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第十一話

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「しかし、3年もあれば途中で危険性に気がついたり、書類を破棄させようとするのではないか?」

「その可能性は考えてありますわ。ですから、写を作る機械を貸してくださいませ。そのうち書類を破棄しようとしてくるかもしれませんし……」

「あり得るな。うちの泥棒用の金庫に写を入れておこう」

「旦那さまには、わたくしの書類は実家の金庫にあると伝えておきます。わたくしは、密かに写を持っておきます。本物は、ここにない方が良いでしょう。念のためお爺さまに預かって頂きますわ。書類がこの家にあると思われると、狙われる可能性はありますけど……」

「それくらいは問題ない。警備を強化する。しかし今後はミモザが頻繁にこの家に来るのはまずいな」

「ええ、今日は付いていませんが、そのうちわたくしに監視が付くでしょう。お義母様は、なんでもお知りになりたいようですから。初夜の様子まで聞かれた時は、吐き気を抑えるのが大変でしたわ」

「うわっ……ありえない……」

「そうね、息子夫婦の営みの話なんて聞きたくもないわ。もちろん言いたくもないでしょうし」

お母様と、お義姉様がドン引きしています。

「うちはそんな事聞いたりしないから!」

「俺もそんな話はしないから!」

お父様と、お兄様は慌ててフォローしていて、みんなで笑いあっています。

会話の内容はえげつないですが、穏やかな空気が流れています。

これが、わたくしとっての普通の家族です。全てを監視したがったり、わたくしの名前すら呼ばない夫の家はわたくしとはどうしても相容れませんわ。

「よし、今この時をもって、ダンカ侯爵家は我が家の敵だ。使用人、関連する商会、その他関係者にすぐに通知しろ。ミモザ、お祖父様も呼んだから、直接書類を預けなさい。お祖父様から書類を奪える者はそうそう居ないからね」

「はい! お祖父様に会えるのも嬉しいです!」

「表向きは今まで通りにする事。だが集められる情報は全て集めるように全員に通達してくれ。ミモザを蔑ろにしたと言えば、皆怒り狂うだろうから、情報は集まりやすいだろう。うちは男爵家だと舐めておるようだが、あちこちに商売のルートはあるんだ。誰を怒らせたか、身に染みて分かって頂こう。ミモザ、確実に落とすために油断させて奴等の内部情報を集めろ。ネタは多い方が良い」

「かしこまりました。お任せくださいませ」

父の決定に、反対する者は誰もおりませんでした。それから夫が来るまでに、さまざまな事を話し合いました。祖父とも会い、穏やかな時間を過ごせましたわ。

実家との連絡は、わたくしが商会を運営してから変装して客として来店する事にして、しばらくは家族に会わない事にしました。

あまり頻繁に外出すると、すぐに監視が付けられそうだからです。念のために、今後は常に監視が付いているつもりで動く事にします。気持ち悪いですが、3年の我慢です。耐えてみせますわ。

「情報収集は任せろ。格上だろうが関係ない。可愛いミモザ、つらくなったら全てを捨てて逃げてきなさい」

「ありがとう、お祖父様。でもわたくし、頑張ってみますわ」

「ミモザ、商会の職員は公募してくれ。うちの息がかかった者を送り込む。合図はいつも通りだ」

「承知しましたわ。お兄様」

「ミモザ、商会が出来たらすぐに変装して行くからね!」

「お義姉様、お会いできるのを楽しみにしておりますわ」

「ミモザ、敵を舐めてはダメよ。3年だけ、何とか耐えなさい」

「はい! お母様! 敵を侮ったり致しませんわ!」

「ミモザ、あんな男と結婚させてすまない……」

「お父様、泣かないで下さいませ。お父様が結婚誓約書に高額な離婚の慰謝料を設定して下さったおかげで、なんとかなったのですから。それに、この結婚をお断りする術はありませんでしたもの。わたくし、3年したらまた新たな人生を歩みますわ! 今日はお会いできて良かったです。お父様、お母様、お兄様、お義姉様、お祖父様、愛してますわ」
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