上 下
42 / 46
こぼれ話、その後など

こぼれ話 ニルは諦めない 1

しおりを挟む
「これ、あたしの名前の花だよね? ちっちゃい、可愛いわ! ニルはなんでも知ってるのね。すごいわ!」

そう言って笑っていたミモザとは、ずっと一緒に居られないのは分かっていた。

「良いか、ミモザお嬢様は貴族だ。仲良くしても良いが、ちゃんと距離は取っておくんだ。ミモザ様はいずれどこかの貴族と結婚するんだから」

両親も、祖父母も、屋敷に住む使用人達も、大人はみんなそう言った。だけど、ミモザはオレと居る時が一番楽しそうだ。

「なぁ、ミモザはオレが好き?」

「うん! ニル大好き!」

それなら……ミモザを連れてどっか遠くに行けば良いかなって思った。

でも、旦那様には恩があるし、そんな事したらミモザの兄さんは物凄く怒るだろう。それはダメだ。

どうすれば良い。どうにかしてミモザとずっと一緒に居たい。けど、オレは平民だ。

やっぱり、貴族のミモザとずっと一緒に居るのは無理なのか……。この気持ちは、子どもの頃の思い出になるんだろう。だんだん諦めの気持ちが強くなっていた。

そんな時、ミモザと遊んでいたらミモザの爺さんと会った。ミモザの爺さんは、オレにも分け隔てなく接してくれた。剣術の真似事まで教えてくれた。

旦那様や奥様、坊ちゃんはともかく、この家に来た貴族様で、使用人の息子の相手をしてくれる人なんて今まで居なかった。

ミモザと遊んでたら、オレは追い出されるのが常だったから。

だから、興味本位で聞いたんだ。なんでこんなに優しくしてくれるのかって。

「ワシは元々平民で、兄弟も多くてな。弟や妹の面倒を見ていたから、子どもが好きなんじゃ」

光が、見えた。

それから、オレはミモザの爺さんに必死で聞いた。どうしたら貴族になれるのかと。なんでそんなに貴族になりたいのかと聞かれたから、ミモザとずっと一緒に居たいと答えた。

爺さんは、それからめちゃめちゃ厳しくなった。

けど、今まで全くなかった希望があるなら、頑張れた。そのうち、ミモザも淑女教育が始まって会う事はなくなった。最後に会ったミモザは、少し大人びていて綺麗だった。

早くしないと、ミモザはすぐにどこかに嫁いでしまうと思ったから、必死だった。

必死で身体を鍛えて、軍に入った。平民のオレがのし上がるにはここしかなかった。その為に、学べる事はなんでも学んだ。

オレは身体が小さかったから、潜入捜査に向いていると言われ、色々教わった。大抵の場所には潜めるようになった。

気配を消す方法も覚えた。いくつもの貴族の屋敷に潜入して、重要書類を盗んだり、違法な事をしている証拠を手に入れたりした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。

拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜

みおな
恋愛
 子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。  この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。

【完結】婚約者取り替えっこしてあげる。子爵令息より王太子の方がいいでしょ?

との
恋愛
「取り替えっこしようね」 またいつもの妹の我儘がはじまりました。 自分勝手な妹にも家族の横暴にも、もう我慢の限界! 逃げ出した先で素敵な出会いを経験しました。 幸せ掴みます。 筋肉ムキムキのオネエ様から一言・・。 「可愛いは正義なの!」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済み R15は念の為・・

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

奪われたものは、もう返さなくていいです

gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

処理中です...