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23【メアリー視点】
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「おい、さっさとしろ!」
結婚して1ヶ月、マシュー様は一度も笑ってくれない。
「さっさとしろって言ってるだろ! このグス!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
毎日殴られ、罵倒される。あんなに優しかったマシュー様のご両親に蹴られた事もある。
だけど、逃げられない。逃げる場所がない。
最初は良かった。物凄くみんなチヤホヤしてくれた。お姉様が駄目って言って作れなかったフライドポテトやフライドチキンが作れたし、みんな美味しいって褒めてくれた。
だけど、お祖父様が訪ねて来てから全てが変わった。正確には、お祖父様ではなかった。私はあの家とは無関係な人間だった。お母様もお父様も貴族だけど、家を継ぐ訳ではないしそのうち貴族籍を失う予定だったらしい。結婚した事で、本当に貴族籍を失った。
私はお父様とお母様が正しいと思い込んでいた。お姉様達は、お父様とお母様を引き裂く悪者。お父様とお母様こそ真実の愛で結ばれた夫婦だって思ってた。レズリー伯爵家だって、お父様のものだと思ってた。お祖父様も、お父様の父親だと思ってた。だから、お父様とお母様の結婚も、私とマシュー様の結婚も祝福してくれるんだって。
ぜんぶ、間違ってた。
お母様は愛人だし、お父様は浮気者。実家に行くって言ったのは、お父様の実家のことだった。お父様は、レズリー伯爵との同盟を解消され実家に帰された。
お父様の実家はレズリー伯爵家との同盟が無くなったと広まり、攻められて滅んだそうだ。お父様とお母様は、おそらく死んだのではないかと言われている。
私は何も知らずに、お姉様達を悪者扱いしてた。無理矢理お父様と結婚するなんて酷いって言った事もある。それでも、お姉様達は私に意地悪なんかしなかった。私もお母様も3食食事は出ていたし、毒なんて盛られなかったし、貴族らしい服も着れていた。
だけど、お姉様はお母様にしょっちゅう毒を盛られていたし、お父様は自分の妻を殺そうとしたそうだ。そんな人達から生まれた娘が私。
悪者は、私だった。
お姉様に意地悪された事なんてなかった。伯爵家のお金を無駄遣いしないようにって言われた事があるくらいだ。そりゃ、仲良くはなかった。でも、無視なんてされなかったし、私がマシュー様を好きだって言った時は、彼は危険だってちゃんと教えてくれたし、心配してくれた。
なんで私は、お姉様はマシュー様を取られたくないから嘘を吐いてると思ったんだろう。マシュー様と一緒に居た時のお姉様は、一度も笑ってなかったのに。
なんで……お姉様が意地悪だなんて思い込んだんだろう。
マシュー様との結婚を勧めたのはお姉様だった。やっと私達の愛が通じたんだって思ってたけど、違った。お姉様は、私を見限ったんだ。あの時のお姉様は、私を憐れんでいた。優越感に浸ってた私は、お姉様の悲しそうな顔を見ても、ザマアミロとしか思わなかった。
あの時、少しでもお姉様に優しくしてたら、お姉様は私を助けてくれたかもしれないのに。お姉様が言えば、私の結婚を無しにする事は出来た。だって、私はレズリー伯爵家とは無関係な人間なんだもの。
だけど、レズリー伯爵家の人達は、穏便に私達を追い出す為に私がレズリー伯爵家の令嬢であると嘘をついた。いや、正確には彼らは嘘をついてない。
こっちが勝手に勘違いしただけ。彼らは、訂正しなかっただけ。冷静になれば、ヒントはたくさんあった。
お父様達と一緒に結婚式をして舞い上がっていたけど、リリア様を害したお父様は伯爵に殺されていてもおかしくなかった。私も、お母様もそう。
あんなに穏やかに物事が進んだ時点で、おかしかったのだ。ニコニコと笑いながら私達を祝福したレズリー伯爵夫人。あの人が、きっと一番怒ってる。離婚しないようにって婚姻誓約書を書かせたのもあの人だし、私が不審な死を遂げたらお姉様が悲しむと微笑んでレズリー伯爵を操ったのもあの人だ。
おかげで、私は殺されずに生きてる。レズリー伯爵と同盟は結べなかったけど、怒らせるなんて恐ろしい事は出来ない。お姉様と半分だけでも血が繋がっているおかげで、お姉様が心配してくれてるおかげで、私は生きている。
だけど、未来に希望が持てない。あの男は浮気三昧だ。私は何も言えない。言ってはいけないそうだ。妻は大人しく夫に従うものらしい。
そんなの、知らない。
誰も教えてくれなかったんだもの。
結婚してから、楽しい事が何もない。体面もあるからってパーティーに連れて行かれたけど、みんなからヒソヒソと悪口を言われている。帰りたい。でも、帰る場所はない。誰も教えてくれなかったから、ダンスの仕方も、マナーも、なにもかも分からない。
