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第十九話

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「団長、今日帰ってくるんだっけ?」

今日の仕事は終わって、着替えながらヘレナとおしゃべりをしていました。

「ええ、確か今日だったと思うわ」

この後、カルロと会える予定なのです。ワクワクしますわ。

「団長かっこいいよねぇ。憧れるわぁ。実はね、フリーだって聞いたから団長にアタックしちゃったの!」

「えっ……!」

ヘレナは、カルロが好きなんですの?!

「残念ながら相手にされなかったけどね。もうすぐ婚約者を発表するし、不実な事など出来ないって真顔で言われたわよ。ちょっと怖かったわ。あれはよっぽど婚約者が好きなんだろうね。貴族様でも遊び相手くらいにはなれるかな~と思ったけど、あの手の男は誘うだけ無駄だわ」

「そ、そうなのですね……」

「シルヴィアも真面目そうよねぇ。ねぇ、貴族って本当に結婚式までキスもしないものなの?」

「え、ええ……表向きはそうですわね」

「ま、所詮表向きよね。あたしこないだ、娼館に貴族のお坊ちゃん入るとこ見たもん。確か結婚間近だった筈よ。街中なら貴族ともバレないだろうってハメ外してる人多いけど、貴族は立ち振る舞いでバレるっつーのに。ねぇ! シルヴィアは婚約者とか居ないの?!」

「申し出は、あります。父と検討中ですわ」

「そっかぁ、確かにシルヴィアはモテそうよね」

「わたくし、学園では誰も話しかけてくれませんでしたわよ?」

「シルヴィアは綺麗だから、近寄り難かっただけじゃないの?」

「それはないですわ。元婚約者は学園で大人気でわたくしみたいな地味でお固い女と婚約させられて可哀想だとよく陰口を言われましたもの」

「うっわ、貴族様は見る目ないわねぇ。シルヴィアは確かに真面目だけど、地味じゃないでしょ。こないだ正式な騎士服初めて着たじゃない?」

「ええ、ヘレナはとっても似合ってましたわ!」

「ありがと、でもシルヴィアの方が凛としてて素敵だったわ。シルヴィアはどちらかと言うと華がある美人よ。地味ではないわ」

「そ、そのような事ありませんわ……」

「あーもう! 真っ赤になって可愛いなぁ! 先輩達がシルヴィアを溺愛するのも分かるわ!」

最近、ヘレナはいつもわたくしを褒めてくれますの。騎士団の皆様も同様です。こんなに褒めてくれるのはお父様くらいでしたから、嬉しいやら照れ臭いやら……。

……………………………………

「シルヴィア、ただいま」

「カルロ! おかえりなさい!」

カルロはやっぱりかっこいいですわ。ヘレナが憧れるのも分かります。なんでしょう……この胸のモヤモヤは……。

「シルヴィア? どうした?」

「なんでもありませんわ! ご無事で良かったです。会えなくて寂しかったですわ!」

「オレもシルヴィアの顔が見れなくて寂しかったよ」

そう言って、手にキスをしてくれました。わたくしもカルロの手にキスをします。

カルロは、ヘレナの誘いをあっさり断ったそうです。そう聞いた時、とっても安心しました。でも、なんだか心がモヤモヤするのです。なんでしょう、この気持ちは……。

「シルヴィア、やっぱり様子がおかしいね? どうしたの? オレと婚約発表するの、嫌になった?」

「そんな訳ありませんわ! とっても楽しみです!」

3日後には、カルロとの婚約披露パーティーが開かれます。騎士一筋だった団長を射止めたのは誰だと騎士団では噂になっていますわ。女性騎士の先輩方は、相手が私だと気が付いておられるようですけど……。

ヘレナは、知らないわよね。そう、知らない筈なのよ。だからわたくしにあんな話を……。

「シルヴィア」

「は、はいっ!」

いけません、ぼんやりしておりましたわ。

「何を、悩んでいるの?」

そう言って、カルロがわたくしに顔を近づけてきます。え?! これは……。

「いけません! カルロとキスはしたいけど、まだ結婚してませんわ!」

「口付けはダメだよね。分かってるよ。でも、頬なら良いでしょう?」

涙目で頷くわたくしを、楽しそうに見つめながらカルロは頬にキスをしました。カルロの顔が近づくと、頭がぼんやりして何も考えられなくなってきましたわ。

「ふふっ、オレとキスしたいと思ってくれてるなら、嫌われた訳ではなさそうだね。さて、何に悩んでるのか教えてくれるよね? でないと、また頬にキスするよ?」

「ま……待ってくださいませ……」

すっかりカルロに翻弄されたわたくしは、モヤモヤした気持ちもぐちゃぐちゃした気持ちも、全て話してしまいました。その間に、何度も頬にキスされましたわ。もう、頭が沸騰しそうです。

「それは、嬉しいなぁ。嫉妬してくれたんだね。でも安心してね。オレはシルヴィア一筋だから」

そう言って、わたくしの頬にキスをするカルロはちょっぴり意地悪そうな顔をしておりましたわ。それでも素敵だと思うわたくしもだいぶカルロが好きみたいですわね。
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