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22【フィリップ視点】
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護衛を命じられたマリベル様は、予想していたより100倍美しく可憐なご令嬢だった。
ガンツ様にそっくりな清廉潔白で、思慮深いお方だった。領民の事を考えて保存食を作ろうとする貴族を俺は知らない。
「マリベルは良い子じゃぞ。気に入ったなら、口説いても構わん」
ガンツ様からは、そう言われていた。あの目は冗談ではなく本気だった。ガンツ様への恩は一生かけても返しきれない。嫌われ者だった俺を、騎士にしてくれた。嫌われていた家族が、俺を認めてくれた。だからこそ、俺はマリベル様に惹かれてはいけない。
彼女は美しく賢い。俺のような野蛮な男が触れて良いお方ではない。彼女なら、王家に嫁ぐ事も可能だろう。ガンツ様が溺愛しているというだけで彼女の価値は公爵令嬢クラスだからな。実際、何度か王家から縁談を申し込まれそうになった事があるとガンツ様が仰っていた。
王家を除いて、貴族の婚約は15歳の成人を迎えてからと決まっている。幼い頃から婚約者を決めても、戦いで滅びる貴族が多いからな。だから正式な申し込みはなかったが、第二王子がマリベル様に目を付けていたらしいと聞いている。
本当なら、マリベル様は成人した瞬間に婚約の申し込みが殺到する筈だった。それなのに、父親が余計な事をしたせいでマリベル様は婚約者に捨てられた令嬢となってしまわれた。
一度婚約が無かった事になってしまうと、彼女への婚約申込みはなくなってしまうだろう。王子も、一度婚約をした令嬢に求婚する事はない。
下らない事だと思うが、貴族の男どもは婚約が無くなった令嬢に見向きもしない。実態は違うのだと訴えて回りたい。よく見ろ! マリベル様はこんなにも魅力的なのに! そう叫びたくてたまらない。
だからこそガンツ様は、俺のような男に声をかけたのだ。最初は、本当にガンツ様の身内になれる。そんな浅ましい事を考えていた。婚約が無くなった令嬢なら、俺でもつけ入る隙があるだろうと。
だけど、マリベル様にお会いしたらそんな気持ちは吹き飛んだ。
こんなに神々しいお方は、やはり王家にこそ相応しい。
ガンツ様が戻られたら、どうにかならないかとご相談しよう。ガンツ様は、王家の信頼も厚い。ガンツ様が訴えれば、マリベル様の誤解は解ける。そうなれば王子からの婚約申し込みもあるかもしれないし、伯爵家以上の家がたくさん彼女に求婚するだろう。俺はそれまで、命に換えても彼女を守ればいい。
余計な事は考えるな。こんな俺を優しいと言ってくれた方は初めてだった。優しく微笑んで菓子を薦めてくれた姿は天使のようだった。俺の事を、否定せず肯定してくれた。
……それでも、いくら素晴らしい方でも……いや、素晴らしい方だからこそ……。俺は彼女に惚れてはならん。
ガンツ様にそっくりな清廉潔白で、思慮深いお方だった。領民の事を考えて保存食を作ろうとする貴族を俺は知らない。
「マリベルは良い子じゃぞ。気に入ったなら、口説いても構わん」
ガンツ様からは、そう言われていた。あの目は冗談ではなく本気だった。ガンツ様への恩は一生かけても返しきれない。嫌われ者だった俺を、騎士にしてくれた。嫌われていた家族が、俺を認めてくれた。だからこそ、俺はマリベル様に惹かれてはいけない。
彼女は美しく賢い。俺のような野蛮な男が触れて良いお方ではない。彼女なら、王家に嫁ぐ事も可能だろう。ガンツ様が溺愛しているというだけで彼女の価値は公爵令嬢クラスだからな。実際、何度か王家から縁談を申し込まれそうになった事があるとガンツ様が仰っていた。
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本当なら、マリベル様は成人した瞬間に婚約の申し込みが殺到する筈だった。それなのに、父親が余計な事をしたせいでマリベル様は婚約者に捨てられた令嬢となってしまわれた。
一度婚約が無かった事になってしまうと、彼女への婚約申込みはなくなってしまうだろう。王子も、一度婚約をした令嬢に求婚する事はない。
下らない事だと思うが、貴族の男どもは婚約が無くなった令嬢に見向きもしない。実態は違うのだと訴えて回りたい。よく見ろ! マリベル様はこんなにも魅力的なのに! そう叫びたくてたまらない。
だからこそガンツ様は、俺のような男に声をかけたのだ。最初は、本当にガンツ様の身内になれる。そんな浅ましい事を考えていた。婚約が無くなった令嬢なら、俺でもつけ入る隙があるだろうと。
だけど、マリベル様にお会いしたらそんな気持ちは吹き飛んだ。
こんなに神々しいお方は、やはり王家にこそ相応しい。
ガンツ様が戻られたら、どうにかならないかとご相談しよう。ガンツ様は、王家の信頼も厚い。ガンツ様が訴えれば、マリベル様の誤解は解ける。そうなれば王子からの婚約申し込みもあるかもしれないし、伯爵家以上の家がたくさん彼女に求婚するだろう。俺はそれまで、命に換えても彼女を守ればいい。
余計な事は考えるな。こんな俺を優しいと言ってくれた方は初めてだった。優しく微笑んで菓子を薦めてくれた姿は天使のようだった。俺の事を、否定せず肯定してくれた。
……それでも、いくら素晴らしい方でも……いや、素晴らしい方だからこそ……。俺は彼女に惚れてはならん。
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