上 下
2 / 5

2.さようなら

しおりを挟む
マリリカとわたくしは同い年。父は、母と結婚してすぐに愛人を作った。もしかしたら、母と会う前から愛人関係があったのかもしれない。マリリカとわたくしの年齢差がわかりにくくなるまで待っていたんじゃないかとあの人は言っていたわ。母に優しく接していた父だったけど、2人の間に子は生まれなかった。母は黙っていたけれど、おそらく一度も寝室を共にしていない。

父は自分の血を引いた子に、家を継いでもらいたかったんだと思う。

母とわたくしがいるから祖父の支援が得られているんだから、母との間に子を作るべきだったのに。

潔癖なところがある父だから、母を受け入れられなかったのかもしれないわ。

母が亡くなったあと、祖父はわたくしを引き取ろうとした。
わたくしがいなくなれば祖父の支援がなくなると思った父は、わたくしに婿を取り家を継がせることにした。

祖父の国と違い、女性は爵位を継げない。
だから女性しかいない家は、婿を取り家を継いでもらう。

その頃のわたくしは父を信じていたから、わたくしの為に婿をと言う父の言葉に頷き、帰ろうと誘う祖父を説得して家を継ぐと決めた。

なんて馬鹿な事をしたのだろう。
そう気付いたのは、母の喪が明けてマリリカ達が家に来た時だ。万が一わたくしに子が出来なければ、高貴な自分の血を引いたマリリカの産んだ子を跡取りにすればいいと父は言った。

その瞬間、父を慕っていた気持ちが全て消え失せた。

冷静になると、父がおかしいと気付いたわ。

お父様と慕っていた男は、優しい顔して裏でコソコソと動く卑怯者だった。
密かに大量の避妊薬を手配しているのはどうして?

母と一緒に、この家から消えれば良かった。そうすれば今頃……父は貴族ではなくなっていたし、わたくしも今より幸せだったと思う。

父を信じたわたくしが愚かだった。

明日、父が帰ってくる。仕事が忙しく、結婚式はギリギリの到着になると言っていた。
くれぐれも祖父によろしく言っておいてくれと何度も何度も言われたわ。いつものように、わたくしのフォローを期待したのだろう。
今なら分かる。父は最初から式に出るつもりなんて、ないのよね。

自分の子ではないのだから、参加しなくていいと思っているのだ。

けど、好都合よ。

式が終わり、夫婦になれば別れることはできない。
ロバートは伯爵家の居候と結婚する。マリリカは正式な養子縁組を結んでいないもの。父の子でも、家は継げない。彼は伯爵家の三男。婿入りできなければ平民になるしかない。

継いでもこんな家、すぐなくなるでしょうけど。

唯一の跡取りであるわたくしは、居候に出て行けと言われて消えたあと。
こんな家、なくなってしまえばいい。

決められた税を納めないと爵位はく奪。税金の支払期日は、来月。
税金はいつも祖父に頼んで用立てて貰っていた。いつまでも甘えていられないと、わたくしが結婚したら祖父の支援金を使って領内に投資して税金を払おうと考えていたわ。

でも、もういい。わたくしは祖父のもとに行って、本当の家族と過ごす。父も本当の娘とお幸せに。

わたくしをあと少し騙し切れば、全て父の思惑通りだったのに。

父のことは、好きだった。けど、もう父とは思えない。
マリリカ達が来たあの日、わたくしの気持ちは決まったの。

祖父の求めに応じて、国を出るわ。

父が持ってくる大量の釣書から見た目だけは良い、プライドが高く評判の悪い婚約者を選び、なんでもわたくしのものを欲しがるマリリカに紹介した。

あとは、お父様の予想通りに進んだわ。

本当にお父様は人を見る目があるのね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ
恋愛
 伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。  最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。 「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。  そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。  そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

【完結】え? いえ殿下、それは私ではないのですが。本当ですよ…?

にがりの少なかった豆腐
恋愛
毎年、年末の王城のホールで行われる夜会 この場は、出会いや一部の貴族の婚約を発表する場として使われている夜会で、今年も去年と同じように何事もなく終えられると思ったのですけれど、今年はどうやら違うようです ふんわり設定です。 ※この作品は過去に公開していた作品を加筆・修正した物です。

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

幼馴染の婚約者を馬鹿にした勘違い女の末路

今川幸乃
恋愛
ローラ・ケレットは幼馴染のクレアとパーティーに参加していた。 すると突然、厄介令嬢として名高いジュリーに絡まれ、ひたすら金持ち自慢をされる。 ローラは黙って堪えていたが、純粋なクレアはついぽろっとジュリーのドレスにケチをつけてしまう。 それを聞いたローラは顔を真っ赤にし、今度はクレアの婚約者を馬鹿にし始める。 そしてジュリー自身は貴公子と名高いアイザックという男と結ばれていると自慢を始めるが、騒ぎを聞きつけたアイザック本人が現れ…… ※短い……はず

処理中です...