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「無理に連れ出して申し訳ありませんでした。マリベル様が嫌がっているように見受けられましたので……」

ダンスを踊りながら、フィリップ様が小声で問いかける。やっぱり、わたくしを助けようとして下さっただけなのね。少しときめいたのに、馬鹿みたいじゃない。

「あまり大きな声では言えませんが、その通りです。助かりました。ファーストダンスを殿下と踊ったりしたら、目立ってしまいますもの」

「俺がマリベル様をお誘いしても問題ありませんでしたか?」

「ええ。もちろんですわ。わたくしのパートナーはフィリップ様ですもの。ですけど、エリザベスの誘いを断ってしまって良かったのですか? 彼女は公爵令嬢ですわよ」

「構いません。俺はマリベル様を守れればそれで良いのですから」

「けど、公爵令嬢の申し出を断るなんて……。エリザベスは気にしないから大丈夫ですけど、他の方ならフィリップ様のお家に苦情が来るかもしれませんわよ」

柔らかく言ったけど、苦情で済むとは思えない。口には出さないけど、家を潰される可能性だってある。

「ガンツ様にご迷惑がかかりますか?」

「いいえ。お祖父様に苦情を言える方はいらっしゃらないので、大丈夫ですわ」

「なら、問題ありません」

ないんだ。そんなにキッパリ言われるとは思わなかった。じゃあ、フィリップ様はエリザベスの事は気にしてないのかしら。

なによ。なんでこんなに嬉しいのよ。

「マリベル様、楽しそうですね」

「ええ、とっても。フィリップ様はダンスがお上手ですね」

「ミア様に鍛えられましたからね」

「まぁ、お祖母様が?」

「早く覚えないと嫉妬したガンツ様に何をされるか分かりませんから、必死で覚えました」

お祖父様とお祖母様は、今日も華麗にダンスを踊っている。お祖母様の可憐なダンスは、たくさんの人の目を惹きつける。

エリザベスも、ヴィクター殿下と踊っている。近くをすれ違った時、後で話があるって言われた。フィリップ様を独り占めしてって怒られるかしら。

フィリップ様を値踏みするように見ていた人達は、フィリップ様のダンスに一目置いているようだ。

あっという間にファーストダンスの時間が終わり、それぞれパートナーを代えてダンスを踊り始める。

だけどその前に、フィリップ様に連れられて休憩スペースに移動してしまった。チラッと見ると、エリザベスの目が怒ってるのが分かる。そうよね! フィリップ様と踊りたいわよね!

ごめんなさい、エリザベス!

「あ、あの、フィリップ様は踊らなくてよろしいのですか?」

「マリベル様はどなたか踊りたい方がおられますか?」

「いえ、特には……」

「なら、少し休憩致しましょう。俺は必ずマリベル様を守ります。ガンツ様とお約束しましたから」

……そっか。同じ人とばかりダンスは出来ない。わたくしを守るには、踊らない方がいいんだ。

それも、全部お祖父様に頼まれたからなのね。
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