるんですか?! クリス、これどういう状況だ!」
「ふふっ、ジルはいい人だって話よ」
「はぁ? オレがいい人の訳ないだろ?!」
「そうですね。姫君にあのように献身的に看病されて、恩を感じない者などおらぬでしょうからな」
「……まさか、アーテル様はわたくしがジルを助けたのを見ていたのですか? 薬を用意してくれたり、サポートしてくれたのもアーテル様ですか?」
「私だけではありませんが、ジルを姫様がお助けした時、密かに薬を用意したり、ジルが気を失っている間に手当をしたり致しました」
「そうだったのですね。幼かったので記憶が曖昧なのですが、今思えば幼いわたくしではあんなに綺麗に包帯を巻けません。薬や包帯も、わかりやすい場所に置かれておりましたし。アーテル様のおかげでジルが助かったのですね。ありがとうございます。それに、わたくしが幼い頃にお腹が空いていたら食事があったり、池に落ちたときにもお助けいただいたのでしょう?」
「国王陛下の忠実な影である我々は、姫様に気付かれないようにサポートせよとの国王陛下の命を遂行したに過ぎませぬ。それも、完璧ではありませんでした。メイドの愚行を見逃したために、姫様は飢える事になってしまいました。ジルが影に就任していなければ、姫様が餓死する事になりかねませんでした。姫様に無礼を働いた使用人は全員解雇しました。コックだけは、姫様に泣いて侘びておりましたので国王陛下が許しました。姫の墓前に、毎食食事を届けるそうです。失礼なことを言って申し訳ない。自分の食事が気に入らないのかと怒ってしまったが、毎食あれだけの量を完食している姫様があんなに痩せているなんておかしいと気が付くべきだったと泣いて懺悔しておりました」
「そう……。なんとかわたくしは許しているとお伝えしたいけど、無理ね」
「折を見て、国王陛下から許しを与えるようにお伝えします。それでも生涯後悔し続けるでしょうが。それは、彼が背負うべき業です」
「お父様に手紙を書くわ。届けてくださる?」
「もちろんです」
クリステルは、部屋にあった便箋と羽ペンで手早く手紙を書いてアーテルに手渡した。手紙には、父への感謝と、今後の予定、露天で食べた食べ物が美味しかったといった事まで書いた。手紙を書くクリステルはとても楽しそうで、アーテルは思わず目を見開いた。クリステルが生き生きとしている姿を見るのは、初めてだったからだ。
「お父様には感謝しているわ。わたくしが生きていたのは、お父様が密かに助けてくれたからなのよね。アーテル様も、ありがとう。他の影の方にも感謝を伝えてくださる?」
「かしこまりました。姫様からそのようなお言葉を頂けるとは光栄です。長年姫様を見守ってきましたが、今が一番お幸せそうですね。本当に良かった」
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アーテルは、号泣しながら言った。
「そうですか……。良かった……。良かったです。ジルは姫に救われた命だからと、姫をお救いするためにずっと研鑽を積んでおりました。姫がお優しく、会ってもいない貴族の死を悼んでいる事を知り、王妃に売り込みをかけて大量の暗殺をジルが請け負うようになりました。全ては、暗殺対象者を保護する為です」
「……え?」
「王妃は、自分が気に入らない人間はすぐに暗殺しようとするのです。王妃とドレスが被っただけで暗殺対象のリストに入るなど異常です。ですが、おかしいと思っても証拠が見つからなかった。ジルが全てを教えてくれたので、我々は対策を立てることが出来ました。ジルの提案で、王妃が依頼した暗殺するに値しない人間を秘密裏に保護するようになりました。ジルが暗殺者なのは事実です。誰も殺してない訳ではありません。ですが、姫様には知っておいて欲しかったのです。ジルを誤解しないで頂きたいと……」
「ただいま戻りました! ってなんでアーテルさん泣いてるんですか?! クリス、これどういう状況だ!」
「ふふっ、ジルはいい人だって話よ」
「はぁ? オレがいい人の訳ないだろ?!」
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