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1.婚約破棄
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「ルリィ、婚約を破棄してくれ」
そう婚約者が言い出したのは、式の前日。
「……婚約破棄……? ロバート……なにを言ってるの? わたくし、なにかいけないことをした?」
まだよ。まだ。
わたくしは、何も知らない伯爵令嬢でいなくては。
「君はつまらない。飽きたんだ。俺達の婚約は家同士のもの。だから相手はルリィじゃなくてもいい」
「お姉様、かわいそう。でも、私の方が可愛いし優秀だから仕方ないわよね」
「全く、マリリカの功績を自分のものにするなんて酷い奴だ。こんな愛想のない婚約者なんて要らない」
「婚約破棄された娘なんていらないわ。さっさと出ていきなさい」
マリリカの母親が意地悪そうに笑った。
黙ってお茶を下げるルナの胸にある録画用の魔結晶が光る。言質は取れた。
意地悪そうに笑っている女は、母が死んでから家に来た父の愛人だ。彼女が父の命令だからとわたくしの食事を簡素にしようとしたり、母の遺品を盗んでいる証拠はある。父が使用人に彼女とマリリカの意見が最優先だと指示する録画もある。
今日の録画も合わせれば、この家は終わりだ。
すっかり妻気取りだけど、残念ね。あなたはしょせん居候。父と結婚していないわ。
あの血統主義の貴族大好き男が、いくら美しくても平民の女性を妻にするなんてありえない。
ちゃんと婚姻を結べば、父に対する気持ちは今よりいいものだったかもしれないけどね。
いや、それはないか。マリリカは我儘すぎるもの。
我儘むす……もとい、マリリカ達は単なる居候だが、父の愛情を一身に受けてやりたい放題だ。
まぁでも、父が彼女達を可愛がる気持ちも分かる。だってわたくしは、父の子ではないもの。隣国の伯爵令嬢だった母は、庭師と恋に落ちてわたくしを身籠った。爵位のない者との結婚は、厳格な祖父が許さなかった。
祖父は急いで母の嫁ぎ先を探したらしい。お腹にいたわたくしごと受け入れて貰うには、国内の貴族では不安があった。
祖父はその頃、政敵に嵌められて信用できる貴族があまりいなかった。母が使用人との子を産んだと知られたら家が潰されてしまう。
だから、国外の貴族に母を嫁がせた。
父の家は由緒ある伯爵家だったが、借金ばかりで没落寸前だった。両親が死んで跡を継いだ父は、家の借金を知って途方に暮れていたらしい。だけど元々裕福な伯爵家として散財しまくっていたから、節約すればすぐバレてしまう。父は必死で隠していたが、爵位はく奪の危機だったようだ。独自の情報網で父の窮地を知った祖父は借金を全て肩代わりし、毎月多額の援助を内密で行う代わりに、母との結婚を求めた。
父は母との結婚を受け入れた。母を大切にすると、祖父の前で誓ったそうよ。
父に一目惚れした母が望んだ結婚だとストーリーをでっちあげ、祖父は急いで母を嫁がせた。
父は全てを理解して母を受け入れたけれど、母が死んで喪が明けてすぐ、わたくしの3つ下の妹だとマリリカ達を連れてきた。
3年経っても庭師の男を忘れられない言う母に寂しくなってつい……と陳腐な言い訳も聞かせて頂いた。
でも、わたくしは知ってるの。
そう婚約者が言い出したのは、式の前日。
「……婚約破棄……? ロバート……なにを言ってるの? わたくし、なにかいけないことをした?」
まだよ。まだ。
わたくしは、何も知らない伯爵令嬢でいなくては。
「君はつまらない。飽きたんだ。俺達の婚約は家同士のもの。だから相手はルリィじゃなくてもいい」
「お姉様、かわいそう。でも、私の方が可愛いし優秀だから仕方ないわよね」
「全く、マリリカの功績を自分のものにするなんて酷い奴だ。こんな愛想のない婚約者なんて要らない」
「婚約破棄された娘なんていらないわ。さっさと出ていきなさい」
マリリカの母親が意地悪そうに笑った。
黙ってお茶を下げるルナの胸にある録画用の魔結晶が光る。言質は取れた。
意地悪そうに笑っている女は、母が死んでから家に来た父の愛人だ。彼女が父の命令だからとわたくしの食事を簡素にしようとしたり、母の遺品を盗んでいる証拠はある。父が使用人に彼女とマリリカの意見が最優先だと指示する録画もある。
今日の録画も合わせれば、この家は終わりだ。
すっかり妻気取りだけど、残念ね。あなたはしょせん居候。父と結婚していないわ。
あの血統主義の貴族大好き男が、いくら美しくても平民の女性を妻にするなんてありえない。
ちゃんと婚姻を結べば、父に対する気持ちは今よりいいものだったかもしれないけどね。
いや、それはないか。マリリカは我儘すぎるもの。
我儘むす……もとい、マリリカ達は単なる居候だが、父の愛情を一身に受けてやりたい放題だ。
まぁでも、父が彼女達を可愛がる気持ちも分かる。だってわたくしは、父の子ではないもの。隣国の伯爵令嬢だった母は、庭師と恋に落ちてわたくしを身籠った。爵位のない者との結婚は、厳格な祖父が許さなかった。
祖父は急いで母の嫁ぎ先を探したらしい。お腹にいたわたくしごと受け入れて貰うには、国内の貴族では不安があった。
祖父はその頃、政敵に嵌められて信用できる貴族があまりいなかった。母が使用人との子を産んだと知られたら家が潰されてしまう。
だから、国外の貴族に母を嫁がせた。
父の家は由緒ある伯爵家だったが、借金ばかりで没落寸前だった。両親が死んで跡を継いだ父は、家の借金を知って途方に暮れていたらしい。だけど元々裕福な伯爵家として散財しまくっていたから、節約すればすぐバレてしまう。父は必死で隠していたが、爵位はく奪の危機だったようだ。独自の情報網で父の窮地を知った祖父は借金を全て肩代わりし、毎月多額の援助を内密で行う代わりに、母との結婚を求めた。
父は母との結婚を受け入れた。母を大切にすると、祖父の前で誓ったそうよ。
父に一目惚れした母が望んだ結婚だとストーリーをでっちあげ、祖父は急いで母を嫁がせた。
父は全てを理解して母を受け入れたけれど、母が死んで喪が明けてすぐ、わたくしの3つ下の妹だとマリリカ達を連れてきた。
3年経っても庭師の男を忘れられない言う母に寂しくなってつい……と陳腐な言い訳も聞かせて頂いた。
でも、わたくしは知ってるの。
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