結婚して1ヶ月、マシュー様は一度も笑ってくれない。
「さっさとしろって言ってるだろ! このグス!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
毎日殴られ、罵倒される。あんなに優しかったマシュー様のご両親に蹴られた事もある。
だけど、逃げられない。逃げる場所がない。
最初は良かった。物凄くみんなチヤホヤしてくれた。お姉様が駄目って言って作れなかったフライドポテトやフライドチキンが作れたし、みんな美味しいって褒めてくれた。
だけど、お祖父様が訪ねて来てから全てが変わった。正確には、お祖父様ではなかった。私はあの家とは無関係な人間だった。お母様もお父様も貴族だけど、家を継ぐ訳ではないしそのうち貴族籍を失う予定だったらしい。結婚した事で、本当に貴族籍を失った。
私はお父様とお母様が正しいと思い込んでいた。お姉様達は、お父様とお母様を引き裂く悪者。お父様とお母様こそ真実の愛で結ばれた夫婦だって思ってた。レズリー伯爵家だって、お父様のものだと思ってた。お祖父様も、お父様の父親だと思ってた。だから、お父様とお母様の結婚も、私とマシュー様の結婚も祝福してくれるんだって。
ぜんぶ、間違ってた。
お母様は愛人だし、お父様は浮気者。実家に行くって言ったのは、お父様の実家のことだった。お父様は、レズリー伯爵との同盟を解消され実家に帰された。
お父様の実家はレズリー伯爵家との同盟が無くなったと広まり、攻められて滅んだそうだ。お父様とお母様は、おそらく死んだのではないかと言われている。
私は何も知らずに、お姉様達を悪者扱いしてた。無理矢理お父様と結婚するなんて酷いって言った事もある。それでも、お姉様達は私に意地悪なんかしなかった。私もお母様も3食食事は出ていたし、毒なんて盛られなかったし、貴族らしい服も着れていた。
だけど、お姉様はお母様にしょっちゅう毒を盛られていたし、お父様は自分の妻を殺そうとしたそうだ。そんな人達から生まれた娘が私。
悪者は、私だった。
お姉様に意地悪された事なんてなかった。伯爵家のお金を無駄遣いしないようにって言われた事があるくらいだ。そりゃ、仲良くはなかった。でも、無視なんてされなかったし、私がマシュー様を好きだって言った時は、彼は危険だってちゃんと教えてくれたし、心配してくれた。
なんで私は、お姉様はマシュー様を取られたくないから嘘を吐いてると思ったんだろう。マシュー様と一緒に居た時のお姉様は、一度も笑ってなかったのに。
なんで……お姉様が意地悪だなんて思い込んだんだろう。
マシュー様との結婚を勧めたのはお姉様だった。やっと私達の愛が通じたんだって思ってたけど、違った。お姉様は、私を見限ったんだ。あの時のお姉様は、私を憐れんでいた。優越感に浸ってた私は、お姉様の悲しそうな顔を見ても、ザマアミロとしか思わなかった。
あの時、少しでもお姉様に優しくしてたら、お姉様は私を助けてくれたかもしれないのに。お姉様が言えば、私の結婚を無しにする事は出来た。だって、私はレズリー伯爵家とは無関係な人間なんだもの。
だけど、レズリー伯爵家の人達は、穏便に私達を追い出す為に私がレズリー伯爵家の令嬢であると嘘をついた。いや、正確には彼らは嘘をついてない。
こっちが勝手に勘違いしただけ。彼らは、訂正しなかっただけ。冷静になれば、ヒントはたくさんあった。
お父様達と一緒に結婚式をして舞い上がっていたけど、リリア様を害したお父様は伯爵に殺されていてもおかしくなかった。私も、お母様もそう。
あんなに穏やかに物事が進んだ時点で、おかしかったのだ。ニコニコと笑いながら私達を祝福したレズリー伯爵夫人。あの人が、きっと一番怒ってる。離婚しないようにって婚姻誓約書を書かせたのもあの人だし、私が不審な死を遂げたらお姉様が悲しむと微笑んでレズリー伯爵を操ったのもあの人だ。
おかげで、私は殺されずに生きてる。レズリー伯爵と同盟は結べなかったけど、怒らせるなんて恐ろしい事は出来ない。お姉様と半分だけでも血が繋がっているおかげで、お姉様が心配してくれてるおかげで、私は生きている。
だけど、未来に希望が持てない。あの男は浮気三昧だ。私は何も言えない。言ってはいけないそうだ。妻は大人しく夫に従うものらしい。
そんなの、知らない。
誰も教えてくれなかったんだもの。
結婚してから、楽しい事が何もない。体面もあるからってパーティーに連れて行かれたけど、みんなからヒソヒソと悪口を言われている。帰りたい。でも、帰る場所はない。誰も教えてくれなかったから、ダンスの仕方も、マナーも、なにもかも分からない。
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