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3.絶望【父視点】

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やはり間に合わなかったか。まぁいい。遅れてすまないと謝れば、ルリィは許してくれる。

無事、都合のいい婿を手に入れた。離婚はできないのだから、これでルリィが生きてる限り我が家に大金が舞い込む。

数年経ち子が出来なければ、ルリィも諦めるだろう。マリリカに相応しい男を探さなくてはな。

家を継げるのは男だけなのだから、あの爺も文句は言えない。
念のため、ルリィに口止めをしなくては。

まぁ、ルリィは私に懐いているし……大丈夫だろう。

マリリカが来ても、文句ひとつ言わず受け入れてくれた優しい娘。
あの爺に上手く言ってくれたらしく、支援金を減らされることはなかった。
それどころか、結婚準備があるだろうと支援金を増やしてくれた。

マリリカ達が来て生活費が上がり、家のお金が足りなくなるかもしれないと心配したルリィが上手く言ってくれたのだろう。
支援金が増えたおかげで、私の本当の娘にいいものを沢山買ってあげられた。

使用人すら逃げ出すほど落ちぶれていたのに、上手くやれたと思う。
好きでもない女と血のつながらない娘に媚を売り続けた甲斐があった。

あと数年我慢すれば、すべてうまくいく。マリリカの子をルリィの子として育て、ある程度貴族達に認められるまでの辛抱だ。婿に爵位を譲らず気を抜かないようにしなければ。
いくらルリィが隣国の伯爵家の血を引いていても、私の血を引いていないのだ。

やはり、自分の子に跡を継いでほしいからな。

両親が死んで没落すると覚悟したが、都合のいい女が来てくれて助かった。
そんなことを考えていたら、教会のドアが開いた。

「ふざけるのもいい加減にして欲しいわ!」

ん?
シルバーニャ公爵夫人が怒っておられるぞ。

ルリィのやつ、何をしたんだ!

よく見ると、夫人だけではない。
戸惑っている参列者、冷たい目をした参列者、怒って帰る参列者。

原因はすぐに分かった。

「お父様! おかえりなさい! 見て! 綺麗でしょ!」

ルリィのウエディングドレスを着たマリリカがいつものように微笑んで私の元に駆け寄る。

参列者の視線が突き刺さる。
お父様と呼んでるわ。やはり……。

そんなひそひそ声が聞こえる。

悪意の混じった視線が突き刺さる。

「あなた、おかえりなさい」

マリリカを手に入れるためだけに付き合った女が、妻のドレスを着て微笑んでいる。

皆の冷たい視線の原因はこれか。

突然の事故で妻を失い、忘れ形見のルリィを大切にしている伯爵。
ルリィに不自由させないため、必死で仕事をする伯爵。

ようやく作り上げた私の好感度が地に落ちている。このままではまずい。

私は、瞬時に彼女たちを切り捨てると決めた。

「お前は誰だ?」

「……え、あなた? 私よ……」

「ルリィはどうした? 私のたった一人の、大切な娘はどこだ」

私の評判は落ちるだろう。だがルリィさえいれば、まだ挽回できる。

「どうしたの? お父様。お姉様は追い出したわ! お父様の血を引くたった一人の大切な娘はわたくしでしょう?」

いつもマリリカに言う言葉が、私を突き刺す。

「お前なんて知らん! 我々は初対面だ! 私の娘はルリィだけだ! ルリィをどこへやった!」

誤魔化せ。なんとか誤魔化すんだ!

「何を言ってるの、あなた……」

いつも二人に言っていた言葉が、次々と私に突き刺さる。
ルリィさえいれば、まだなんとかなった。

だけど、いつも優しく微笑む娘は多額の支援金と共に消えてしまった。
あの爺が、孫のルリィを蔑ろにした私を許すわけない。

使用人も全て、あの爺の手配だ。
金がかからないからと横着せず、管理くらい私の手のものに任せるべきだった。

きっと、爺の支援金で買ったものは全て回収されているだろう。家には誰もいないのではないか?

参列者がざわめいている。
見覚えのあるメイドが、録画用の魔結晶を公開した。婿にしようとした男がマリリカを妻にすると宣言している。マリリカを産んだから可愛がっていた女が、勝手にルリィを追い出している映像が映し出された。

ルリィを可愛がっていたシルバーニャ公爵夫人の叫び声が聞こえた。

もう、終わりだ。

私はこれから、どうやって生きていけばいいのだろう。
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