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第三十六話

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「お兄様、お義姉様、わたくしまた結婚出来るかしら? それとも生涯独身の方が良いかしら?」

「ミモザが好きな男と結婚したら良い。もちろん、結婚しなくても良い。ミモザはどうしたいんだ?」

「結婚はしばらく良いですわ。なんだか疲れてしまいましたもの。でも、そろそろ適齢期は過ぎてしまいますわね。最近は婚姻の申し込みは来ておりませんの?」

「……来てる」

「そうなんですね。お受けした方が良いですか? 今度はまともな方なら嬉しいですわ」

「間違いなくまともな方よ。でも、お受けしなくても構わないわ。ミモザの好きにすれば良いの。ねぇ、ミモザに好きな人は居ないの?」

お義姉様に聞かれましたが、思い付きません。

「……居ませんね」

「理想のタイプとかは?」

「そうですね、素で話せて、お互い思いやれる相手なら嬉しいですわ」

「身近に居ないの? そんな人」

なんでしょう。お義姉様がグイグイ来ますわね。そもそも、あんな日々を過ごしておりましたし、その時わたくしの身近に居た人なんて……。

ひとりしか……。

ど、どうしましょう、急にニルの顔が浮かびました。

顔が熱いですわ。

「あら、思い当たる人が居るみたいね?」

「その……ですが……彼は……」

ニルは貴族ではありません。それに、そもそもわたくしを好きかも分かりません。わたくしを守ってくれたのも、仕事だからでしょうし……。

「ミモザ、ニルが好きなのか?」

お兄様ぁ! ストレートに聞かないで下さいませ! 名前も出してないのになんでニルと分かるんですの?! どうしましょう。今まで全く意識してなかったのに、急にニルの事を意識し始めてしまったではありませんか!

確かに、ニルは素敵な人だと思います。あの地獄の日々もニルが居たから耐えられました。初めて花をくれた時の事は今でも覚えています。

馬車で久しぶりに話した時はとても嬉しかったです。お爺さんの格好をしていましたが、あの後久しぶりに顔を見たら、とても素敵な男性になっていて少しだけドキドキしました。

確かに、わたくしは幼い頃はニルが好きでした。ただ、友情なのか愛情なのかは分かりません。淑女教育を受けて、身分差を知りましたし、貴族は恋愛結婚は出来ないと思っておりましたから、恋愛感情を持った事はないのです。

ですが、このドキドキする気持ちはなんでしょうか。

「お、お兄様……わたくし……もう分かりませんわ……」

蚊の鳴くような小さな声で呟きましたら、お兄様は頭を抱えてしまわれました。

「はぁ……ミモザが好きならニルとの結婚を纏めようと思ったけど……お断りして良いね?」

「え! 嫌です!」

思わず出た言葉に驚いたのは、わたくし自身でした。
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