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9.王女、はしゃぐ

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「ジル! これなぁに?」

「それは、最近流行ってるボードゲームだ。子どもでも出来て簡単だから、人気があるんだ」

「これ、売れるかしら?」

「どうかな。地方では子どもの娯楽に金かける余裕はないからな」

「そっか、じゃあ駄目ね。残念だわ」

しょんぼりとするクリステルを見て、ジルは慌てて口を開いた。

「ちょっとくらいなら売れるかもしれないし、腐るもんじゃないから仕入れてみるか」

「ほんと?」

「ああ、ついでに俺たち用に買って、遊んでみるか? 遊び方を知らねぇと、売れないしな」

「やりたいわ! ゲームなんてしたことないもの!」

「そうか、オレもあんまねぇけど、クリスよりは経験があるし、子どもでも遊べるんだからなんとかなるだろ」

「調味料もたくさん仕入れたわね」

「ああ、一応日持ちする食品も少し仕入れておいた」

「調味料なんだけど、いい匂いがするものも多いじゃない? だから、その場で調理した食品を売れば、調味料の売れ行きも良くなるんじゃないかしら?」

「それは良いかもな。んじゃぁ、何作る? ってか、料理って……ああ、クリスは出来るよな」

「ええ、でないと生きていけなかったし。でも、コックにバレて料理できなくなったの。いよいよ飢え死にかしらと思ってたら、コックに調理場への出入りを禁止された直後から食事はちゃんと与えられるようになったのよ。流石に、飢え死にはまずいと思ったのかしら?」

クリステルは、食料をまともに貰えないことが多かった。国王がこっそり渡したりもしていたが、ある程度大きくなると図書室で料理の本ばかり読んで自分で作っていた。料理人も冷たかったから、深夜に勝手に調理場に忍び込んで料理をしていた。

何度か忍び込んで料理をするうちに、料理が楽しくて仕方なくなっていた。技術も上達してきた頃に、コックにバレて卑しい王女だとバカにされ、調理場には鍵が設置され、クリステルは料理ができなくなった。

2日、食事を与えられていない王女に掛ける言葉ではなかったが、コックはクリステルの食事をちゃんと作っていたので、自分の料理が気に入らないのかと怒ってしまったのだ。使用人は全員クリステルをバカにしていたから、コックもクリステルを敬う気持ちなどなかった。

国王は公務で外出することも多く、自分の影でクリステルをサポートするのに限界を感じていた。食事が減ることは知っていたが、自分が公務に出ている間に、食事を全て奪ってしまうメイドが居るとは気がついていなかった。ジルが影になった直後に報告を受けて、激高してクリステルのメイドを全員クビにした。

王妃に批判されたジルだったが、国王の信用を得る為に必要だった。食事まで奪って、王女が餓死なんて事になったら流石に国王は調査する。今だって、王族への冒涜だと怒っていた。クリステルを可愛がっているとかではなく、王家の血筋の者へ与えられる食事を奪う行為に激高していたと報告すると、王妃は焦ってメイドに食事は与えるようにと指示を出した。

それからは、クリステルに食事がきちんと与えられるようになった。ただし、クリステル用の豪華な食事はメイドが食べて、クリステルに与えられるのはわずかなパンと薄いスープのみ。それでも、毎食与えられるだけありがたいとクリステルは文句も言わず食事を食べていた。

「あれをちゃんとした食事って言うクリスはお優しいぜ」

「食べられるだけましよ。美味しくはなかったけど、飢え死には免れたもの」

「んじゃぁ、リサーチがてら出店を覗いていこうぜ。美味いものいっぱいあるから何でも買ってやるよ」

「本当? 嬉しいわ。わたくし、お腹が空いていたの!」

「おう、何が食べたい? あ、それから街中ではわたくしはやめとけ。目立つから」

ジルは小声でクリステルに伝えた。

「ごめんなさい、わかったわ!」

「出店、串焼きが美味いぜ。売る予定の調味料もタレとして使ってるから、味見しに行こうぜ」

「うれしい! 私、楽しみだわ!」

クリステルは、生き生きと駆け出した。

「ちょ! 走るな! あぶねぇから!」

「だって楽しいんだもの!」

「ったく、しょうがねぇなあ。勝手にどっか行かれると困るんだよ」

そう言って、ジルはクリステルの手を握った。クリステルは顔を赤くしながら、ジルの手をぎゅっと握り返した。
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