天使を拾って餌付けした悪魔の話

編端みどり

文字の大きさ
上 下
2 / 2

餌付けには金がかかる

しおりを挟む
「美味しい、美味しいですぅ!」

ラーメン、3杯食べやがった。あまりの食いっぷりに注目集めてんじゃねぇか。

「お嬢ちゃんよく食べるね! ほら、チャーシューおまけだ!」

「ありがとうございますぅ! 良い人ですね!」

コイツの良い人の基準、低いな。大丈夫かよ。食べ物与えたら、簡単に信用しそうだな。
……ん? わかりやすく欲にまみれた人間達が見てんなぁ。まぁ、これだけの美人なら、注目は集めるか。

「ねー、ねー、お嬢さん、俺たちもっと美味い店知ってるよ? 一緒に行こうよ!」

店を出て、しばらくしたら話しかけられた。尾行されてたし、どこで声かけてくるかと思ってたら、こんな人気のないとこで声かけてくるなんて、ろくな人間じゃねぇなぁ。

「え?! もっと美味しいもの、あるんですか?!」

簡単に引っかかりやがった……気にくわねぇなぁ。

「ダメだ」

「ああ?! 俺たちはこの子を誘ってんの! お前はお呼びじゃねーんだよ!」

今は普通の人間の格好だし、舐められてもしょーがねぇが、気にいらねぇ。

「ダメですか?」

「ああ、ダメだ」

「じゃあごめんなさい。行かないです」

「えー! こんな男放っておこうよ! お前、今すぐどっか行けよ」

人間共が、鉄パイプとか持ってオレを脅しにかかる。なるほどな、まさにオレが狩るにふさわしいダメ人間だぜ。

それにしてもこの元天使、素直にオレの言う事聞くんだな。へらっと笑ってる顔がやたら可愛く見える。天使って、こんな可愛いんだな。いや、オレの会った天使はみんな目を釣り上げてた。オレが悪魔だから当然だけどコイツは最初から無警戒だったし、天使も辞めちまった。もうオレのもんだ。悪魔のものに手を出したんなら、それなりに制裁しても構わねえよなぁ。

「コイツはオレのもんだ。手ぇ出さねぇなら見逃してやるからどっか行け」

「すいません、私もうこの人のものなので」

自分から言うか?! なんなんだコイツは?! 

「えー、オレのものとか言う男やばいって! ね、俺らならもっと優しくするよ?!」

あんだけ欲にまみれてるくせによく言うぜ。

「でも、悪魔さん優しいです。私も、約束は守らないと」

「お前こんな純粋そうな子騙して何してんだよ! 悪魔ってウケる。あだ名かぁ?」

「いや、種族名だな」

ツノと羽を出す。ちょうどいい、この人間の欲は、色欲か。分かりやすいな。

「うわっ……お前何なんだよ?!」

「見ての通り、悪魔だが?」

「……やべえ! 逃げろ!」

「先に手を出したのは、そちらだからな」

襲ってきた男達の足を止めて、欲を引き出す。わざわざ襲おうとしてただけあって、なかなかな欲が集まったな。そうだ、ついでに人間の金も貰っておくか。

「さ、持ち金をここに出せ。自主的に出すなら、許してやる。素直に出さないなら、もう少し可愛がってやるよ」

「ひぃい! 出します出しますっ!」

金を置いて、男達は逃げていった。ふむ、これで買い物も可能だな。

「悪魔さん、あの人達、悪い人ですか?」

「ん? お前はあの人間共が悪く見えたのか?」

「分かりません、でも悪魔さんは私を守ろうとしてくれたように見えました」

なっ……、そんな事ねぇぞ! 絡んできて鬱陶しいから欲を取って追い出しただけだし、この欲はオレの仕事の一つでもある。けど、今日のノルマは終わってたんだよな。いつもならノルマギリギリしか欲集めたりしねぇのに、オレは何やってんだ?

それに、人間の金なんてそんな要らねぇ筈だよな。今までだって、金に執着してる人間用にちょっと持ってるだけだ。元がありゃあ増やせるしな。でも、さっきのラーメンは増やした金じゃなくて普通に支払った。なんでオレは金を集めようとした?

……ちっ……天使に感化されてんじゃねぇか。

「オレのものを取ろうとしたヤツに制裁を加えただけだ。色欲取ってやったから、もうナンパなんてしようと思わねぇよ」

彼女いたり、結婚してたりしたら愛しあう事もできねぇだろうが、人間界の性犯罪者予備軍は確実に減っただろ。あいつらの今後なんて知るかよ。

「やっぱり悪魔さん優しいですね!」

「なんでそうなる!」

「私みたいに、怖い思いする人減らそうとしてくれたんでしょう?」

「……なっ! そんな訳ねえだろ! オレのものに手を出したから制裁しただけだ! だいたいお前はもっと警戒しろ! そんだけ美人なら、男が寄ってくるに決まってんだろ!」

「へ……私、天界では可愛くないって言われてましたけど?」

「な訳あるか! お前は美人だ! オレが手に入れたくなるくらいにはな!」

こいつ、真っ赤な顔してやがる。やべえ、多分オレも顔が赤い。くっそ、この空気を変えよう。そうだ!

「なぁ、人間界にコンビニってあるんだが、こんな夜中でも美味いもの売ってんだ。金も手に入ったし、なんでも買ってやるから行こうぜ」

「美味しいもの?! ……でも、そのお金はさっきの人達のものじゃないですか?」

「いや、自主的にあいつらがオレにくれたものだ。知ってるか? 人間って詫びる時に金やモノ、菓子なんかを渡すんだ。これはあいつらからの詫びの金だから、もうオレのものだ」

「そうなんですね! 私ならお金よりお菓子が嬉しいです!」

「菓子も買えるぞ。買ってやるよ」

「嬉しいです! 行きます!」

この日からオレは、仕事をさっさと終わらせて美味いものを探すようになった。可愛い元天使は、食いしん坊で金がかかる。だが、オレは退屈な日々から抜け出した。

「悪魔さん、今日も美味しいですぅ!」
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

ギフトを得られなかった落ちこぼれは、音楽の国の聖女になります

下菊みこと
恋愛
落ちこぼれ少女が聖女になるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

女帝陛下は孤独を抱えない

下菊みこと
恋愛
独身主義の女帝のお話 小説家になろう様でも投稿しています

こうして虐げられた姫君は、戦勝国の王に嫁いだ

下菊みこと
恋愛
虐げられた姫君が敵国の王に嫁ぐお話。 リゼットは願う。誰か、自分を攫ってはくれないかと。母は亡くなり、宮廷ではいじめられる毎日にいい加減飽き飽きしていたのだ。そこに現れたのは敵国の王。どうやら、いつの間にやら父王は降伏していたらしい。 小説家になろう様でも投稿しています。

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

錬金術に没頭していたら大国の皇子に連れていかれました

下菊みこと
恋愛
訳あり王女様が幸せになるお話 小説家になろう様でも投稿しています。

カタリナ・ミューズは如何にして王太子妃となったか

下菊みこと
恋愛
所謂御都合主義。頭を空っぽにして読んでください。 小説家になろう様でも投稿しております。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?

下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。 異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...